中国音韻学の術語。縦軸に声母,横軸に韻母をとり,縦横の組合せによって該当する個所に代表字を配したもので,旧時の音節表である。主母音および介母の違いによって,韻母を一等,二等,三等,四等に4区分した音節表を〈等韻図〉と称する。一般に韻図と等韻図は通じて用いられるが,一方で韻母を開口呼〈介母ゼロ〉,合口呼〈介母-u-〉,斉歯呼〈介母-i-〉,撮口呼〈介母-iu-〉の4呼の別によって区分する韻図などもあるから,厳密にいえば全同でなく,等韻図は韻図の一種ということになる。現存最古の韻図は,唐末五代の作とされる,等韻図の《韻鏡》である。韻図の出現は,韻母部分を中心とした音韻体系の把握がさらに声母部分の観察,分析へと進んだことを意味する。古くから双声,畳韻という音声上のレトリックがありながら,また反切という注音方法で声母部分の観察,分析が進められたはずでありながら,声母すなわち頭子音を音声学的に把握,分類することは,中国人にとって容易でなかったらしい。《韻鏡》にみられる七音の枠,すなわち頭子音の調音部位による唇音・舌音・牙音・歯音・喉音・半舌音・半歯音の7区分,および各枠内の清・次清・濁・清濁という調音方法の区別は,したがって,インド音声学の影響を思わせる。頭子音の代表字を定めて,それを字母と呼ぶが,元来仏典においてアルファベットを意味した〈字母〉が頭子音の個々を意味するようになるのは,インド文字の書写法を仲介にして,はじめて説明可能である。かくのごとく,頭子音の把握にインド音声学の影響を想定することは,許されるであろう。韻図が概して初期のものほど音声学的に精密であり,時代が下るにつれて中国化され,その度合を減ずる傾向にあるのも,このためと考えられる。
執筆者:慶谷 寿信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…中国の旧時の音節表。韻図ともいうが,厳密には韻図の一種。縦軸に声母,横軸に韻母をとり,縦横の組合せによって該当個所に代表字を配したものである。…
※「韻図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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