有性生殖においては大・小2種類の配偶子,すなわち卵と精子が受精することによって発生を開始するが,どちらか一方の配偶子のみで発生が開始する場合がある。そのような発生を単為発生といい,また,単為発生が正常の生殖過程の一部として認められる場合に単為生殖という。雌性配偶子からの単為生殖を処女生殖,雄性配偶子からの単為生殖を童貞生殖と呼ぶこともある。
植物では,半数体の配偶子からの単為生殖の例がシロバナヨウシュチョウセンアサガオなどで知られているが,一般に生じた植物体は全体に小さくて,種子をつくらない。倍数体の配偶子からの単為生殖の例は,ドクダミ,ハンノキ,タンポポなどで知られている。またツチトリモチでは,常習的に単為生殖によって種子がつくられている。
無脊椎動物では,昆虫のミツバチ,アリマキ,タマバエ,甲殻類のミジンコなどの例が古くからよく知られている。ミツバチでは染色体数2n=32の雌と働きバチは受精卵から生じ,n=16の半数の単為発生胚は雄になる。アリマキやミジンコでは季節的に単為生殖をして雌のみが生じ,有性生殖世代と交代する。
脊椎動物のような高等動物では単為生殖は行われないと考えられていた時代もあったが,1940年代から魚類のアマゾンモーリーやアジア大陸北部産のギベリオブナ,日本産のギンブナなどで雌だけのコロニーのあることが見いだされ,雌性単為生殖を行っていることが確認された。ギンブナでは卵がドジョウ精子で媒精された後,発生が開始し,ドジョウ精子由来のゲノムは利用されず,雌のギンブナ個体となることが知られている。
爬虫類では,アルメニアに産するカナヘビ属の1種,およびアメリカ,ニューメキシコに産するハシリトカゲ属の1種が雌性単為生殖を行うことが知られている。哺乳類で単為生殖を行う種の存在は知られていない。
下等脊椎動物卵では,実験的に未受精卵を刺激して単為発生を行わせ,個体を得ることが可能なものもある(例えば,カエルや一部の魚類)。しかし哺乳類胚では,現在までのところ実験的に単為発生を誘発した胚で初期の体節期以上に発生が進行した確かな例は報告されていない。例外的に,マウス受精卵において,前核の融合が起こる以前に,雌性前核と雄性前核の一方を実験的に除去し,残った前核の染色体を2倍化した後発生を継続させて成体に至らしめた報告がある。しかし,この結果は他の実験室で追試することができないまま現在に至っている。
執筆者:舘 鄰
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本来は雌雄の両個体があって有性生殖を行う生物が、一方の個体のみで子孫をつくりだす生殖で、単性生殖ともいう。単為生殖では、雌の生殖細胞である卵が、雄の精子なしに分裂増殖して新しい個体に発生する場合が多く、これを処女生殖とよぶ。逆に、精子の単為生殖を童貞生殖という。また、単為生殖は自然単為生殖と人為単為生殖に分けられる。
ミツバチの雄は染色体が半数の16であるが、これは、女王バチが産んだ未受精卵から雄が発生するからである。この雄と交尾した女王バチは倍数染色体の卵を産み、こうして生じた受精卵から将来の女王バチも含めて雌が生じる。動物のなかには季節によって自然単為生殖を行うものがある。アリマキは夏に単為生殖をして雌をつくるが、秋には有性生殖を行う。ワムシのなかには、卵を形成する個体しか見当たらずつねに単為生殖をしているものもある。単為生殖は下等動物に限ったものではなく、魚類、両生類、爬虫(はちゅう)類のなかには未受精卵から発生するものがある。しかし、鳥類では雄の染色体が同型であるので、単為生殖では雄ができる。したがって鳥類では単為生殖を続けることはできない。雌の染色体が同型の場合のみ単為生殖を継続できるのである。
単為生殖は人工的にも引き起こすことができる。これを人為単為生殖という。フランスの生物学者バタイヨンE. Bataillonは、無数のカエルの卵を針で刺して、少数の卵が発生を始めることをみいだした(1910)。針の先に血液をつけて刺すと成功例はずっと増える。その後この種の研究はウニや両生類の卵で行われ、機械的刺激、種々の薬品、高張液などの処理で人為単為生殖に成功している。自然単為生殖のなかには、人為単為生殖でみいだされたなんらかの因子によっておこった場合もありうる。哺乳(ほにゅう)類でも、未受精卵の分割を人工的に開始させて初期発生をおこさせた実験はあるが、個体にまで発生させた報告はない。したがってヒトの処女懐胎による単為生殖は、絶無に近いといえよう。
[高杉 暹]
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