家庭が購入する食料品や電気・ガス、通信費などの値動きを表す指数。総務省が毎月公表する。天候によって価格が大きく変動する生鮮食品を除いた指数が重視される。景気動向を把握したり、日銀が金融政策を判断したりする材料になる。日銀は、賃上げを伴う形で物価上昇率を前年比2%程度に安定させる目標を掲げている。
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全国の世帯が購入する財(食料、衣料など)やサービス(交通費、医療費など)の価格を総合して一つの指数に表し、その時系列的な変動を測定するもの。総務省統計局が算出し、毎月公表している。略してCPIともよばれ、企業物価指数(CGPI)と並んで、代表的な物価指数である。家計の消費内容を基準時(比較の基準となる時点)のものに固定し、これに要する費用が個々の財やサービスの価格変化によってどう変化するかを指数の形で示している。とくにインフレーション(インフレ)を含めた景気動向、物価対策などの資料として重視されている。
指数の算出には、ラスパイレス指数の考え方が用いられている。消費構造の変化に対応するため、5年に1回、基準時が改定されている。基準時改定の際には、個別の財やサービスに家計がどれだけ支出しているかの購入割合(ウェイト)を変更する。ウェイトは家計調査によって得られた基準時における1か月平均の1世帯当りの品目別消費支出を用いて作成している。個別の財やサービスの価格は小売物価統計調査の動向編によって得られた市町村別、品目別の小売価格を用いるほか、パソコン(デスクトップ型)、パソコン(ノート型)、カメラなどについては、POS(販売時点情報管理)情報による全国の主要な家電量販店で販売された全製品の販売価格を、航空運賃や宿泊料などについては、ウェブサイトから情報を抽出するウェブスクレイピングによるインターネット販売価格を用いている。
基準時改定の際には、指数算出に用いる財やサービスの入れ替えも行われる。消費者物価指数は、全国の世帯が購入するすべての財やサービスを用いて計算されているわけではなく、家計の消費支出のなかで重要度が高いことなどの尺度で選ばれているためである。
日本の消費者物価指数は、第二次世界大戦後の1946年(昭和21)8月、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の覚書に基づいて、内閣統計局(現、総務省統計局)が作成を開始し、1947年9月に公表したものが最初である。当時は、戦後の混乱期における特殊事情を背景に、統制価格と闇(やみ)価格という二重の価格体系が存在していたため、消費者価格調査から得られる実効価格とウェイトを用い、フィッシャー指数の考え方で算出していた。
第1回の改定は1949年8月であった。基準時を1948年として、ラスパイレス指数の考え方で1946年8月までさかのぼって指数が算出された。しかし、経済の混乱状況がなお続いていたため、物価としては依然として実効価格が用いられた。
その後、経済情勢もしだいに落ち着いてきたため、1950年6月から新たに小売物価統計調査を開始した。この情報を用いて、1952年9月には基準時を1951年に変え、従来の実効価格に変えて、小売物価統計調査の結果を用いて指数の算出を始めた。1955年以降は、消費構造の変化を考慮して5年ごとに基準時を改定している。また、2000年(平成12)基準改定からは、基準改定後に急速に普及し、一定のウェイトを占めるに至った新たな財やサービスの価格変動を迅速に指数に取り込めるようにするため、次の基準改定を待たずに品目の見直しを行うことになった(中間年見直し)。
基準時改定に伴い、指数計算に採用される品目数は変化している。1949年8月の第1回改定時は195品目であったが、2001年8月の2000年基準への改定では596品目まで拡大した。その後の品目数はほぼ横ばいであり、2021年(令和3)8月の2020年基準への改定では582品目が指数算出に用いられている。
指数の分類体系については、従来、食料、住居、光熱、被服、雑費の5大費目分類であったが、1981年1月の家計調査収支項目分類の改正に伴い(その資料は、物価指数算定のウェイトとして用いられる)、1980年基準指数から10大費目分類(食料、住居、光熱・水道、家具・家事用品、被服及び履物、保健医療、交通・通信、教育、教養娯楽、諸雑費)に改められた。
これまでに注目度の高かった基準改定は、以下のとおりである。1985年基準改定から「持ち家の帰属家賃を含む総合」の指数を総合指数とした。1990年(平成2)基準改定では、基本分類の別掲項目として「生鮮食品を除く食料」と「教養娯楽関係費」の指数を新設。1995年基準改定では、卸売物価指数(現、企業物価指数)の国内最終消費財と比較可能な「生鮮食品を除く商品」の指数を新設した。前述のとおり、消費者物価指数の算出では基本的に小売物価統計調査の結果が用いられているが、2000年基準改定では「パソコン(デスクトップ型)」「パソコン(ノート型)」の2品目についてはPOS情報による販売価格が用いられるようになった。
2005年基準改定では、新たな分類項目として「情報通信関係費」「エネルギー」「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の指数を作成した。また、「ラスパイレス連鎖基準方式による指数」および「総世帯指数」について、年平均指数に加え、月次指数の作成を開始した。「カメラ」もPOS情報が使われるようになった(「デジタルカメラ」については2003年1月からPOS情報を使用)。
2020年基準改定では、近年のインターネット購入の増加などを受けて、「航空運賃」「宿泊料」「外国パック旅行費」についてはウェブスクレイピング技術を活用することとした。「テレビ」「ビデオレコーダー」「プリンタ」については対面販売とインターネット販売の価格を含むPOS情報を活用することになり、「パソコン(デスクトップ型)」「パソコン(ノート型)」「タブレット端末」「カメラ」は引き続きPOS情報を活用することにしている(「タブレット端末」は2020年より「パソコン(ノート型)」から分割)。
なお、2020年基準改定においては、物価指数算定のウェイトを2019年と2020年の平均1か月間1世帯当り品目別消費支出金額としている。従来どおりであれば2020年のデータのみを用いるのであるが、2020年の消費支出金額に新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の影響が大きく表れたためである。
[飯塚信夫 2022年2月18日]
消費者段階における物価の変動を示す,最も代表的な物価指数。CPIともいう。日本の消費者物価指数は,全国の消費者世帯(農林漁家世帯および単身者世帯を除く全世帯)が購入する各種商品とサービスの価格の変動を総合的に測定するものである。すなわち家計の消費構造を一定のものに固定し,これに要する費用がどう変化するかを指数値で示したもので,世帯の購入数量や生活内容の変化を測定するものではない。この指数は,(1)経済動向や景気観測の判断資料,(2)物価対策資料,(3)家計収支や賃金の実質化のためのデフレーター,(4)経済分析資料,(5)年金スライドのための資料,などとして広く多方面に利用されている。
日本の消費者物価指数は,第2次大戦後の混乱期の物価上昇を早急に測定するため,内閣統計局(現,総務庁統計局。1984年6月以前は総理府統計局)が1946年8月~47年3月の8ヵ月間を基準時とし,消費者価格調査(現在の〈家計調査〉)から得られる実効価格とウェイトを用い,〈フィッシャーの理想算式〉で作成し,47年9月に公表したものが初めである。第1回の指数改正は49年8月で,その基準時は1948年の1年間,算式もラスパイレス型(〈指数〉の項参照)に改め,1946年8月までさかのぼって改算された。50年6月から小売物価統計調査が実施されたことにより,購入価格を小売価格(店舗価格)に変更した本格的な指数となったのは51年基準指数からである。55年基準指数以降は消費構造の変化を追って5年ごとに基準時を改正している。
消費者が購入する多数の商品,サービスの中から,(1)家計支出上重要度が高い,(2)価格変動の面で代表性がある,(3)継続調査が可能である,などの観点から指数採用品目を選定している。採用品目は1948年の195品目から,基準時改正ごとに増加しており,80年基準では512品目(1995年基準では580品目)となっている。80年基準指数の改正では牛肉(輸入品),オレンジ,ティッシュペーパー,ゴルフクラブなど43品目を追加,ラジオ,テレビ(白黒),木炭,婦人駒下駄など20品目を廃止している。
ウェイトには,1948年基準指数は消費者価格調査,51年基準指数は消費実態調査,55年基準指数以降は家計調査の各基準年の支出金額を使用している。
1948年基準指数は消費者価格調査,51年基準指数以降は小売物価統計調査の価格を使用している。80年の小売物価統計調査は,全国167市町村で毎月3万店舗,家賃調査2万2000世帯など全国で約22万価格を調査している。調査日は毎月12日を含む週の水,木,金曜日のいずれか1日,ただし,日々の価格変動が大きい生鮮食品は,上旬,中旬,下旬の3回調査を行っている。
なおこれらの調査結果は,全国の前月分指数と東京都区部の当月分指数の中旬速報値を毎月26日を含む週の金曜日に公表している。公表される指数系列には,(1)基本分類指数(総合,十大費目,56中分類),(2)特殊分類指数(財とサービスの区分による分類),(3)地域別指数(都市階級,県庁所在地など),参考系列指数として特殊指数(年間収入5分位階級など)がある。
消費者物価指数の対象範囲は,ほとんどの国が消費支出に限っている。したがって税金,社会保険料などの非消費支出や貯金,保険掛金,有価証券購入など貯蓄および財産購入(土地を含む)は指数計算の対象から除外されている。持家の取扱いについては,日本では持家から受けるサービスを全く考慮しないで計算した指数のほか,持家の住宅を借家とみなした場合に支払われるであろう家賃(帰属家賃)を推定し計算した指数も公表している。これに対し,西ドイツ,アメリカ(1983以降)は帰属家賃方式,オーストラリアは住宅の価格を算入,カナダ,ニュージーランドは減価償却および利子を算入,フランス,デンマークは持家からのサービスをまったく考慮しないで指数の計算を行っている。また算式は,日本を含め大部分の国がラスパイレス型,イギリス,フランスはラスパイレス型の連鎖指数,ソ連はパーシェ型の連鎖指数と,国により若干異なる。
→物価指数
執筆者:時田 政之
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(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)
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…また経済全体のインフレ率としてはGNPデフレーターが用いられることが多い。とくに消費者にとってのインフレ率については,毎月作成され,しかも速報性のある消費者物価指数(CPI)が最もよく用いられている。しかし同指数は基準年の家計支出シェアでウェイトを固定したラスパイレス指数であるため,時間の経過とともに,価格上昇の大きい商品のウェイトは過大に,価格下落の著しい商品のウェイトは過小となり,インフレ率が過大に算出されてくる欠点がある。…
…もちろん現実経済に一般的な物価というものが存在するわけではなく,それは統計的な指数(多くの財の価格の平均)によってとらえられるものである。たとえばどのような財の価格を指数に取り入れるかによって,消費者物価指数,卸売物価指数,GNPデフレーター等があり,これらはそれぞれ目的に応じて使い分けられている。 さて一般物価水準の変動(その上昇がインフレーションにほかならない)にわれわれが関心をもつのはどのような理由によってであろうか。…
…こうした統計調査に基づき収集した価格について,その変動を総合的にとらえるため,基準時を特定し,一定の算式を用いて指数化したのが物価指数である。それぞれ固有の利用目的をもついろいろな物価指数のなかで,代表的なものとしては〈消費者物価指数〉と〈卸売物価指数〉とがある。消費者物価指数(総務庁作成)は,全国の一般消費者世帯(農林漁家世帯,単身者世帯を除く)が消費目的のために購入する商品・サービスの価格(小売物価統計調査によって得られた小売価格)を対象とし,その全般的な物価水準の変動を測定することを目的とした指数で,1946年8月から統計が始められている。…
※「消費者物価指数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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