X線を発生させるための電子管。電子を発生させる陰極と、電子流を受け止める対陰極を備え、電子を高電圧で加速し、これを対陰極に衝突させてX線を出す仕組みになっている。X線には、対陰極に電子が衝突するとき電子エネルギーが変換されて発生し、連続スペクトルをもつ連続X線と、対陰極の原子内にある電子が加速電子によってかき乱されて、対陰極物質から出る固有な線スペクトルまたはその一部で構成される固有X線とがある。
X線管は、1895年レントゲンの発見以来使われたイオンX線管(ガスX線管ともいう)と、1913年にアメリカのゼネラル・エレクトリック社のクーリッジが考案した電子X線管(クーリッジ管、熱電子X線管ともいう)とに大別できる。
イオンX線管の原理は、放電管を0.1トル(水銀柱0.1ミリメートルの圧力)程度に減圧して放電させると、管内に残った少量のイオンが加速され陰極に衝突し、陰極から高速の電子が放射される。この電子が対陰極に衝突し、X線を発生する。しかし、X線の波長(硬さ)を一定に保つのに真空度の微妙な調整が必要なうえ、X線の強度と波長を別々に変えることのできない欠点のため、あまり使われなくなった。
電子X線管は高真空中のタングステン陰極フィラメントを加熱し、熱電子流をつくり、これを直接対陰極、つまり陽極に衝突させてX線を発生させる。陽極物質は、連続X線の場合はタングステン、固有X線の場合には鉄、銅、モリブデン、銀などが多く用いられている。電子の加速電圧は30~100キロボルトで、透過度をあげたいときは加速電圧をさらにあげている。この際、電子のエネルギーはわずか1%しかX線に変換されず、残りは熱になるため、X線の出力線量に応じた冷却法が用いられている。
歯科用などの小型の固定陽極X線管では銅製の陽極体を通して熱を絶縁油に逃がし冷却している。焦点サイズはほとんどが0.1~1.0ミリメートル。循環器診断用やCTスキャナなどの大型の回転陽極X線管は、円板状のターゲットを外部からの回転磁界により毎分3000~9000回転と高速回転させて熱上昇を抑えている。大出力用には消音のためにボールベアリングのかわりに潤滑用に液体金属を用いたものも開発されている。焦点サイズは0.1~2ミリメートル。分析用はX線のスペクトル特性が問題とされ、ターゲットには使用目的に応じて種々の金属が用いられるが、ほとんどは陽極を接地して強制冷却している。非破壊測定用はとくにX線出力の安定度に配慮されている。
なお、特殊X線管として、二次電子を強く発生する二次X線管(蛍光X線管ともいう)、焦点の半径が0.01ミリメートル以下という微小焦点X線管などがある。
[岩田倫典]
医学診断やX線回折などに利用するX線を発生するための電子管。電子管中に高電圧をかけた陽極を置くと電子は加速され,大きな運動エネルギーを伴って陽極に衝突する。この電子は陽極物質の原子核の近傍で制動を受け,また原子内の電子に作用して運動エネルギーの一部を波長の短い電磁波,すなわちX線として放出する。W.C.レントゲンは1895年末,実験中の放電管から蛍光作用,写真作用のある放射線が発生することを発見し,手の骨の透視写真撮影に成功し,これにX線と名付けた。
(1)イオンX線管 レントゲンの実験ではクルックス管と呼ぶ冷陰極放電管(二つの金属電極をもち管内に減圧気体を含むガラス製の放電管)から得たX線を使用した。放電で生じた気体の陽イオンが陰極に衝突し,ここで発生した電子が加速され陽極に衝突してX線を発生するものである。この原理の管はイオンX線管と呼ばれ,その後陽極に融点の高いタングステンやモリブデンを使用し,冷却するなど,材料,構造の改良を施されて医学,近代物理研究の重要な道具として利用された。
(2)クーリッジ管 1904年J.A.フレミングによる熱陰極二極真空管の発明があったのち,13年,W.D.クーリッジにより熱陰極X線管が開発された。この管は回転陽極機構などを除き,現在のX線管とあまり変りがない。
(3)現在のX線管 ガラス管中に電子を発生する熱陰極と,ターゲットと呼ばれる陽極を備えた二極管で,後者に50~150kVの高電圧を与えて使用する。陰極から出た電子は細いビームとなってターゲットに衝突し,X線を発生する。ターゲットは電動機のローターと一体化してベアリングで真空中に支え,管外のコイルの作る回転磁界により高速回転し,ターゲットの局部的な加熱を防ぐものが多い。回転陽極X線管と呼ばれ,X線透視撮影やCTスキャンなどに広く使われている。
執筆者:長谷川 伸
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X線は初期のころは低圧気体放電管により発生させたが,W.D. Coolidge(1913年)はクーリッジ管とよばれる現在の型の管をつくった.これは熱電子放出源としてフィラメントを備えた高真空二極管である.陰極から出て高電圧で加速された電子は,対陰極ともいわれる陽極に当たりX線を発生させる.対陰極には融点が高いことと熱伝導のよいことから,タングステン,モリブデン,銅などが使われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報
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[X線の発生方法とスペクトル]
もっともふつうに用いられる方法は,陰極と陽極(対(たい)陰極ともいう)を入れて封入した大型の真空管において,陰極を電流で熱し,飛び出した電子(熱電子)を電極によって加速して対陰極に衝突させるもので,発生したX線は,ベリリウムやガラスのようなX線の吸収の少ない物質で作った窓を通して外に出して使用する。このような管はクーリッジ管あるいは熱電子式X線管と呼ばれ,陰極にはふつう,タングステンのフィラメントなどが用いられる。加速した電子のエネルギーのうち,X線を発生させるのはごく一部で,そのほとんどは熱となるため,対陰極にはタングステンやモリブデンなどの高融点物質や,銀や銅などの熱伝導性がよく,かつ融点も比較的高い物質が用いられ,さらに水などで冷却するのがふつうである。…
※「X線管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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