日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハコベ」の意味・わかりやすい解説
ハコベ
はこべ
[学] Stellaria neglecta Weihe
ナデシコ科(APG分類:ナデシコ科)の越年草。春の七草の一つ。茎が緑色なのでミドリハコベともいう。茎は柔らかく地表をはい、先は斜め上に伸びる。葉は卵形で長さ1~2センチメートル、先はとがる。春から夏、茎頂に小花をまばらに開く。花弁は白色、深く2裂する。種子には、ややとがった微小突起がある。道端や田畑、荒れ地に普通に生え、日本全土、およびアジア、アフリカ、ヨーロッパの温帯を中心に広く分布する。これによく似たコハコベS. media (L.) Villarsは、茎は赤褐色を帯び、葉はやや小さく、種子の突起は顕著でない。道端や田畑に普通に生え、日本全土、および温帯を中心に全世界に分布する。普通はミドリハコベとコハコベを区別せずにハコベとよび、小鳥の餌(えさ)や春の七草の一つとして親しまれる。
ハコベ属は、北半球の温帯を中心に約120種知られる。
[三木栄二 2021年1月21日]
文化史
平安時代から食用の記録が残り、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には野菜(当時は文字どおりの野の菜)の一つとして、波久倍良(はくべら)の名が載る。鎌倉後期の『年中行事秘抄』には、宮中で用いる七種菜(ななくさのな)に蘩蔞(はこべら)の名があがる。ハコベは異名や方言が多いが、ハコベの名は『下学集(かがくしゅう)』(1444)に初見する。江戸時代には種子を播(ま)いて育てたことが『百姓伝記』にみえ、はこべ汁(『料理物語』)などにして食べられた。また、干して粉にしたのを塩と混ぜたハコベ塩を歯みがきに使う習俗もあり、現在も歯茎の出血を防ぐ目的で使われることがある。
ハコベの語源には諸説あるが、はびこる→はこびる→はこべら→はこべの変化が考えられる。同様の生態をとらえた、はいずる→へえずるの派出とみられるへずる、ひずる系の方言が西日本に多い。
[湯浅浩史 2021年1月21日]