韓国の大学(読み)かんこくのだいがく

大学事典 「韓国の大学」の解説

韓国の大学
かんこくのだいがく

大学制度の概要]

社会の需要拡大に応じて多様化が進められてきた韓国の大学は,その種類によってさまざまな特色があるが,設置する学位課程を基準にすると,大学と専門大学の二つに大きく分類される。大学は4年制で,学士課程を設置する。医学部など,分野によっては4年以上の修学が必要となる。高等教育法第28条は,大学の目的について「人格を陶冶し,国家と人類社会の発展に必要となる深奥な学術理論とその応用方法を教え,研究し,国家と人類社会に寄与すること」と定めている。量的に最も多いのは大学院(修士課程と博士課程)を設置できる総合大学で,ほかに初等学校教員の養成機関である教育大学,有職者をおもな対象とする産業大学や技術大学,成人学習者をおもな対象とする放送通信大学やサイバー大学などがある。

 専門大学(韓国)は2~3年制の短期高等教育機関で,準学士相当の専門学士課程を設置する。高等教育法第47条が「専門大学は社会各分野に関する専門的な知識と理論を教え,研究し,才能を練磨して,国家社会の発展に必要な専門職業人を養成することを目的とする」と定めるとおり,おもに職業教育を提供する機関である。室内建築デザイン科やホテル外食産業科など,細分化された職業分野に対応する学科を設置し,より実践的な職業教育を重視している。そのため,教員も企業での就業経験がある者が少なくないが,専任教員の6割は博士号を所持している。施設・設備基準も4年制大学よりは緩いものの,一定の校地・校舎面積を有し,運動場や図書館などの各種施設を整備していなければならず,高等教育機関としての体裁が整えられている。

 2015年現在,総合大学189校,教育大学10校,専門大学138校,産業大学2校,技術大学1校,放送通信大学1校,サイバー大学19校の合計360校が設置されている。設置主体別にみると国立大学47校,公立大学8校,私立大学305校で,80%以上を私立が占める一方,公立大学の割合は日本と比べて非常に低い。高卒者の大学進学率は70%以上で,旺盛な進学熱は私立大学によって支えられている。

[大学の歴史的展開]

京城帝国大学以外はすべて旧制専門学校に留め置かれるなど,日本統治下では抑圧されていた高等教育だが,解放後は既存の専門学校を中心に多くの大学が認可を受けた。国の重点的な支援を受けたソウル大学校は著しい発展をみせ,首都圏に位置する有力私学も,その歴史と伝統を背景に全国から学生を集めた。

 1950年に朝鮮戦争が勃発すると,韓国の国土は壊滅的な被害を受けたが,その後の「漢江の奇跡」と呼ばれる急激な経済成長により,高等教育に対する需要も大きく拡大した。1970年以降,既存の大学の入学定員増加や大学新設などが相次ぎ,高等教育の量的拡大が進行した。1990年代に入ると,大学設置に関して準則主義が採られるようになり,再び量的拡大期を迎えた。1993年に成立した金泳三政権は,国民のニーズを政策に大きく反映させる手法を採り,大学設置規制の緩和とそれに伴う大学数の増加を促した。その結果大学数は,1990年から2000年の10年間で専門大学も含めて95校も増加した。

 また,1990年代後半には,高等教育政策に大きな影響を与える二つの出来事が起こった。1996年のOECD加盟と,アジア金融危機に伴う1997年のIMF管理体制という二つの経験は,国際的競争力を備えた人材の育成が急務であることを政府に実感させた。高等教育では,世界水準の教育・研究機関となることを目標に,「選択と集中」を通した大学の質的向上が政府の主導で強力に取り組まれるようになった。「頭脳韓国21」事業(通称BK21)や「WCU(World Class University)」事業など,競争的資金に基づく大規模な教育・研究支援事業が推進され,有力大学を中心に一定の成果をあげたと評価される。

 一方,競争力に乏しい大学の間では,とくに地方の私学を中心に統廃合が進められている。折からの18歳人口の減少は政府の大学構造調整政策を後押しし,大学類型ごとの統廃合モデルを示した政府計画が策定された。政府による大学再編の試みは2000年代に入って活発となったが,李明博政権期(2008~13年)になるとその動きが加速し,運営に問題のある大学に対して財政支援事業や奨学金事業への参加を制限する仕組みが導入されている。

 財政面では,政府は2010年に公表した「高等教育財政投資10ヵ年基本計画(2011~2020年)(韓国)」において,高等教育に対する公財政支出をOECDの平水準であるGDP比1%に引き上げる目標を掲げた。学生の授業料負担を軽減するため,給付型奨学金制度も導入され,拡充が続けられている。量的拡大の一途を辿ってきた韓国の大学だが,膨張した高等教育市場を適正規模に整えるとともに,質的な向上を図る挑戦が続いている。
著者: 松本麻人

参考文献: 馬越徹『韓国大学改革のダイナミズム―ワールドクラス(WCU)への挑戦』東信堂,2010.

参考文献: 韓国教育部・韓国教育開発院『教育統計年報』各年度版.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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