戯曲。1幕2場。岡本綺堂作。1915年9月東京本郷座初演。配役は菊地半九郎を2世市川左団次,遊女お染を3世市川松蔦,坂田源三郎を市川寿美蔵(のちの3世寿海)。地唄《鳥辺山》からの着想による。綺堂劇中でも一,二を争う人気狂言。杏花戯曲十種の一。将軍上洛に従った旗本菊地半九郎は,祇園の遊女お染の汚れをしらぬ初心な風情にひかれ,家宝の刀に替えても彼女を身請けして親もとへ帰してやろうとする。たまたま同輩の坂田市之助と茶屋で遊んでいる折,半九郎は市之助の弟源三郎と口論をし河原で果し合いの末,ついに討ち果たしてしまう。その場で切腹しようとした半九郎は,お染の願いを聞き入れて,鳥辺山へ心中しに行く。近代的な恋愛至上主義をうたいあげた名作で,脚本に指定された古風な義太夫も新鮮にひびき,〈清きおとめと恋をして〉〈鳥辺の山を死場所と〉などの名せりふで一世を風靡した。初演の左団次・松蔦以降,3世寿海・2世芝鶴から,10世市川海老蔵・5世坂東玉三郎に至るまで,お染・半九郎は多くのコンビによって繰り返し上演され,古典としての位置を得ている。遊女お染も,従来の遊女の類型を破った美しさがみられ,半九郎も純情な青年の多感さを遺憾なく表現,近代的な人物像の一種の典型を示している。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
岡本綺堂(きどう)の戯曲。一幕二場。1915年(大正4)9月東京・本郷座で、2世市川左団次の菊地半九郎、2世市川松蔦(しょうちょう)のお染により初演。将軍に供して上洛(じょうらく)した菊地半九郎は、祇園(ぎおん)の遊女で純情無垢(むく)なお染となじみを重ねたが、江戸へ帰るに際し、家重代の刀を売ってお染を請け出し親元へ帰してやろうとする。しかし友人坂田市之助との酒宴の席上、その弟源三郎が半九郎を不行跡となじったことから口論となり、四条河原で果たし合いのすえ、これを討つ。半九郎は死を決意し、お染も従って鳥辺山へ心中の道を急ぐ。江戸期の巷説(こうせつ)に材をとり、歌舞伎(かぶき)の手法を継承しているが、人間味ある新鮮な解釈で観客の共感をよんだ。初演以来大好評を博し、いまもって上演頻度は高い。2世左団次の「杏花(きょうか)戯曲十種」の一つ。
[菊池 明]
『『岡本綺堂戯曲選集4』(1958・青蛙房)』
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