有機塩素系殺虫剤の一つ。benzen hexachlorideの略だが,化学名は1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexaneである。9種の立体異性体が存在し,そのうち8種(α~θまでのギリシア文字がつけられている)が合成されている。これらの中で,γ異性体の殺虫力が最も高いことが,イギリスのスレードR.E.Sladeらによって1942年に見いだされ,きわめて有効な殺虫剤として広く用いられるようになった。純粋なγ-BHCは融点112~113℃の結晶で,リンデンlindaneともよばれる。250~480nmの波長の光をあてながら,ベンゼン中に塩素ガスを通ずると,BHCの異性体の混合物を生ずる。この混合物をメチルアルコールから再結晶すると,γ体の多い混合物がえられ,これが殺虫剤として用いられる。γ-BHCはニカメイチュウやツマグロヨコバイなどの稲作害虫をはじめ,カ,イエバエ,シラミ,ナンキンムシなど衛生害虫に対してもきわめて有効で,その殺虫力はDDTのそれをはるかにしのぐものである。とくにニカメイチュウに対する殺虫力が強いことから,広く稲作に用いられた。しかし,BHCもDDTと同様に,作物や土壌などへの残留性が高く,とくに食物連鎖によりイネに散布されたBHCが,稲わらを飼料とした乳牛の牛乳中に濃縮され,またさらに人乳中にも検出されるなどの深刻な問題をひき起こし,DDTと同様1971年に使用禁止となった。γ-BHCは急性毒性で50%致死量LD50=125mg/kg(ラット,経口)である。昆虫の中枢神経に作用し,激しい神経興奮作用をひき起こす。
γ-BHC以外の異性体,とくにα-,β-体の殺虫活性は弱く,しかも生体内できわめて安定で分解されにくいため,慢性毒性をひき起こす主要な原因物質と考えられている。
執筆者:高橋 信孝
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ベンゼンヘキサクロリドbenzenhexachlorideの略称であるが、この化合物はベンゼンに塩素を付加したものであるから、正式化学名は1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexaneである。日本で命名した誤名のBHCが国際的になった。1825年ファラデーが初めて合成し、1912年リンデンTeunis van der Linden(1884―1965)が4個の配座異性体を発見、1941年になって殺虫力のあることが発見された。1942年スレードRoland Edgar Slade(?―1968)が詳細な研究を行い、異性体中でγ(ガンマ)と命名するものが抜群に殺虫力をもつことを発表した。各種の害虫に対して接触毒、食毒、燻蒸(くんじょう)毒作用をもち、日本では1949年(昭和24)から水田や果樹や野菜の害虫防除とともに、ハエ、カ、ノミなど衛生害虫の防除にも広く大量の製剤が使用され、奏効を呈した。自然界で分解しにくいために食物連鎖で生物濃縮され、最終的に人体へ蓄積するおそれを考慮し、1971年より日本では使用が禁止された。
[村田道雄]
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