紙に文様を染め付ける方法の一種。容器の水面に墨汁を落とし、静かに息を吹きかけるか、あるいは細い竹の先にわずかの油をつけて水面に入れると、水の表面張力によって墨が流れ、同心円の変形した複雑な模様をつくる。それを上からのせた和紙に吸着して写し取るが、二度と同じ文様が得られないという特徴がある。『古今和歌集』(905)に、在原滋春(ありわらのしげはる)の歌「春がすみなかし通路(かよいじ)なかりせば 秋くる雁は帰らざらまし」とあるように、平安時代からすでに行われていたらしく、西本願寺『三十六人家集』の料紙(りょうし)には平安時代の作品が多く残されている。また、1151年(仁平1)に広場治左衛門によって越前(えちぜん)国(福井県)に広められたとの伝説もあり、越前市今立地区では現在も伝統的な技法が守られ、色紙や短冊などの用紙に漉(す)かれている。
[町田誠之]
江戸時代に入ると、墨のほかに紅や藍(あい)などが加えられ、油脂を用いたりして、複雑な木目形や、雲形などを染めたものが、千代紙や箱や小引出しの内張りなどに用いられた。そしてさらにこれを布地に写すことが開発され、福井県の武生(たけふ)をはじめ、京都などでも行われた。技法はだいたい紙染めの場合と同じであるが、墨や染料が平らにつくように裂(きれ)地を糊(のり)付けしてよく伸ばし、また着色後の色止めにもいろいろくふうが凝らされた。用途は、長襦袢(ながじゅばん)や風呂敷(ふろしき)、袱紗(ふくさ)の類から、近時はネクタイ、スカーフなどにも用いられている。容器の大きさに制約があるのと、流動する色の流れをすばやくとらえなければならないので、あまり大きなものを、時間をかけて染めるのには適さない。
衣服にも用いられるが、二つの裂の模様の合い口をあわせて染めることは困難で、部分的な模様を染めるにとどまる。色は元来、墨と紅、藍が主であったが、近時は多色な化学染料を用い、複雑な模様を染めることも行われている。しかし、もともとが水の上に自然に現れる墨の流れを紙にとらえることに発したものゆえ、あまり技巧的になって作意があらわになると、墨流しとしては、かえって趣(おもむき)のないものになってしまう。完全な手工芸であるから、量産には適さず、現在はごく一部の技術者の間に行われているにすぎない。
ヨーロッパで本の装丁に使われたり、トルコで重要な文書の用紙に用いられたマーブル・ペーパーも、これと同じような方法で染められたもので、現在トルコで行われている。これは多色な顔料に、動物の内臓の脂を混ぜて行われるもので、非常に技巧的で、できあがりには、墨流しのような自然な風趣はない。
[山辺知行]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに現代では版画というよりも造形的表現手段の一つとなっている。 1点制作という点で,モノタイプを広義にとらえれば,H.セーヘルスの,1点ずつ版や色を変えた色刷版画や,シュルレアリストの用いたフロッタージュ,デカルコマニー,あるいは版画に網,布片,紐などを置いて,それを台材に写し取らせる方法(例えば恩地孝四郎の作品)や墨流しもモノタイプといえる。【坂本 満】。…
…なお羅文の中に飛雲が加わったり,羅文の飛雲もあるので,両者の技法は近いとみられる。 仕上がった紙を加工する装飾には〈からかみ〉や墨流し,金箔,描(かき)文様,下絵,継紙(つぎがみ)など数多くの技法がある。〈からかみ〉は初め中国から輸入された唐紙の意味であったが,しだいに装飾紙の技法をさすようになった。…
※「墨流し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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