asymmetric digital subscriber lineの頭文字をとった呼称。「非対称デジタル加入者回線」という意味。通常の電話回線とモデム(変復調装置)によるインターネット接続よりも、より高速の通信をするためのインターネット接続サービス・システムの一つ。データ送信時のビットレート(伝送率)のほうが、受信時のビットレートよりも低いことから、「非対称」という。
従来のモデムを用いて銅線の電話回線でデータ通信する場合には、人間の耳に聞こえる範囲の周波数帯域(可聴周波)を使ってデータを送っていた。しかし、ADSLでは、耳に聞こえない周波数帯域(高周波)を使うことで、より高速のデータ通信をすることができる。ところが、そもそも銅線の電話回線では高周波を使用することを想定していなかったため、電話局舎とユーザー(利用者)の間の回線の長さ、線の物理的な接続具合、ラジオなどの電波の影響を受けやすく、回線サービスの通信速度をあらかじめ保証することができない欠点がある。しかし、ADSLの料金は一般的に月額固定料金であり、月間で何時間使用しても回線料金は変わらない。このようなメリットがあることから、急速にユーザーが増加した。
[中島由弘]
既存の電話加入者線に使用する銅線(ツイスト・ペア銅線)を利用して、高速度のデジタル通信を行う。このシステムでは、電話局から加入者へ向かう下り方向には高速度通信が行える。一方、加入者から電話局へ向かう上り方向の速度は低速に抑え、上り下りの最高速度を非対称にして実用的に高速度通信を可能としている。ツイスト・ペア銅線は、本来は3.4キロヘルツ以下の周波数帯の電話の伝送だけを目的に使用されていた、2本を1対とする電線4対を最小単位(クワッド)として軽くねじられた電話線である。伝送距離が短い場合、帯域内の周波数特性を気にしなければ1.2メガヘルツ程度までの周波数の伝送は可能である。アメリカや韓国では、接続工事費の低減と運用コストの節約を図るため、既存の加入電話線の周波数特性をデジタル伝送に生かし、インターネット端末の接続に利用した。その結果、インターネットの急速な普及がもたらされた。日本は明らかに遅れをとることになったが、2000年(平成12)9月から東西のNTT(日本電信電話株式会社)による一般向け常時接続サービスが開始され、2001年12月末の加入者数は約150万に達した。ADSLを含むDSLの加入者はその後も激増し、2006年3月末には1451万を記録したが、以後は微減傾向となり、2011年3月末に820万となっている。
通常の電話線でモデムを使ったデジタル通信では毎秒56キロビット程度が最高の伝送速度であるが、ADSLはその20倍以上の速度を可能にし、デジタル通信専用回線として使用されているISDNの速度(毎秒144キロビット)をも超える。ADSLでは、ツイスト・ペア銅線の通過周波数帯幅の4キロヘルツ以下を電話用に、26キロヘルツ~1.1メガヘルツ付近までをデジタル伝送用に使用する。このうち、上り回線用には138キロヘルツまでの約100キロヘルツの帯域を、下り回線用には残りの約1メガヘルツの帯域を使用する。変調方式は、CAP方式(carrierless amplitude and phase modulation)とDMT方式(discrete multi tone modulation)に大別されるが、DMT方式がITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)の標準であることから、日本ではDMT方式を採用している。DMT方式は、4キロヘルツの周波数帯を全帯域幅内にすきまなく配列して広帯域特性をもたせる方法で、技術的には多少煩雑にみえるが、必要に応じて周波数帯域幅を半減して2回線を確保するような回線の有効利用に便利な方式である。DMT方式は電話とインターネットを1回線で接続できるが、ISDNとは併設できない。ISDNは、TCM方式(time compression multiplexing)という160キロヘルツを最強点として高調波が1メガヘルツ程度まで広がる方式であるため、電話やADSLの帯域と完全に重なるからである。ADSLは、電話局やプロバイダーからの回線長が、ほぼ2キロメートル以内が設置可能地域であって、それ以遠の地域では動作が不安定または設置不能となる。しかしながら、通常の電話回線を利用するため施設費も料金も低廉であり、爆発的な普及をみた。難点は、メタルケーブル使用区間において電磁放射が避けられず、隣接する回線に漏話したり干渉を起こす可能性が高いことである。このような不完全な点を承知のうえで利用するならば、安価で便利なシステムといえる。
[石島 巖]
ADSLよりもさらに伝送速度や接続可能距離などの面で改善されたシステムが開発され、新しい類似のDSLという意味でxDSLと総称している。このうち、高速伝送を目ざすものとして、フルレートADSLとよばれるG.dmt(ジーディーエムティー)方式があり、変調方式は伝送周波数帯幅1.1メガヘルツを使用するDMTである。上り方向の伝送速度は毎秒640キロビットで、下り方向の最高伝送速度は毎秒8メガビットである。こうした高速ADSLが、おもに一般のユーザーを対象として普及している。業務用の需要に向けては、伝送速度より安定性と上り方向速度の改善が必要であり、この需要を満たすシステムとして、複数のツイスト・ペア銅線を使用する高速デジタル加入者線HDSL(high-bit-rate DSL)がある。この方式は2対または3対のツイスト・ペア銅線を使用し、392キロヘルツの伝送周波数帯幅を得ている。変調方式はCAP方式で、上り下りともに安定な毎秒1.5~2メガビットの伝送速度が保証される。この性能をツイスト・ペア銅線1対により実現しているのがSHDSL(single-pair HDSL)で、392キロヘルツの伝送周波数帯幅を周波数分割して使用し、PAM方式により上下2メガビットの伝送速度が実現されている。その他、SDSL(symmetric DSL)というシステムは、北米仕様の対称デジタル加入者線であり、上り下り2メガビットの伝送能力を有し、HDSL方式に類似した方式である。また、映像系の伝送に対応できる高速度化への要望からVDSL(very high-bit-rate DSL、またはvery-fast DSL)という超高速デジタル加入者線が2002年度から日本で提供されており、ツイスト・ペア銅線2対により、下り方向に毎秒20~50メガビット、上り方向に毎秒3~20メガビットの伝送が可能となった。今後、光ケーブルとxDSLの接続により毎秒100メガビットの伝送が見込まれている。
ADSLは技術的にはこのように興味深い発展を遂げてきたのである。今後は順次廃止され、将来的にはメタル回線そのものが存続しなくなると考えられるが、NTTは、いつまでこのサービスを提供し続けるかについては公表していない。光回線の目覚ましい発展のなかで、旧技術を無理に存続させる必要はないが、ADSLは1990年代中ごろからインターネットが普及して以降のほぼ10年間、新時代とを結ぶツールとして必要であった技術であり、技術常識の意表をついた通信回線である。
[石島 巖]
『梅山伸二・半坂剛著『入門xDSL』(1999・技術評論社)』▽『三木哲也・青山友紀監修、マルチメディア通信研究会編『xDSL/FTTH教科書』(1999・アスキー)』▽『次世代ネットワーク研究会編『わかりやすいADSLの技術』(2001・オーム社)』
「DSL」のページをご覧ください。
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