頸肩腕障害cervicalsyndromeともいう。長期間にわたって,一定の姿勢が強制されつつ,上肢を反復して過度に使用する労働で発生する職業性の健康障害。1960年代に,キーパンチャー,タイピストなどの打鍵作業に従事する労働者の間に多発したのが始まりで,以後,スーパーマーケットの会計機取扱いの労働者の間にも発生した。機械を使用しない職種でも,前かがみの姿勢で作業を続けたり,重量物を扱う場合,ベルトコンベヤ作業で作業密度の高い組立作業を行う場合や保育士の労働など,上肢を過密な頻度で使用する作業でも発生している。この際,神経緊張,冷えは,症状の発生促進,加重の因子となる。
自覚症として,後頭部,肩,腕,手,指などの部位に,痛み,しびれ,こり,冷え,知覚異常などの訴えがあり,また,目の疲労,頭痛,睡眠障害,情緒不安定の訴えなどもみられるような健康障害が現れる。作業によっては,重量物の取扱いに無理な姿勢が加わるため,腰痛,背痛なども加わってくる。医学的な検査では,筋肉の硬結,圧痛,知覚障害,末梢の循環障害,神経の圧痛,神経テストの陽性などが確かめられる。
こうした職業性の健康障害は,日本では,すでに古く《日本書紀》の中に写経生の病気として記され,〈書痙〉として知られていた。医師の詳しい観察としては,イタリアのラマッツィーニBernardino Ramazzini(1633-1714)が1700年その著書《働く人々の病気》の中で,書記,写字生の病気として記し,その発症要因として,手指および上肢のみならず,姿勢の拘束性および精神・神経の緊張を挙げて,症状と作業の関連を総合的に把握して説明しており,この見解は今日にも通ずる。
労働省は1964年の通達で,これをキーパンチ作業にもとづく障害として業務上疾病の扱いにしたが,しだいに広範な職種に発生するようになったことから,78年の法令改正の際に,〈作業態様にもとづく疾病〉の一つとして,業務上疾病のリストに加えた。
予防のためには,作業の一連続の長さと休憩との組合せを工夫し,休息では気分の転換,適時に軽い運動とマッサージを加え,作業姿勢の適正化,機械の改良,作業方式の改善,作業環境(気温とくに冷え,照明)の改善,健康診断の励行が必要である。
→職業病
執筆者:山田 信也
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