日本大百科全書(ニッポニカ) 「みなし公務員」の意味・わかりやすい解説
みなし公務員
みなしこうむいん
国家公務員法、地方公務員法上の公務員ではないが、公務員とみなされて、公務員に適用される刑法の規定の一部が適用される職員のこと。一般に、「刑法その他の罰則の適用に関しては、法令により公務に従事する職員とみなす。」という特別の定めによる。現行法を検索すると、この用語を用いる法律は200以上もある。
適用される法律は、一般に、収賄罪や守秘義務の規定であるが、その行為が、刑法の保護に値する「公務」との扱いを受けると、その妨害は公務執行妨害罪になる。しかし、収賄罪を適用しているだけのものもある(NTT=日本電信電話株式会社等に関する法律19条、北海道、四国、九州の旅客鉄道株式会社と貨物鉄道株式会社など=旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社法16条)。
特定独立行政法人の役職員(独立行政法人通則法51条)は国家公務員であるが、独立行政法人都市再生機構、国民生活センターのような、役職員が国家公務員の身分を有しない非公務員型独立行政法人(独立行政法人都市再生機構法10条、独立行政法人国民生活センター法9条)、日本銀行(日本銀行法30条)などの認可法人(特別の法律に基づき主務大臣の認可が要件となっているもの)、国立大学法人等の職員(国立大学法人法19条)、一般地方独立行政法人(地方独立行政法人法58条)の役職員は公務員ではないが、みなし公務員とされる。2007年(平成19)10月1日現在、独立行政法人は102(うち非公務員型独立行政法人は94)、特殊法人は36ある。なお、NHK(日本放送協会)は、一見特殊法人であるが、放送法により設立されているもので、国の出資や特定の出資はいっさい受けておらず、放送は国の事務の代行ではなく、組織的にも財政的にも国から独立しているので、他の特殊法人と基本的性格を異にしており、これにはあたらない。
行政組織が民営化されても、NTTやJRなどにみるように、みなし公務員の制度で、刑法その他の罰則の適用においては依然公務員扱いとされてきた。ただし、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)は完全民営化を果たして、社員はみなし公務員ではなくなった。
他方、純民間事業者でも、実質的に公務を委託されたと考えられるものは同様にみなし公務員扱いされる。たとえば、介護保険法第27条により、市町村から委託を受けた指定居宅介護支援事業者等の役員または介護支援専門員(ケアマネージャー)等もこれにあたる。
いわゆる駐車違反車両のレッカー車移動の前に、違反を確認する作業がある。これはこれまで警察官自身が行っていたが、2004年道路交通法改正により、06年6月から、放置車両の確認および標章の取付け事務を公安委員会の登録を受けた法人に委託している(道路交通法51条の8)。そして、この確認事務に従事する放置車両確認機関の役員または職員もみなし公務員である(道路交通法51条の12第7項)。「駐車監視員」が、違法駐車の写真やナンバーを記録し、違反の標章を取り付ける。反則金の徴収業務や捜査は警察官に引き継ぐ。監視員は「みなし公務員」となり、ドライバーが業務を妨害すれば公務執行妨害罪に問われ、監視員が賄賂(わいろ)を受け取れば収賄になる。また、公的な試験の委員も同様である(例、精神保健福祉士法16条)。
[阿部泰隆]