中世につくられた雁皮(がんぴ)を主原料とした紙で,雁皮紙を代表する紙名といえる。鳥の子の名称は嘉暦年間(1326-29)に初出する。名称の由来については,西の内紙の産地でもある茨城県那珂郡鷲子村(現,常陸大宮市)に由来するとの説もあるが,多くは未ざらしの雁皮紙が鶏卵の淡黄色に似ているところに由来するという説を採っている。代表的な産地は越前(武生と敦賀,越前紙)と摂津(名塩紙)である。越前の鳥の子紙は,薄様(うすよう),中様(ちゆうよう)などの厚さの違いのほか,内曇(うちぐもり),水玉(みずたま),漉(す)き模様(当時は絵鳥の子などと称した),墨流しなどの装飾をほどこしたり,植物染による各色の色鳥の子紙など,技巧的に優れたものが多かった。名塩の鳥の子紙は,地元の特産である卵色の尼子(天子)土を混入するなど,粉入鳥の子紙に特色があった。現在,鳥の子紙として漉かれているのは,越前紙(福井県越前市),名塩紙(兵庫県西宮市)のほか,近江鳥の子紙(滋賀県大津市),加賀鳥の子紙(石川県川北町),土佐鳥の子紙(高知県いの町),出雲民芸紙(島根県松江市)などがあげられる。用途は,仮名書きなどの料紙,日本画などの画材用紙などで,楮紙(こうぞがみ)に比べてきわめて狭く,今後の販路の拡大が求められる。現在の鳥の子紙にはミツマタや木材パルプを用いてつくられ,襖(ふすま)紙などに用いられているものもある。
執筆者:柳橋 真
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雁皮(がんぴ)を原料にした光沢のある強靭な和紙。やや薄茶色をし,鶏卵の殻(から)の色に似るところからこの名がある。室町時代には越前産のものが都への土産として珍重されたと記される。紙質は優れているが原料の雁皮が栽培できないため,江戸時代には写経や上紙,領主発給の文書などに用いられ,大衆に広く用いられることはなかった。
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…内曇の技法は現在も越前紙に伝承されており,小間紙(美術紙)にはガンピを生かした手法が多い。中世には鳥の子紙や間似合紙(まにあいがみ)とよばれる雁皮紙が現れる。鳥の子紙は雁皮紙の未ざらし色が鶏卵の淡黄色に似ているところから名前が出た。…
…那珂川支流の緒川が中央部を流れ,南部を国道293号線が横断する。江戸時代に鷲子紙(鳥の子紙)と呼ばれた手すき和紙の生産が盛んとなり,紙商人の往来でにぎわった。明治以降,洋紙におされて生産は衰退し,代わって葉タバコやコンニャクが生産された。…
…文書をはじめ典籍,経典等の文字を書くときに使用する紙のこと。日本で用いられた料紙は,原料によって麻紙,楮(こうぞ)紙,斐(ひ)紙,三椏(みつまた)紙等がある。麻紙は白麻,黄麻を原料とした紙で,奈良時代から平安時代初期に多く用いられ,特に写経用として珍重された。コウゾは日本の各地に簇生し,これを原料としたのが楮紙である。原料が豊富でしかも繊維が強靱で実用性に富んでいるため,楮紙は古くから料紙の中心的地位を占めてきた。…
※「鳥の子紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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