改訂新版 世界大百科事典 「ツチトリモチ」の意味・わかりやすい解説
ツチトリモチ
Balanophora japonica Makino
完全寄生するツチトリモチ科の植物。常緑のハイノキ属の根に接着する塊状茎から,赤色で楕円形の花穂をもつ花茎を出す。その花穂の表面は粒状の棍状体の集合であるが,棍状体の基部には微小な子房が密生している。これは雌花の退化したもので,子房中には1個の胚珠があり,単為生殖で種子ができる。微細な種子は少数細胞の胚乳と,単細胞で代表される胚からなる。花穂上には雄花は全くない。完熟した種子は寄主の細い根に接着して小塊状となり,10年くらいを経て塊状部がこぶし大になるとその中に花茎を生じ,花茎は塊状茎を破って現れる。塊状茎の中で寄主根が分岐して養分をツチトリモチに供給する珍しい型の寄生である。塊状茎にはもち状物質のバラノフォリンbalanophorinがあり,これからとりもちを作る。和名はこのことに由来する。本州の紀伊半島以南奄美大島までの太平洋岸の常緑樹林帯に分布し,似たものが中国にもある。日本にはほかにミヤマツチトリモチ(雌株のみみつかっている),キイレツチトリモチ,リュウキュウツチトリモチ等もある。ミヤマツチトリモチB.nipponica Makinoは九州中部以北本州北端までの落葉樹林に生じ,ツチトリモチに似ていて,寄主根の中に寄生して寄主に木腐を生じた後,木こぶから自身の塊根を噴出し,それに黄色から橙色の花穂を生ずる。キイレツチトリモチは沖縄から南九州までの沿海地の低木林に生じ,トベラ,シャリンバイ等に寄生し,花穂に雌花と雄花を混生する。
広義のツチトリモチ属Balanophoraはマダガスカルからインド,マレーシアにかけて,またオーストラリア,ポリネシア,台湾,中国,日本まで80種が分布している。
執筆者:渡辺 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報