鶴の巣籠(読み)つるのすごもり

精選版 日本国語大辞典 「鶴の巣籠」の意味・読み・例文・類語

つるのすごもり【鶴の巣籠】

[一] 尺八曲。普化(ふけ)尺八曲中宗教的でない曲。子を育てその子が巣立って別れるまでの親鶴の喜びや悲しみを表わす。琴古流では「巣鶴鈴慕(そうかくれいぼ)」という。「仮名手本忠臣蔵」九段目で虚無僧姿の加古川本蔵が吹くので有名。
[二] 胡弓曲。藤植検校作曲。ひな鶴や松風を歌っためでたい歌詞。手事(てごと)四段をもち、その中で鶴の擬音をきかせる。
[三] 地唄。作曲年代・作詞者・作曲者など不明。「朝日さす」で始まるめでたい曲で、友鶴に男女の愛情を託した歌詞からなる。

つる【鶴】 の 巣籠(すごもり)

① 鶴が抱卵のために巣に籠ること。《季・春》
囲碁で、追落としの手筋の一つ。並んだ三子の石の片面全部つまり、両脇もつまって、相手の石が両方とも囲むように伸び切っている場合、ダメが三つ空いていても、その石は逃げられない。捨石を放って絞った形が鳥の巣に似ているところからこの名が起こった。江戸時代には「鶯の巣ごもり」ともいった。

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改訂新版 世界大百科事典 「鶴の巣籠」の意味・わかりやすい解説

鶴の巣籠 (つるのすごもり)

尺八楽古典本曲および胡弓楽本曲の曲名。《鹿の遠音》とともに古くから尺八曲の代表的存在として一般人にもよく知られた曲であるが,尺八楽の流派による同名異曲が非常に多くあり,胡弓曲も同類である。また,尺八楽の琴古流・上田流の《巣鶴鈴慕(そうかくれいぼ)》,明暗対山流の《巣鶴》などのように曲名の異なるものもある。それらの間の異同の程度はさまざまで,相互の伝承または影響関係は必ずしも明らかではないが,いずれも雛鶴の誕生から親鳥の愛情,子鶴の巣立ちを経て親鳥の死にいたる一連の物語を共通の曲想としており,大なり小なり似通った音楽的特徴をもっているから,同一原曲から種々の同工異曲が生じた可能性が濃い。旋律面の共通の特色としては,曲中のさまざまな旋律の中に同じ音を細かく刻んで連続させる音型(トリルトレモロに近似)が頻用されることがあげられ,これらは鶴の鳴き声や羽ばたきを描写したものとみなされている。この曲は,こうした情景描写や感情表現の要素を含む点に加えて,リズムの面では拍節的な部分が多い点でも,古典本曲中やや異色の存在であるが,それらの点がまた同時に,広く愛好されてきた原因であったともいえよう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鶴の巣籠」の意味・わかりやすい解説

鶴の巣籠
つるのすごもり

邦楽の曲名。 (1) 尺八楽の古典本曲の曲名。作曲年代未詳。古くから各地の虚無僧寺に伝えられ,京都の明暗寺伝,浜松の普大寺伝,奥州の布袋軒伝,琴古流伝 (正式名『巣鶴鈴慕』) などをはじめ同名異伝が多い。普化 (ふけ) 尺八曲中例外的な描写曲でつるの親子の愛情を描く。タバネという技巧的手法が特色。 (2) 胡弓の楽曲名。 (a) 『摂陽奇観』 (1777) に政島検校が『巣籠』を演奏した記録があり,これを森岡正甫の文化8 (1811) 年刊『掃弓雅吟集』には「巣籠曲」「真の巣籠曲」などと記されている。 (b) 本居宣長門下の藤井高尚著『弾物のさだめ』 (1808) に,宇伝佐喜検校が京都で『鶴の巣籠』を演奏したとあり,現在名古屋,京都,大阪などでは多少異なる演奏があり,腕崎検校作曲とも,あるいは天保 (30~44) 頃大坂の巌得の明暗流尺八曲からの移曲とも,あるいは自身の作曲とも伝えられるが確証はなく,尺八曲との先後関係も未詳。2段から成るものは『八千代獅子』または『三段獅子』を前奏とすることもあり,三弦で「砧地」「巣籠地」を合せる。 (c) 江戸では宝暦 (1751~64) 以来藤植流に伝承される曲があり,現在も山室保嘉,千代子と伝承されたものがその門弟たちによって演奏されている。前弾き,前唄,合の手,4段構造の手事,後唄という構成で,箏の「巣籠地」を合奏させる。 (3) 地歌箏曲としては,久幾勾当が慶応4 (1868) 年に三弦手事物として作曲したものがあり,これを駒仲検校がさらに箏に移したといわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鶴の巣籠」の意味・わかりやすい解説

鶴の巣籠
つるのすごもり

尺八および胡弓(こきゅう)本曲の曲名。通称「巣籠」。尺八琴古流(きんこりゅう)本曲名は『巣鶴鈴慕(そうかくれいぼ)』。擬音を駆使した奏法と、鶴の子育てから巣立ちまでの、親子の情愛をテーマとした一種の標題音楽。『鹿(しか)の遠音(とおね)』と並ぶ破手(はで)の曲で、宗教性を重視する尺八本曲のなかでは特異な存在。この曲は伝承的に「東北系」と「関西系」に二分され、東北系『鶴の巣籠』は伝承地東北地方特有の細かい技巧をもつ無拍リズムの本曲様式を踏まえる。関西系のそれは、地歌(じうた)の巣籠地「ツルテン」の音型を出現させて、拍節的旋律が随所に聞かれるという特徴をもつ。また胡弓では、流派・系統によって違いはあるが、胡弓曲中唯一といってよい独奏主体の本曲になっている。

[月溪恒子]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「鶴の巣籠」の解説

鶴の巣籠
(通称)
つるのすごもり

※〓は上辺に「一」、その左下に「巢」、右下に縦に「𠔿」「夫」。
歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
鳥坂城鶴〓
初演
享保6.11(江戸・中村座)

鶴の巣籠
〔浄瑠璃〕
つるのすごもり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛政9.11(大坂・中山与三郎座)

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