市川左団次(読み)イチカワサダンジ

デジタル大辞泉 「市川左団次」の意味・読み・例文・類語

いちかわ‐さだんじ〔いちかは‐〕【市川左団次】

歌舞伎俳優。屋号、高島屋
(初世)[1842~1904]大阪の生まれ。9世市川団十郎・5世尾上菊五郎とともに明治の三名優と称された。のち明治座の座主。
(2世)[1880~1940]初世の子。東京の生まれ。小山内薫自由劇場を創立。新歌舞伎を創始。

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精選版 日本国語大辞典 「市川左団次」の意味・読み・例文・類語

いちかわ‐さだんじ【市川左団次】

歌舞伎俳優。屋号高島屋。
[一] 初世。俳名莚升(えんしょう)、松蔦(しょうちょう)。四世市川小団次の養子。大阪の人。明治時代の代表的名優で、団十郎菊五郎とともに「団菊左」と呼ばれた。明治座を創設。当たり役は「慶安太平記」の丸橋忠彌など。天保一三~明治三七年(一八四二‐一九〇四
[二] 二世。初世の長男。本名栄次郎。俳名杏花。小山内薫と提携して自由劇場を結成し、岡本綺堂と結んで新歌舞伎を樹立するなど、演劇革新運動に貢献した。明治一三~昭和一五年(一八八〇‐一九四〇
[三] 三世。六世市川門之助の子。昭和二七年(一九五二)三世を襲名。芸域が広く、戦後の歌舞伎界において、後進の指導に尽くした。明治三一~昭和四四年(一八九八‐一九六九

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「市川左団次」の意味・わかりやすい解説

市川左団次
いちかわさだんじ

歌舞伎(かぶき)俳優。屋号高島屋。現在4世まである。

初世

(1842―1904)本名高橋栄三。大坂生まれ。江戸へ出て幕末の名優4世市川小団次(こだんじ)に入門。のち師の養子となり1864年(元治1)左団次を名のる。養父の没後その提携者であった河竹黙阿弥(もくあみ)、12世守田勘弥(かんや)(1846―1897)、養母の庇護(ひご)を得て発奮し、黙阿弥作『慶安太平記(けいあんたいへいき)』の丸橋忠弥で認められた。のちに明治の名優9世市川団十郎、尾上(おのえ)菊五郎とともに「団・菊・左」と称せられた。1893年(明治26)明治座を建てて座主となった。

2世

(1880―1940)本名高橋栄次郎。初世の長男。1906年(明治39)襲名。同年末から翌年8月にかけて歌舞伎俳優として初めて欧米に渡り、帰国後小山内薫(おさないかおる)とともに自由劇場を結成。文芸協会の『人形の家』よりも2年早い1909年11月、イプセンの『ジョン・ガブリエル・ボルクマン』を第1回に、西欧戯曲を試演し近代劇運動の旗手となる。歌舞伎でも岡本綺堂(きどう)や真山青果(まやませいか)と組んで多くの作品を上演し、新歌舞伎というジャンルを定着させた。その一方で、歌舞伎十八番の『毛抜(けぬき)』『鳴神(なるかみ)』や、4世鶴屋南北(なんぼく)の生世話物(きぜわもの)など演出の伝承がとだえていた古劇の復活にも尽力した。1928年(昭和3)ソ連を訪問し、歌舞伎の第1回海外公演を行った。

3世

(1898―1969)本名荒川清。6世市川門之助(もんのすけ)(1862―1914)の子。6代目菊五郎の一座にあって、4世市川男女蔵(おめぞう)の名で二枚目の立役(たちやく)および女方(おんながた)を勤め、菊五郎没後は菊五郎劇団の長老として二枚目役にも老役(ふけやく)にも洗練された演技をみせた。1952年(昭和27)3世を襲名、1962年芸術院会員、1964年に重要無形文化財保持者となる。

4世

(1940―2023)本名荒川欣也(きんや)。3世の子。菊五郎劇団の立役。敵役(かたきやく)としても活躍した。2016年度(平成28)日本芸術院賞を受賞。

[古井戸秀夫]


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百科事典マイペディア 「市川左団次」の意味・わかりやすい解説

市川左団次【いちかわさだんじ】

歌舞伎俳優。現在4世。屋号高島屋。初世〔1842-1904〕は4世市川小団次の養子。堅実な芸風で,河竹黙阿弥の協力を得て新作史劇で活躍。9世市川團十郎,5世尾上菊五郎とともに〈団菊左〉と呼ばれ明治の劇界を代表した。2世〔1880-1940〕は初世の長男。小山内薫とともに1909年自由劇場を創立,新劇運動の先駆となり,岡本綺堂真山青果らと組んで新歌舞伎を開拓,男性的な芸風を生かして古典歌舞伎の復活に努めた。3世〔1898-1969〕は6世市川門之助の養子。前名市川男女蔵(おめぞう)から1952年襲名。広い役柄にすぐれていた。1964年人間国宝。4世〔1940-〕は3世の長男。2世市川男寅,5世市川男女蔵ののち1979年左団次を襲名。
→関連項目岡鬼太郎河原崎長十郎近代劇修禅寺物語高島屋鳥辺山

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改訂新版 世界大百科事典 「市川左団次」の意味・わかりやすい解説

市川左団次 (いちかわさだんじ)

歌舞伎俳優。4世まである。屋号は高島屋。(1)初世(1842-1904・天保13-明治37) 本名高橋栄三。俳名は莚升,松蔦。大坂生れ。床山中村清吉の次男,幼名辰蔵。子供芝居で初舞台,13歳で4世市川小団次の門に入り小米(こよね),升若を経て,1864年(元治1)小団次の養子となって左団次を名のり江戸の各座に出勤。66年(慶応2)養父没後一時廃業していたが,作者河竹黙阿弥の後援で復帰,70年(明治3)黙阿弥の書きおろし《慶安太平記》の丸橋忠弥の好演で人気役者の仲間入りをし,93年明治座を新築,座元・座頭として活躍,9世市川団十郎,5世尾上菊五郎ら名優と〈団菊左〉と並び称された。容姿とせりふに恵まれ,堅実な芸風で明治史劇に本領を発揮した。(2)2世(1880-1940・明治13-昭和15) 本名高橋栄次郎。東京生れ。初世の嫡男,俳名杏花。4歳のとき市川ぼたんの芸名で初舞台,小米,莚升を経て1906年左団次を襲名。新旧を問わず線の太い役柄をよくし,独特な芸風,輪郭の大きさ,ハイカラさから〈大統領〉の愛称があった。団菊没後劇界刷新の先頭に立ち,小山内薫と提携しての自由劇場や,文芸家をブレーンとしての古劇《鳴神》などや4世鶴屋南北の作品の復活,岡本綺堂,真山青果らとの新歌舞伎の開拓,劇場内外での旧弊の改革等々近代演劇史に残した足跡は高く評価されている。(3)3世(1898-1969・明治31-昭和44) 本名荒川清。東京生れ。6世市川門之助の子。4歳のとき4世男寅(おとら)の芸名で初舞台,4世市川男女蔵(おめぞう)を経て52年左団次を襲名した。女方ややわらかみのある立役と芸域が広く,6世尾上菊五郎の没後は菊五郎劇団のまとめ役として重きをなした。62年芸術院会員に推された。(4)4世(1940(昭和15)- )本名荒川欣也。東京生れ。3世の長男。7歳のとき5世男寅の芸名で初舞台,5世男女蔵を経て79年左団次を襲名,おおらかな芸格,線の太い芸質で敵役も演ずる。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「市川左団次」の解説

市川左団次
いちかわさだんじ

歌舞伎俳優。幕末期から4世を数える。屋号は高島屋。初世(1842~1904)は大坂生れ。本名高橋栄三。俳名莚升・松蔦(しょうちょう)。4世市川小団次の養子。男性的な芸風で明治期の東京を代表する名優。9世市川団十郎・5世尾上菊五郎とともに「団菊左」と並び称され,明治中期の歌舞伎全盛期を築いた。晩年は明治座の座主にもなった。2世(1880~1940)は初世の子。東京都出身。本名高橋栄次郎。俳名杏花(きょうか)・松莚。小山内薫と提携して自由劇場を創立。またすぐれた新歌舞伎の初演,歌舞伎十八番や鶴屋南北作品の復活上演など,革新的な仕事で近代の演劇界に独自の足跡を残した。3世(1898~1969)は東京都出身。本名荒川清。6世市川門之助の養子で6世尾上菊五郎門下。本領は古風な二枚目や女方で,第2次大戦後は長老として重きをなした。人間国宝。芸術院会員・文化功労者。

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旺文社日本史事典 三訂版 「市川左団次」の解説

市川左団次
いちかわさだんじ

歌舞伎俳優。屋号は高島屋
〔初代(1842〜1904)〕 立役を得意とし,市川団十郎(9代目)・尾上菊五郎(5代目)と団菊左時代を現出。明治座を創設,経営した。〔2代目(1880〜1940)〕 初代の実子。小山内薫らと自由劇場を始め,新劇運動を推進。のち新劇を離れ歌舞伎に専念した。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「市川左団次」の解説

市川左団次 いちかわ-さだんじ

?-? 江戸時代中期の歌舞伎役者。
享保(きょうほう)11年(1726)以後に名をあらわし,江戸で若女方として出演。寛保(かんぽう)2年2代市川海老蔵(えびぞう)の門にはいり,市川左団次を名のった。初名は袖岡菊太郎。前名は袖崎菊太郎。俳名は春耕。

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