ヒトには胸部と腹部の間に
食道が通る穴が食道裂孔で、この穴を通って腹腔内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態を、食道裂孔ヘルニアといいます。
食道裂孔からの胃の脱出は腹圧のかけ具合によっても変化しますし、立ったり座ったりしている時と横になっている(
生まれつき食道裂孔が緩く胃が脱出している先天性の食道裂孔ヘルニアの症例もあります。また、高齢となり体の組織が緩むとともに食道裂孔も緩んで食道裂孔ヘルニアとなる人もいます。背中の曲った(
そのほか、
食道裂孔ヘルニアがあるだけで自覚症状がなければ、単にヘルニア状態にあるだけで問題となりません。自覚症状や逆流性食道炎を合併して初めて、“ヘルニア症”ともいうべき病態を呈します。
自覚症状としては①胸やけ、②胸痛、③つかえ感が三大症状で、これは逆流性食道炎の症状と同じです。症状をとくに強く自覚するのは夜間就眠時(とくに明けがた)、かがんで草取りなどしている時、食後しばらくした時、酒・たばこ・コーヒー・ココア・チョコレート・油ものなどを摂った時などです。
診断には①バリウムによるX線造影、②内視鏡が一般に用いられます。特殊なものとして食道内圧測定があります。
X線造影所見から、①
X線造影を行うにあたっては、あお向けとするだけでなく、頭を下げたり、息ごらえをして腹圧をかけたりするとはっきり造影されます。横隔膜上食道憩室(けいしつ)との区別を要することがあります。
形態的変化であるため、治療は外科的手術になります。脱出している胃を腹腔内に引きもどし、開大している食道裂孔を縫縮し、逆流防止手術を追加します。食道のまわりに胃底部を全周性に巻きつけるニッセン法、亜全周性のトペー法、ドール法、
つかえ感や胸やけ・胸痛があったら消化器科に受診して、上部消化管造影と内視鏡の検査を受けるとよいでしょう。
食道裂孔ヘルニアが軽ければ、とくに治療の必要はありません。逆流性食道炎があればH2受容体
幕内 博康
食道が横隔膜を貫通する部位に発症します。全年齢を通して発症し、さまざまな症状があります。
食道は
胸やけ(食道炎)、貧血(食道炎から潰瘍ができ出血する)、嘔吐、栄養障害、発育障害(胃が陥入しているので、十分な経口栄養摂取ができない)などを示します。
上部消化管造影検査、内視鏡検査で診断が可能です。
開腹して腹部食道、胃を腹腔内に引き下ろし、食道裂孔部を
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
横隔膜ヘルニアの一種。食道は横隔膜にある食道裂孔を通り胃につながっているが、本来は腹腔(ふくくう)内にある胃の一部もしくは全部が、この孔(あな)を通って胸腔内に脱出した状態をいう。腹腔内臓器(ほかに結腸や小腸など)が胸腔内に脱出する横隔膜ヘルニアのなかで、胃が約95%を占める。先天的に食道が短く胃が胸腔内に引き込まれて脱出している短食道胸胃もあるが、後天的に脱出する場合が多く、鉗子(かんし)滑脱型と傍食道型およびその混合型に分類される。鉗子滑脱型は食道胃接合部の噴門部分と胃の一部が胸腔内に脱出したもので、全体の約80%を占める。傍食道型は食道胃接合部は腹腔内のままで、胃の一部が食道周辺を通り、胸腔内に脱出している。加齢による食道裂孔の弛緩(しかん)および開大によって起こり、また肥満、妊娠、喘息(ぜんそく)、慢性気管支炎、努責(どせき)(息張ること)、前傾姿勢などによる腹圧上昇も原因となる。40歳代以上の女性に多い。自覚症状がない場合も多いが、逆流性食道炎(胃食道逆流症)を併発する場合があり、胸やけ、胸痛、胸部不快感などを伴う。夜間睡眠時や食事の直後に症状が強く現れることがあり、喫煙、飲酒、脂肪分の多い食事なども影響するとされる。診断はX線造影や内視鏡検査により臓器の位置および状態を確認して行う。予防のためには、消化のよい食事を少量ずつ何回もとる、摂食後の横臥(おうが)を避ける、肥満に注意し便秘を起こさないなどの事項を心がける。自覚症状がない、または症状が軽い場合はそのまま放置してもよいが、逆流性食道炎の症状が著しい場合の治療は、H2受容体拮抗(きっこう)薬(ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI:Proton Pump Inhibitor)の投与による内科的な薬物療法が第一選択となる。難治例では、脱出した胃に加え食道も腹腔内に引き入れ胃ごと縫い合わせるニッセン手術(Nissen fundoplication)やヒル法(Hill method)などの外科的療法を用いる。傍食道型食道裂孔ヘルニアでは手術が第一選択となる。近年では腹腔鏡下手術も可能となり、短期入院でも治療できるようになった。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…大腿のつけ根が膨隆する大腿ヘルニアfemoral hernia(股ヘルニアともいう)は中年以降の女性にみられる。内ヘルニアとしては,横隔膜を通して腹部の内臓が胸腔内に脱出する横隔膜ヘルニアdiaphragmatic herniaが代表的で,これにはボホダレック孔ヘルニアと食道裂孔ヘルニアが含まれる。これら以外の網膜ヘルニア,十二指腸空腸ヘルニアなどの内ヘルニアはまれである。…
※「食道裂孔ヘルニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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