ヘルツシュプルング‐ラッセル図Hertzsprung-Russell Diagramの略。恒星の性質を統計的に調べるために、1905年にデンマークのE・ヘルツシュプルングが、またやや遅れてアメリカのH・N・ラッセルがそれぞれ独立に考え出したグラフ。光度かそれにかわる量を縦軸に、表面温度(正確には有効温度)かそれにかわる量を横軸にとり、明るいものほど上方に、高温のものほど左側にくるように表す。実用的には、観測から直接に得られる量を使って、縦軸に絶対放射等級または絶対実視等級、横軸にスペクトル型または色指数を用いることが多い。とくに横軸が色指数で表されたHR図を「色・等級図」ということもある。HR図は、恒星の物理的性質や恒星の進化を考察するのによく使用される。
星の半径(R)と光度(L)、表面温度(T)との関係式L=kR2T4(kは比例定数)によれば、星は表面温度が低くて光度が明るいほど半径が大きい。したがって、HR図のなかでは右上に位置する星ほど半径が大きい。
[岡崎 彰]
絶対等級と表面温度が知られている星をすべてHR図にプロットすると、多くの星が図のなかで左上から右下にかけてほぼ一列になって分布する( )。この列のことを主系列とよび、そこに並ぶ星を「主系列星」という。太陽も主系列星である。主系列星は絶対等級と表面温度との間にきれいな相関があるので、表面温度がわかれば、絶対等級を推定できる。主系列の右上の方にもかなりの数の星が分布する。これらの星は、同じ表面温度の主系列星よりも半径が大きいので、「巨星」とよばれる。なかでも、とくに明るく半径の大きいものを「超巨星」という。ベテルギウスは超巨星の一例で、半径は太陽の数百倍にも達する。また、主系列星と巨星の中間位置にも星がいくらか分布しており、それらは「準巨星」とよばれる。一方、主系列の左下にも、いくつかの星が散らばっている。これらの星は、かなり高温で白い光を放つものが多く、半径も主系列星と比べて小さいので、「白色矮星(わいせい)」とよばれる。シリウスの伴星は白色矮星の一例で、半径は太陽の100分の1程度にすぎない。
このように可視光で観測されるほとんどの恒星は、主系列星、巨星(超巨星、準巨星も含む)、白色矮星の3種類に大別される。
[岡崎 彰]
太陽から近距離、たとえば5パーセク以内の距離にある星々のHR図を作成すると、前記のHR図と分布の様子が明らかに違ったものになる。すなわち、ほとんどの星が主系列星で、白色矮星もいくつか散らばっているが、巨星は1個も見られない。主系列星の分布も詳しく見ると、太陽より高温の星はわずかしかなく、温度の低い(右下に位置する)ものほど数が多くなっている。
太陽から5パーセク以内では、暗い星も含めてほぼもれなく調べられているとみなせるので、近距離星のHR図における個数分布は、実際の傾向を示していると考えてよい。すなわち、一般に、主系列星は温度の低いものほど数多く存在し、白色矮星もそれなりの数が存在するが、巨星や超巨星は非常に数が少ない。一方、遠距離にある星々まで含めたHR図では、遠方でも観測できる明るい高温の主系列星や巨星・超巨星が偏って多くプロットされてしまうので、その個数分布は実際の傾向を反映したものにはならないことになる。
[岡崎 彰]
同じ星でありながら、どうして主系列星、巨星、白色矮星という3種類に分かれるのだろうか。実は、HR図にはさまざまな年齢の星が混じっているので、星が一生の間に光度と表面温度がどのように変化していくのかを知らなくては、この疑問に答えることはできない。現在では、恒星の一生は、質量と化学組成が与えられれば数値モデルによってシミュレーションできる。
恒星は宇宙空間にあるガスや塵(ちり)からなる星間物質が集まり、重力的に収縮してできる。収縮により中心部は圧縮され高温となり、星として光り始めるが、この段階を「原始星」という。この間、半径がだんだん小さくなり、やがて中心部が十分に高温になると、核融合反応により4個の水素原子核が1個のヘリウム原子核に変わる反応がおきる。この段階にあるのが「主系列星」である。恒星は一生の大部分の期間を主系列星として過ごす。この期間は安定しており、光度も表面温度もほとんど変化しないので、多くの恒星をランダム・サンプリングしてHR図をつくると、主系列にいちばん多く集まることになる。系列をなすのは、主系列星は質量の違いによって光度と表面温度が少しずつ異なるからで、質量の大きい主系列星ほど光度が明るい。
中心部の水素が消費されてヘリウムがたまってくると、恒星は内部の重力と熱のバランスをとるために半径が大きくなり、HR図上で巨星への道を進む。この巨星への膨張段階は、その一生からみて非常に短い。巨星になった恒星は、中心部で3個のヘリウム原子核が結合して炭素原子核になる核融合反応をおこすようになる。やがて中心部のヘリウムが消費されて炭素がたまると、さらに半径が大きくなって超巨星になり、今度は炭素原子核がネオン原子核とマグネシウム原子核になる核融合反応をおこす。
質量が太陽の数倍以下の星では、その後、外層部分をゆっくりと放出して「惑星状星雲」を形成し、高密度の中心部分は余熱で光って「白色矮星」となり、徐々に冷えて一生を終える。一方、質量が太陽の数倍以上の星では、さらに核融合反応が次々と進み、中心部に鉄がたまるようになると、星全体として不安定になって超新星爆発をおこし、華々しく一生を終える。超高密度の芯(しん)は残されて「中性子星」になる。爆発前の星の質量が太陽の数十倍もある場合には、芯は「ブラック・ホール」になる。爆発で飛び散ったガスはふたたび星間物質へと戻っていく。
質量の大きい星ほど、核融合反応が激しく「燃料消費」が著しいので、星の寿命は短い。主系列星としての太陽の寿命は約100億年と計算されている。現在の太陽の年齢は、太陽系の年代測定から約46億年と推定されているので、まだ50億年以上は主系列星のままと考えられる。
[岡崎 彰]
星々のなかには、空間に集団をなして分布しているものがあり、星団とよばれている。一つの星団の星々はほぼ同時に生まれたと考えられている。同じ星団の星々はどれも地球から実質的に同じ距離にあるので、絶対等級と見かけの等級との差はどの星も同じだとみなしてよい。したがって、星団のHR図は、その距離がわからなくても、縦軸に見かけの等級を使って作成できる。また、見かけの等級で表された星団のHR図の主系列を、絶対等級で目盛られた標準的なHR図の主系列と比較して、その等級差から星団までの距離を求めることができる。
いくつかの星団のHR図を、主系列が一致するように重ねてやると、主系列の左上端までの長さが星団によって異なるだけでなく、その左上端が上方に曲がっている。星団では星々が同時に生まれたことを考慮すると、現在、この左上端に位置する星々が主系列を離れて巨星に向い始めたことを表している。かつてそれよりも左上側に並んでいた質量の大きい星々はすでに主系列星の段階を終えたので、そこにはない。したがって、この上方に曲がった左上端(転向点)の位置が右下にある星団ほど年老いていたものといえる。
[岡崎 彰]
(土佐誠 東北大学教授 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ただし,質量のあまり大きくない星ではこの主系列前の巨星または亜巨星の時期があり,おうし座T型星はこれに相当する。恒星の大部分は主系列星であり,後出のヘルツシュプルング=ラッセル図(HR図)上に列をなして分布するのでこの名がある。主系列星は太陽と同じく中心部で水素をヘリウムに転換する熱核反応によってエネルギーを供給している恒星である。…
…星団の恒星はほぼ同じ距離にあるので,恒星の絶対光度を直接相互に高い精度で比較できる。 ヘルツシュプルング=ラッセル図(HR図)は恒星の進化のようすをあとづけて個々の恒星の質量を知り,星団の年齢を知るための手がかりを与えてくれる。HR図とは,横軸に恒星の表面温度または色またはスペクトル型をとり,縦軸に恒星の絶対光度をとった図である。…
…横軸に星のスペクトル型,縦軸に星の絶対等級をとった図表。略してHR図ともいう。E.ヘルツシュプルングが1911年にプレヤデス,ヒヤデス両星団の星の色指数を横軸,見かけの等級を縦軸に示す図を作り,H.N.ラッセルが13年に当時ようやく得られた数十の星の視差に基づく絶対等級を縦軸にとる図を作った。…
※「HR図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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