朱子学者・駿台先生室鳩巣(むろきゅうそう)の江戸時代を代表する随筆集。仁義礼智(ち)信の各集五巻からなる。1732年(享保17)鳩巣75歳のとき、その前年に江戸・駿河台(するがだい)の居宅で諸生に語った雑話を書き集めたもので、同年自序が付され、没後の1748年(寛延1)に刊行された。朱子学を正学とする立場から当時流行の伊藤仁斎(じんさい)の古義学や荻生徂徠(おぎゅうそらい)の古文辞学を批判した。人としての生き方を平易温雅な和文で綴(つづ)って、話題は広く古今和漢の諸事にわたり、政治、道徳から風俗、学問、詩文、軍法にまで及んでいる。議論よりも実行を重んじ、人材の活用を説き、人心を活物(かつぶつ)ととらえるなど、本書に柔軟な姿勢が認められるのは、鳩巣の円熟とともに、そうした面を強調した仁斎や徂徠を意識してのことでもあろう。「後世に至って正学の開くる端にも」なればと執筆された本書が、初版以後、版を重ねて、とくに明和(めいわ)~寛政(かんせい)年間(1764~1801)の朱子学復興に影響を与えた点も見逃すことができない。
[高橋博巳]
『『駿台雑話』(『日本随筆大成第三期 第六巻』所収・1977・吉川弘文館)』
朱子学者室鳩巣が晩年に著した随筆集。1732年(享保17)成立。没後の50年(寛延3)刊行。5巻。駿河台の邸を来訪した門弟たちに語る体裁で,みずからの学問的経歴を述べた〈老学自叙〉や,著者の学問観,道徳観,人物評,古今の逸話等が教訓風に書かれている。仮名を交えた味のある文章で,名文と評されてもいる。著者の思想はもとより,当時の人物の逸話を知るうえでも役立つ書である。岩波文庫,《日本倫理彙編》所収。
執筆者:桂島 宣弘
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