米または麦類を炒(い)ってから粉末にしたものの総称。「こがし」ともいう。オオムギを原料とした麦こがし、俗に「はったい粉」とよばれるものが、比較的よく知られている。以前は塩を混ぜてそのまま食べたり、湯で練って食していたようである。現在は砂糖を混ぜて型押ししてつくる麦落雁(らくがん)などの菓子の原料とか、砂糖を加え湯で練って食べるといった用い方をする。また、シソやサンショウの実、陳皮(ちんぴ)(ミカンの皮)などの粉末や、糯米(もちごめ)でつくる小さいあられのことも香煎という。単独または混合して湯を注ぎ、お茶がわりに飲用する。大唐米(だいとうまい)(イネの一品種で赤ばんだ米)を主材料に、陳皮、サンショウ、ハトムギ、ウイキョウなどをあわせた香煎は、江戸時代以前からあり、湯を注いで飲用していたという。
麦こがしなど,麦や米をいって粉末とした〈こがし〉(〈はったい〉〈はったい粉〉とも)を指すこともあるが,一般にはそうしたこがしにサンショウ,シソ,陳皮(ちんぴ)(ミカンの皮)などの粉末と少量の塩を加えたものをいい,湯を注いで茶のように飲用する。江戸時代以前から大唐(たいとう)米と呼ばれた赤米(あかごめ)を主材料としてさかんに用いられたもので,《犬筑波集》には〈日本のもののくちのひろさよ たいとうをこかしにしてや飲ぬ覧〉の句が見られる。《合類日用料理抄》(1689)には,薏苡仁(よくいにん)(ハトムギの種子),サンショウ,陳皮,大唐米,ウイキョウ(茴香)を配合する製法が記載され,名物として知られた京都祇園の香煎はこれだとしている。また1587年(天正15)10月,豊臣秀吉が北野の大茶会を催したときの触れには〈茶なきものはこがしにても苦しからず〉とも見えている。
執筆者:鈴木 晋一
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…麦芽は水あめとして菓子用にもされる。そのほか,みそ,しょうゆの原料にもされ,またいって粉にして麦焦し(ハッタイ粉,香煎)にする。オオムギは飼料としても重要で,世界とくに欧米の需要のほとんどは飼料用である。…
…見合いや婚礼の席で茶のかわりに用いられるのは,〈お茶を濁す〉などと使われる茶を避けるためだという。《嬉遊笑覧》(1830序)に〈近ごろはじまった〉とする記載があり,明治初期の東京では繁華な下町の大通りの夏の夜店の中には,床几(しようぎ)に赤いケットをかけて並べた桜湯の店も見られ,麦湯,甘酒,香煎(こうせん)などもあきなっていたという。香煎に湯を注いで飲ませた〈煎物(せんじもの)売〉は職人歌合や狂言に見えるが,そうした〈煎物売〉の商品の一つとして,すでに中国で行われていたランの花の塩漬などにヒントを得て考案されたものと思われる。…
※「香煎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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