[1] 〘自ラ五(四)〙
①
道理からはずれる。正常でなくなる。また、当を得ない。
※
書紀(720)白雉元年二月(北野本訓)「又、
王者の
祭祀、相踰
(アヤマラ)ず」
※
徒然草(1331頃)一九四「
達人の人を見る眼
(まなこ)は、少しもあやまる所あるべからず」
(イ) 不注意のために失敗する。しそこなう。
※石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「上章達らず。もし銷(アヤマレ)る字有るか」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉三「あやまりて、丹後守が、ひさうの松の枝を打ち折りたり」
(ロ) (男女間で)まちがいを起こす。
※神楽歌(9C後)
大前張・我妹子「〈本〉我妹子
(わぎもこ)に や 一夜肌触れ
あいそ 安也万利
(アヤマリ)にしより」
(ハ) (「あやまって」「あやまりて」の形で副詞的に用いる) 意図に反してそうなってしまう。
※浜松中納言(11C中)四「化粧(けしゃう)しつくろひたるはめもたたず、あやまりてけうとき心地せられぬべくおぼされて」
③ (「心地あやまる」の形で) 気分を悪くする。心が乱れる。病む。
※
源氏(1001‐14頃)若菜上「
今朝の雪に心地あやまりていと悩ましく侍れば」
[2] 〘他ラ五(四)〙
① 約束、時間など決められたことをたがえる。やぶる。
※伊勢物語(10C前)一二二「むかしをとこ、契れることあやまれる人に」
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉四「斯格的
(スコット)は、
定規を立て時刻を愆
(アヤマラ)ざる人なり」
② だましとる。
※浄瑠璃・冥途の
飛脚(1711頃)下「
根性に魔がさいて大ぶん人の金をあやまり」
③ 人を傷つける。殺傷する。
※
曾我物語(南北朝頃)五「あやまりては、ひとまどもおつべきものか」
④ なすべきことや進むべき方向などをまちがえる。よくない方へ導く。ふみはずす。
※中華若木詩抄(1520頃)上「行人は、路をあやまるにあらず」
※
破戒(1906)〈
島崎藤村〉二「今日の新しい出版物は皆な
青年の身をあやまる原因
(もと)なんです」
[
語誌](1)「あや・あやに(奇)」「あやし・あやしむ(ぶ)(怪)」「あやふし・あやぶむ(危)」などとともに、不思議・不確実・不安定などの意をもつと思われる「あや」を語根とするか。
(2)正しい道からはずれた重大・深刻な「過失」を指すことが多いところから、悔い改める心をもって
自らの非を認めること、すなわち「
謝罪」の
気持が生じ、中世末期以後、「あやまる(謝)」が分立することになる。→「
あやまる(謝)」の語誌