刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cells)の略称。動物の体細胞に外的なストレス(刺激)を与えて分化多能性を獲得させた細胞,刺激惹起性多能獲得現象(STAP現象)から得られた細胞という意味で,STAP細胞と名付けられ,小保方(おぼかた)晴子(当時理化学研究所)らが発見,作製したとして小保方を代表とする共同研究者らの論文が2014年1月《ネイチャー》誌に掲載された。小保方ら理化学研究所が発表した新しい万能細胞(STAP細胞)はすでに発見されたES細胞やiPS細胞などの多能性細胞に比べて格段に作製法が容易で,また胎盤への分化能をも持っているとされ,今後の再生医療への画期的な貢献が期待されるとした。この発見はこれまでの生物学の常識を覆すものとされ,世界に大きなインパクトを与えた。しかし,論文掲載直後から,追試実験がすべて成功しないことや論文の記述や記載データに不備・不正疑惑があることが次々と指摘され,さらに共同研究者の中から論文撤回の呼びかけが表明されるなど,事態は急転した。理化学研究所は調査委員会を設置し,論文に研究不正があったかどうかの調査を開始し,2014年4月調査最終報告を発表,二項目について,〈ねつ造,改ざんや悪意による研究不正に該当する〉とした。一つは画像データに明らかに切り貼りが認められるという点であり,もう一つは,STAP細胞論文に小保方の博士論文で使用されている別の実験で得られた画像が流用されているという点である。さらには,共同研究者であり,すでに世界的な名声を得ている研究者でもある笹井芳樹(当時理化学研究所,発生・再生科学総合研究センター),若山照彦(山梨大学)について,研究不正は認められないが,シニアの研究者としてデータの正当性・正確性について確認することなく論文投稿に至った責任は重大,と指摘した。また理化学研究所として,STAP現象の検証作業を野依良治理事長主導で実施すると発表した。調査委員会の研究不正の認定に対して小保方側は不服申立し再調査を求めたが,5月理化学研究所・調査委員会はこれを却けた。理化学研究所は懲戒委員会を設置し小保方をはじめ関係者の処分の検討に入った。〈世紀の大発見〉は,一転して〈未熟な研究者〉のデータ・コピー&ペースト問題という研究スキャンダルに転落したかたちとなった。8月,笹井芳樹が研究センター構内で自殺,世界の科学界に衝撃を与えた。日本の科学技術開発の基幹を担ってきた理化学研究所で起こった研究不正疑惑であることは深刻かつ重大で,問題の背景にある,日本の科学者の倫理教育の欠如,効率を競う若手研究者の過当競争,特許と研究資金を巡る研究機関同士の熾烈な競争,先端科学の成果を一刻も早く成長戦略に組み込もうとする国家等,現代日本のサイエンス研究のありかたが根本的に問われる事態となった。2014年4月以降,理化学研究所はSTAP現象の検証チームを立ち上げ,STAP現象の再現を試みた。また,7月からはこれとは別に小保方にも単独での検証実験を実施させたが,2014年12月,理化学研究所は,検証チーム・小保方のいずれもSTAP現象を再現できなかったとし,実験打ち切りを発表した。2015年2月,理化学研究所はSTAP細胞をめぐる研究不正問題に関する処分として,小保方晴子を〈懲戒解雇相当〉(2014年12月に依願退職),若山照彦を〈出勤停止相当〉と発表した。
あらゆる細胞に分化させることができる「万能細胞」の一種で、STAPはStimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency(刺激惹起性多能性獲得)の略称。2014年1月30日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子研究ユニットリーダーなどのグループが、マウスの細胞での作製に成功したと英国の科学誌「Nature」に発表した。万能細胞は皮膚・臓器などの移植に関わる再生医療他の分野において大きな注目を集めており、これまで「ES細胞」やさらに進化した「iPS細胞」の作製がなされてきた。STAP細胞は、細胞を弱酸性の溶液に30分ほど浸すことで刺激を与え、それを培養することにより作られ、iPS細胞の作製に必要な遺伝子注入を必要としない。そのため、より短時間で効率的に作ることができ、細胞がガン化する可能性も低くなると考えられている。