麻呂(読み)マロ

デジタル大辞泉 「麻呂」の意味・読み・例文・類語

まろ【麻呂/×麿】

[代]一人称人代名詞。平安時代以降に用いられた語。
「―この歌の返しせむ」〈土佐
[接尾]
名詞形容詞語幹その他の語に付いて、男子の名を構成するのに用いる。「人―」「清―」
動物楽器などの器物の名に付いて、動物や器物の名称として用いる。「翁―」「さる―」
[補説]「麿」は国字

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精選版 日本国語大辞典 「麻呂」の意味・読み・例文・類語

まろ【麻呂・麿・丸】

  1. [ 1 ] 〘 造語要素 〙 種々の名称の語末の構成要素として用いる。
    1. 男子の人名を構成するのに用いる。名詞や形容詞語幹その他の語に付いて、人名を作る。古くは単独で用いられる場合も多い。「麿」の字は、「麻呂」を合わせて作られたものという。「人麻呂」「虫麻呂」など。
      1. [初出の実例]「下々戸主稲麻呂〈年九正丁〉嫡子安麻呂〈年廿三兵士〉」(出典正倉院文書‐大宝二年(702)御野国味蜂間郡春部里戸籍)
    2. 動物または楽器など器物の名に用いる。
      1. [初出の実例]「この翁まろうちてうじて、犬島へつかはせ」(出典:枕草子(10C終)九)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 人の呼称や動物の名などに付けて親愛の意を表わす。「うままろ」「さるまろ」など。
    1. [初出の実例]「猿奏づいなごまろは拍子打つ」(出典:風俗歌拾遺(体源鈔所収)(1512)うばらこぎ)
  3. [ 3 ] 〘 代名詞詞 〙 自称。主として平安時代以降に用いられた。まろら。→まる(丸・麻呂)[ 三 ]
    1. [初出の実例]「白檮(かし)の生(ふ)横臼(よくす)を作り 横臼に 醸(か)みし大御酒(おほみき) うまらに 聞こしもち食(を)せ 麻呂(マロ)が親(ち)」(出典:古事記(712)中・歌謡)

麻呂の語誌

[ 三 ]は、上代の確実な例は少ないが、中古の文献では、老幼男女、貴賤にかかわらず、広く見られる。ただし、「源氏」では、発話者は年少の男子に偏り、成人男性の場合は愛情をよせる女性に対して使われることが多いなど、親密な人間関係を基底にしていることが特徴という。しかし、「今昔」などでは主として女性が使う語となっており、さらに時代が下ると、「日葡辞書」や「ロドリゲス日本大文典」が「帝王(天皇)の自称」と記しているように、天皇またはこれに準ずる人の自称代名詞として用いられている。「まる」という形の方が多くなってくるのもこの頃からである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「麻呂」の意味・わかりやすい解説

麻呂
まろ

合字(ごうじ)の「麿」とも書く。上代、男子の呼称として単独で用いられ、あるいは接尾語として人名のあとにつけることも多かった。一人称代名詞としての用法は、主として平安時代以後に現れ、年齢、男女、貴賤(きせん)にかかわらず広く用いられた。また、動物などの下につけ、「いなごまろ」「さるまろ」などと親愛の意を表すこともある。中世以後「まる」とも転じたが、皇族や貴人の一人称代名詞として用いられたこともある。

[藁科勝之]

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世界大百科事典(旧版)内の麻呂の言及

【人名】より

…これは奈良時代の高官であった中納言阿倍朝臣広庭と同名である。大和時代の人名は男女とも複雑で無定則的であるけれども,接尾語として彦(ひこ),比売(ひめ)(姫,媛,比咩),郎子(いらつこ),郎女(いらつめ),足(たり),比登(ひと),女(め),戸弁(とべ),麻呂,雄(お)(男),子(男女ともに),君(男女ともに)等が名に付される例が多かった。複雑,無定則的であるから後代に姿を消した名が少なくない。…

※「麻呂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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