高温障害(読み)コウオンショウガイ

デジタル大辞泉 「高温障害」の意味・読み・例文・類語

こうおん‐しょうがい〔カウヲンシヤウガイ〕【高温障害】

熱中症

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六訂版 家庭医学大全科 「高温障害」の解説

高温障害(熱けいれん/熱虚脱/熱射病(日射病))
こうおんしょうがい(ねつけいれん/ねつきょだつ/ねっしゃびょう(にっしゃびょう))
Heat injury (Heat cramp, Heat collapse, Heatstroke)
(中毒と環境因子による病気)

どんな病気か

 長時間、高温多湿環境にさらされることによって発生する全身性の温熱障害で、熱中症(ねっちゅうしょう)と呼ばれています。熱中症には、体温の上昇を伴わない熱虚脱・熱けいれんと、体温の上昇を伴う熱射病日射病)があります。いずれも、基本的病態は同一で、熱による皮膚温の上昇が誘因となります(図8)。

原因は何か

 長時間、高温多湿環境にさらされることが原因です。乳幼児や高齢者、不眠・疲労・脱水・基礎疾患(高血圧糖尿病、心疾患、アルコール中毒、貧血甲状腺(こうじょうせん)疾患、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)など)がある人では、熱中症が発生しやすくなります。

症状の現れ方

①熱虚脱

 最も多くみられる熱中症です。頭重感、頭痛、吐き気倦怠感(けんたいかん)、脱力感などで発症し、進行すると、脳血流の減少によるめまい耳鳴り、血圧の低下による顔面蒼白や冷汗などが現れます。さらに、意識喪失がみられることもあります。通常、体温の上昇はみられません。

②熱けいれん

 塩分を補給せず水分だけを補給した場合に、低ナトリウム血症が増強水中毒(みずちゅうどく)の状態)されて発症します。口渇めまい、頭痛、吐き気、嘔吐腹痛、身体各部の有痛性の筋れん縮・けいれんなどが現れます。れん縮は手足の筋にみられることが多く、胃に生じることもあります。通常、体温の上昇はみられません。

③熱射病(日射病)

 熱の放散が障害され、体内の蓄熱量が増加するため、体温が上昇します。この状態を熱疲労といいます。放置すれば、体温はさらに上昇し、ついには体温調節中枢の破綻(はたん)を来して熱射病に移行します。

 熱射病では、体温調節中枢が破綻しているため、体温が41℃以上にもなります。初期には、著明な発汗や口渇、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、倦怠感などが認められます。進行すると、皮膚は乾燥し熱く紅潮して、けいれんや意識障害、乏尿・無尿などがみられます。

検査

 検査が必要になるのは、熱中症のなかでも熱射病(日射病)です。熱射病では、病態の把握と重症度の判定のために次のような検査が必要になります。

 胸部X線検査(肺水腫(はいすいしゅ)の検索)、頭部CT検査(脳浮腫(のうふしゅ)の検索)、血清AST、ALTLDHの測定(肝障害時には上昇)、血清尿素窒素(ちっそ)・クレアチニン濃度の測定(腎障害時には上昇)、血清CPKの測定(筋融解時(きんゆうかいじ)には上昇)、血小板数・プロトロンビン値・活性化部分トロンボプラスチン時間・FDPの測定(播種性血管内凝固(はしゅせいけっかんないぎょうこ)症候群の検索)、動脈血ガス分析(アシドーシスの検索)、血清ナトリウム・カリウム・クロール濃度の測定(電解質異常と程度の検索)、白血球数・ヘモグロビン濃度の測定(脱水の存在で上昇)です。

診断

 長時間、高温多湿環境にさらされた病歴が重要です。各病型は、臨床症状の現れ方が診断の決め手になります。多くの場合、いくつかの病型が混在して発症します。意識障害を来す疾患やけいれんを起こす疾患、発熱を伴う疾患との区別が必要になります。

治療の方法

 熱中症では衣服を脱がせ、涼しい環境に移して治療を開始することが基本です。軽症の熱虚脱や熱けいれんでは、スポーツドリンクや食塩水(水500mlに対して茶さじ1杯約5gの食塩)を飲用します。重症例では、生理食塩水や乳酸リンゲル液などの輸液療法が必要です。予後は良好です。

 熱射病(日射病)は入院治療が原則です。迅速に体温を降下させ、循環動態を観察しながら輸液療法を行うことが必要です。また、ショックや播種性血管内凝固症候群、多臓器不全などの合併症に対する治療も必要です。

 意識障害、とくに昏睡が4時間以上続いて回復しない場合や播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を合併した場合、予後は不良です。

病気に気づいたらどうする

 軽症の熱虚脱や熱けいれんでは、涼しい所で安静をとり、スポーツドリンクや食塩水を飲用してください。重症例や熱射病(日射病)では、内科を受診して、治療を受けてください。

 日常生活では、長時間の高温多湿環境にさらされないように注意し、水分や塩分の補給を忘れないようにしましょう。

柳澤 裕之


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高温障害」の意味・わかりやすい解説

高温障害
こうおんしょうがい

高温度下の労働や運動によって体温調節や循環器系の機能が損なわれたり、水分や塩分などの代謝のバランスを失ったりしておこる障害をいい、熱中症ともよばれる。発生機構の相違から次の三つの病型に大別される。

[重田定義]

熱けいれん症

ボイラーなどの火を扱う作業者や坑内作業者によくおこる。筋肉重労働者に典型的な病型であり、職場でもっとも多くみられる。多量の発汗から体内の塩分が欠乏し、そのために血液中の電解質(とくにナトリウムイオン)のバランスが崩れることが原因で、筋肉(とくにその作業によく使われる筋群)のけいれんが特徴である。治療には生理的食塩水の静脈注射が効果的である。

[重田定義]

熱虚脱

体熱を放散させるために皮膚血管が拡張すると、血液が皮膚に集中して体内の重要な器官への血液供給が不足することが原因で、血圧降下、脈拍微弱がみられるのが特徴である。そのほか、脱力感、めまい、失神などの症状もみられる。治療としては、涼しい場所で安静にさせ、場合によっては強心剤や生理的食塩水の注射をする。

[重田定義]

熱射病

日射病、うつ熱症ともよばれ、体温調節中枢の失調が原因で、体温が上昇(ときには41℃に達する)し、しかも発汗がないことが特徴である。頭痛、めまい、耳鳴りなどに続いて意識障害、昏睡(こんすい)状態になることが多く、重症の場合の致命率は高い。治療としては、速やかに体温を下げることがたいせつで、体温の上昇がひどい場合は全身を氷水につけ、3分ごとに体温を測る方法もとられる。応急処置としては、日陰の風通しのよいところに寝かせ、衣服を緩め、冷水で体をふき、タオルなどであおいで風を送る。

[重田定義]

予防

高温障害の予防法としては、(1)通風換気、遮熱設備などの環境条件の改善、(2)作業の機械化、作業時間の短縮、休憩などの作業負担の軽減、(3)循環器異常者など高熱作業不適格者への配慮、(4)食塩の補給、ビタミンBやCの補給、防熱服着用などの個人対策も必要である。なお高温障害の発現には、服装、作業または運動状況、睡眠不足、疲労などの個人的身体的条件も誘因となるので注意する。いわゆる「夏ばて」も慢性の高温障害の一種である。

[重田定義]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高温障害」の意味・わかりやすい解説

高温障害
こうおんしょうがい

体温の放散が不十分か,周囲の温度が体温より高いときに,生体が過温状態になって起る。代表的なものが日射病と熱射病 (熱中症ともいう) である。日射病は日光の直射を頭部,項部に受けて起り,熱射病は温熱のなかで労働しているときに起るが,両者の病態生理は同一で,治療も同様に行われる。症状は,深部体温が 40℃以上に上昇し,高熱にもかかわらず皮膚が乾燥し,紅潮しており,発汗は少い。この時期に通風のよい,涼しい場所に移すと症状は軽快するが,体温が 42℃以上になって人事不省に陥った場合は,氷水の全身浴などを行なって,できるだけ早く体温を下げる。なお,熱射病と似たものに熱虚脱がある。これは,慣れない高温環境で活動する際に一種の血液循環不全現象を起すもので,女子に多い。高度の疲労感,頭痛,吐き気などを訴え,大量の発汗をみ,最後に失神する。このほか,熱けいれんや熱傷も高温障害である。

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栄養・生化学辞典 「高温障害」の解説

高温障害

 果実や果菜が35〜45℃程度の高温におかれた場合にみられる生理障害で,モモ,リンゴ,ナシなどの果肉が変色したり,軟化したり,オフフレーバーを生じるなどの例がある.

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