ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「年代測定」の意味・わかりやすい解説
年代測定
ねんだいそくてい
age determination
樹木の年輪,氷河堆積物の氷縞土など年周期がわかっているものは第四紀の最近地質時代に適用できる。黒曜石の水和層の厚さを計測する方法は考古学で利用できるが,温度の影響を受けるため,およその年代であれば得ることができる。火山の多い地域では噴火に伴う降灰は広い地域に分布するので,火山灰に含まれる鉱物の放射年代を測定し火山灰層を使って対比することができるので,最近地質時代の地層や考古学的遺跡にも利用される。化石の生層序と放射年代,古地磁気層序を組合せることによっても精度の高い年代を得ることができる。これは特にジュラ紀以降の海成層に広く利用されている。放射性同位体を利用した放射年代測定は地質時代に広く使えるが,測定可能な鉱物,岩石がどこにでもあるとは限らない点に問題はある。しかし,最も広く利用され信頼度も高い。
放射性同位体を使った年代測定は放射性物質が外的条件とは無関係に一定の割合で崩壊することを利用するもので,質量分析計の発達によって微量の元素の定量分析が可能となり,精度の高い年代が得られるようになった。以下,いくつかの方法の要点を述べる。
ウラン・鉛法というのは,ウランの同位体のうち,ウラン 238が 44億 7000万年の半減期で鉛の同位体である鉛 206に,ウラン 235が7億 400万年の半減期で鉛 207にそれぞれ崩壊する。したがってウラン鉱物の生成年代が古いほどそれには多量の鉛 206と 207が含まれるわけで,ウラン 238と鉛 206の量比とウラン 235と鉛 207の量比をはかることによってウラン鉱物の生成年代を得ることができる。実際には鉛 206と 204の比,鉛 207と 204の比をはかって年代が求められるので鉛・鉛法ともいう。半減期が長いため1億年以上の古い試料の年代測定に有効である。
ルビジウム・ストロンチウム法は,ルビジウムの同位体のうちルビジウム 87が 488億年の半減期でストロンチウム 87に崩壊するものを利用するわけであるが,この場合は,初生鉱物中にストロンチウム 87がすでに若干含まれているため,同一の岩石から2つ以上の異なった鉱物を取出し,それぞれについてストロンチウム 87と 86の比,ルビジウム 87とストロンチウム 86の比を求め,それから等時線を描いて年代を得る。この方法は花崗岩などに広く利用され 1000万年前より古い試料の年代測定に適用できる。
カリウム・アルゴン法は,カリウムの同位体のうち,カリウム 40は 12億 5000万年の半減期でアルゴン 40とカルシウム 40に崩壊する。このうちカリウム 40とアルゴン 40を使って年代を決める。カリウムは多くの岩石に含まれているので 100万年以上前の試料に広く利用される。また,岩石に中性子を照射し,岩石中のカリウム 39をアルゴン 39に変え,アルゴン 40と 39の比を使って年代を測定する方法をアルゴン・アルゴン法と呼び,これは量の限られた試料に有用である。
炭素 14法 (→ラジオカーボンデーティング ) は,天然に存在する炭素の同位体である炭素 14が 5730年の半減期で窒素 14に崩壊するが,生物体中の炭素 14の割合は大気中と等しく,死んだ生物体内の炭素 14は時間とともに放射性崩壊で消滅するので,残存する炭素 14の割合から年代を得る方法である。これは木材,動物の骨などに利用され,数万年前までの年代測定に使われる。
フィッショントラック法は,鉱物中に含まれるウランが核分裂を起すとき,放出される物質が鉱物中を通過する際に結晶に傷跡をつけるので,鉱物中のウラン含有量とフィッショントラック (飛跡) の数を数えることにより年代測定をする。使用する鉱物としてはジルコンが最も適し,火山噴出物に有用である。
このほか,化石による生層序と古磁気層序を利用した年代測定としては,海洋のプランクトンであるナンノプランクトン,浮遊性有孔虫,ケイ藻,放散虫のそれぞれの化石の生層序と古磁気の逆転史を組合せ,それに放射年代を加えて,連続した微化石年代尺度をつくり,白亜紀以降の海成層で精度の高い年代が得られている。古地磁気層序はジュラ紀中期まで確立されているのでアンモナイトの生層序を組合せて利用できるし,放散虫は古生代から出現しているのでその生層序と放射年代を組合せることが可能である。これらも地質年代学ではあるが,通常,生物年代層序学 biochronostratigraphy,生物年代学 biochronologyと呼ばれている。
これらのさまざまな方法を使って地層,岩石,地質時代の年代を決めることができるが,近年では年代測定の精度が高まり,地質学の分野に大きな進歩をもたらした。
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