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小説家。神戸市生れ。東大英文科卒。文化学院教授。父を早く失い,家庭的には不幸で,かつ虚弱であったことから,不安,自虐,虚無の繊細な心理を描くことにたけた。初期には《静物》(1922),《昇天》(1923)などがある。1924年には新感覚派の機関誌《文芸時代》の同人に参加し,のちにその知性と敗残への共感が融合された《仕立屋マリ子の半生》(1928),《あの道この道》(1929)などを出した。その才能が十分に開花すべき対象を,幕末の下田芸者お吉のくずれ行く生涯に求め,時代と運命にもてあそばれる女性悲劇を《唐人お吉》(1928-31)に書いた。この作は時代考証に特色があり,耽美,頽唐,虚無の世界が鏡花風の文体に盛られている。
執筆者:長谷川 泉
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小説家。神戸市に生まれる。父の死、兄の出奔と続く艱難(かんなん)を経て、高校時代から文学を志す。東京帝国大学英文科在学中、同人誌『行路』を創刊。卒業後、教職のかたわら創作に励んで『静物』(1923)を上梓(じょうし)する。1924年(大正13)『文芸時代』創刊に参加。『青草』(1924)、『仕立屋マリ子の半生』(1928)、幕末下田(しもだ)の史実に取材し好評を博した『唐人お吉』(1928)、『神風連』(1932~34)などの代表作を遺(のこ)して病没。敗残者への共感、現世放棄的傾向に特徴がある。
[高橋真理]
『『現代日本文学大系62 十一谷義三郎他集』(1973・筑摩書房)』
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…没後お吉への同情の風潮がたかまり,村松春水らによる史実研究や伝聞収集が行われた。十一谷義三郎(じゆういちやぎさぶろう)著の小説《唐人お吉》(1928),《時の敗者唐人お吉》(1929)が発表され,開国期の一女性の悲劇を掘り下げた点が注目される。さらに真山青果に《唐人お吉》(1930),《唐人お吉と攘夷群》(1931),山本有三に《女人哀詞》(1930)の戯曲があり,それぞれ舞台化され好評であった。…
※「十一谷義三郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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