言語音声における変化。言語音声は一部ずつ絶えず変化している。そのため、小規模でわずかな音声の変化も、長い期間を経れば、音韻体系までも大きく変貌(へんぼう)させてしまう。音韻変化には、〔1〕個々の音が内的原因から個別的に変化する場合と、〔2〕隣接する音の影響により条件的に変化する場合とに分けられる。
〔1〕個別的変化は、古い世代と若い世代との間にみられる発音方法の相違に基づくとする説と、調音運動における労力をできる限り節減しようとする経済的傾向に帰因するという説がある。
〔2〕条件的変化については、ある音が隣接する音から調音の面で影響を受ける同化作用が問題となる。(a)前の音が後の音を同化する順行同化は、英語の複数形cats[kæts]「ネコ」とdogs[dɔgz]「イヌ」の複数語尾-sにおける発音の仕方にみられる。(b)後の音が前の音を同化する逆行同化は、five pence[faifpens]「5ペンス」とfive[faiv]を比較すればわかる。
また、日本語のkutiwa→kutuwa「くつわ」では、母音uが子音tを飛び越えて次の母音iに遠隔の同化を行っている。変化においてある音声が変わると、それにつれて他の音も変わることがある。中世英語でmeet[me:t]が[mi:t]「会う」と母音が変化すると、mite[mi:t]のほうも[mait]「ダニ」に変わった。このように、音韻体系のなかで音韻変化は連鎖反応をおこす、という見解もある。
[小泉 保]
『池上二良編『言語の変化』(『講座言語 第2巻』1980・大修館書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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