鰹・堅魚・松魚(読み)かつお

精選版 日本国語大辞典 「鰹・堅魚・松魚」の意味・読み・例文・類語

かつお かつを【鰹・堅魚・松魚】

〘名〙
① サバ科の海魚。体は紡錘形で肥満し、ふつう全長五〇~八〇センチメートル。背は暗青色、腹は銀白色で、死後数本の黒色縦帯が現われる。温帯および熱帯の外洋に広く分布し、南北方向の季節回遊をする。二月頃沖縄周辺海域に出現し、小魚などの餌を追い、黒潮にのって北上する。夏から秋には、東北・北海道沖に達する。食用魚で、刺身、照焼きなどのほか、鰹節なまり節の材料となり、内臓は塩辛にする。特に近世の江戸では、初夏のころのものを初鰹(はつがつお)として珍重した。まんだら。まがつお。かつうお。かたな。《季・夏》
正倉院文書‐天平一〇年(738)駿河国正税帳「煮堅魚参伯弐拾斤、納肆拾籠」
徒然草(1331頃)一一九「鎌倉の海に、かつをと云ふ魚は、かの境にはさうなきものにて、この比もてなすものなり」
② 生(なま)の鰹を蒸したり乾燥させたりして加工した食品。鰹節(かつおぶし・かつぶし)。なまり節。
※儀式(872)三「堅魚薄鰒各一連、雑腊一升」
随筆・貞丈雑記(1784頃)六「かつをと云魚は古はなまにては食せず。ほしたる計用ひし也。ほしたるをもかつをぶしといはず、かつをと計いひしなり」
③ 「かつおぎ(鰹木)①」の略。
※古事記(712)下「堅魚を上げて舎屋を作れる家有りき」
④ 「かつおむし(鰹虫)」の略。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
[語誌](1)干すと堅くなるので「かたうお」と呼ばれていたのが、「かつお」に変化したという。「鰹」の字も、もと「堅魚」と書いていたものを、木工→杢、麻呂→麿のように一字化したもので、平安初期に例が見られる。
(2)古代からの重要な水産の食料であるが、鎌倉時代末ごろまでは高級な魚とはされていなかったらしい。「徒然草‐一一九」によると、今はもてはやしているが、昔は身分の高い人には出さなかったという。しかし「勝つ魚」の連想からとりわけ武家縁起物として好まれ、江戸時代以降は、元祿期の俳人山口素堂の「目には青葉山ほととぎす初がつほ」〔俳・曠野‐一〕の句で広く知られているように、初物好きの江戸っ子にもてはやされただけでなく、初夏の風物詩として珍重されている。

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