デジタル大辞泉
「マスメディア」の意味・読み・例文・類語
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マス‐メディア
- 〘 名詞 〙 ( [英語] mass media ) マス‐コミュニケーションのための媒体。新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・映画などの総称。
- [初出の実例]「マス・ミディアに載ったことのない人を重んじないという風潮の中に」(出典:平和運動と誓い(1954)〈桑原武夫〉)
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マスメディア
マスメディア
mass media
メディアとは情報が伝わる媒体を指し,マスメディアとは多数の人びとに伝わる媒体をいう。具体的には20世紀に頂点を迎えたテレビ・ラジオ・新聞という媒体を総称していう。この時期,社会の近代化とともに人びとを広く巻き込む大衆文化・市民社会が成立し,また国家レベルで大量の情報を伝達する機会と必要性が生じた社会的背景があり,そのもとにマスメディアは発展した。それは国民国家の成立と呼応し,国民に対して時々刻々と変化する社会的出来事を伝え,安価に娯楽を提供するというかつてない状況を作り出した。したがってマスメディアの最も目覚ましい特徴は,大衆性・公開性・遍在性・一方向性・定期性・不断の活動性といった点にある。人びとはマスメディアを通してこそ,間断なく,いつでも定期的に,分け隔てなく公開された社会の情報や娯楽を一方向的に受け取り,それを社会を見る鏡として,また社会に参加するための情報として,さらに社会から与えられる楽しみの機会として活用するようになったのであり,また他方では,マスメディアこそ低いレベルのリテラシーの持ち主でも社会の出来事を理解できる,広範で遍在的な情報取得の機会をもたらしたのである。
こうしてマスメディアは巨大な情報の「送り手」として「受け手」たる一般の人びとの生活に深く浸透した。それは人びとの身辺の出来事を除いた広い外界の情報について,マスメディアから排他的に取得する以外に情報取得の手段をほとんどもたないことを意味する。しかしいうまでもなくマスメディアとて自らの組織を通じて情報取得が可能な出来事しか報道可能ではなく,また取得した情報をすべて報道できることはなく,取捨選択し,重要度の順序を付けて報道せざるをえない。放送時間や新聞の紙面は電波の希少性やコストによって制約されているからである。こうして受け手は,マスメディアが排他的に収集し,マスメディアが重要だと選択的に定義づけた情報の内側(情報環境information environment)に住まわざるをえなくなる。
【マスメディアがもたらす社会的リアリティ】 このことは,マスメディアがわれわれの社会的リアリティsocial realityを形成する強力な媒体であることを意味している。われわれがほんとうに生じた,重要だ,と信じている出来事の形成にマスメディアの選択がかかわっているからである。そしてさらに,人びとが同じ情報をマスメディアから受け取るところから,マスメディアは人びとの間の公共的な媒体となり,情報の共有に大きな役割を果たすことになる。その役割の中でマスメディアは社会的な事件や出来事,街の声や現在の流行,世論調査の結果などの報道を通じて,人びとの意見を集約し,世論の変化に影響を与えることになる。もっとも,複数あるマスメディアの報道内容が大きく食い違うのであれば,人びとはそれらを比較考量し,自らの手で何が重要なニュースか,どのマスメディアの情報が正確かを相対的に独立して判断することが可能で,マスメディアの影響力は相対的に弱まるかもしれない。しかしながらマスメディアの報道の相互独立性については,否定的なデータが多い。つまり類似性が高いことが知られている。
【マスメディアの強力効果と限定効果】 これらのことを念頭におくとき,情報環境の形成者としてのマスメディアが人びとの行動に与える影響はきわめて強いのではないか,というマスメディアの強力効果powerful effect of mass mediaが推定されることになる。人びとが社会的に何が重要な問題か(争点か)を認識するときにその重要さを規定するのはマスメディアであるという主張は,議題設定効果agenda-setting effectとして知られるようになった(議題とは社会で話すべき事柄を指す)。また人びとはドラマの世界から社会全体もその世界と類似したものだと推論しがちだと指摘される(ドラマもまた社会的リアリティを与える)。しかしドラマなどに頻出する人物とその描写に一定の偏りがあることから,世界の実像をゆがめて認識することがドラマでも生じる。これは長期にわたる効果として一般に教化効果ないし涵養効果cultivation effectとよばれる。老人を弱い存在で失敗者として認識する,などのステレオタイプはドラマに頻繁に接触することによって涵養される。
一方,研究史的にはこうしたマスメディアに対する強力効果の認識は,長期の間否定されてきた。1940年代のアメリカにおいてマスメディアを通した選挙キャンペーンの効果が精緻に検討され,そこで影響力の主役となっているのは,マスメディアの情報を選択的に咀嚼し周囲の人びとに解釈する対人的なネットワークであり,マスメディアはそうした情報の解釈を担うオピニオンリーダーを超えていくことはできない,と判明したからである。これをマスメディアの限定効果limited effect of mass mediaという。
じつは強力効果も限定効果も両立しないものではない。人間は能動的に判断する存在であり,そのソーシャルネットワークの中で他者の情報をマスメディアより信頼する点で,限定効果の主張と一貫する特徴をもつ。しかしこれと同時に,人びとが取得する情報そのものはほとんどマスメディア経由のものである点で,人びとの認識はマスメディアに大きく制約されている。さらに,マスメディアの認知心理学的な知見が明らかにしてきたように,マスメディアの情報の提示のあり方によってプライミング効果priming effectやフレーミング効果framing effectが生じることがある。つまり前者ではマスメディアの情報刺激が直後の人びとの判断に影響するなどの現象が生じる(例,テレビが首相の失態を報道すれば与党の支持率が落ちる)。後者ではマスメディアが設定する報道の枠組みに添った判断枠組みで人びとは事件や出来事を判断しがちとなる(例,貧困の報道を特定の失業者のエピソードで枠づけると,貧困は社会的問題よりこの当人の問題に帰属されがちとなる)。これらは強力効果的なポイントである。
【インターネットinternet】 21世紀に入って,マスメディアは徐々にインターネットにその地位を奪われている。インターネットは1対1のコミュニケーションから「マス」媒体的な特性まで無数の形状をもちうる媒体であり,その効果をひとくくりにすることはできない。人びとのだれもが発信者として社会に情報を流通させることが可能な参加型のメディアとして登場したインターネットをマスメディアとの関連で見れば,情報の流れの一方向性,すなわちマスメディアの情報源独占を切り崩したために,強力効果の前提を一部打ち砕いた。その一方でインターネットは,社会の大多数の人びとが共有できる情報の媒体としては大きな欠点があるといわざるをえない。人びとは自分にとって最も使いやすい,快適な情報環境のカスタマイズをインターネットで可能としたが,そうして人びとが互いに異なる情報に接することこそが,人びとが情報を共有し,同じ経験について語る妨げとなるのである。このことは選択的情報接触selective information exposureの問題として関心を集めている。 →世論
〔池田 謙一〕
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マス・メディア
mass media
大衆に情報を送るために大量生産された媒体。大衆媒体,大量媒体ともいう。媒体media(メディウムmediumの複数形)とは,もともとは〈中間にあるもの〉または〈中間〉を意味した。神と人との中間にいてなかだちをする〈みこ〉〈霊媒〉〈預言者〉なども含まれる。対面集団face-to-face group内での会話や音楽会場での演奏などだと,空気が音波のメディウムで,手紙や遺言状だと紙が文字のメディウムである。メディウムの類語には〈記号のりものsign-vehicle〉がある。
メディウムの大量生産は,15世紀半ばグーテンベルクによる(異説もある)印刷術の発明で可能になった。すなわち雑誌や新聞,パンフレットなどの印刷物が,最初のマス・メディアである。続いてレコードや映画という視聴覚メディアが登場した。以上のメディアは,物体として持ち運びができるという意味でパッケージ型である。ところが,ラジオやテレビは,視聴覚メディアだという点では映画と共通でも,パッケージ型ではない。視聴覚メディアの場合,フィルムや電波に乗っている情報を受け手が受容するためには,映写機とスクリーン,受信機など特別の再生装置が必要である。そこで,送り手と受け手との中間にあるもの全部という意味で,再生装置をもマス・メディアに含めることもある。たとえば〈テレビが普及した〉という表現は,単にテレビ電波の到達範囲が広がったという意味よりも,テレビ受像機の普及を意味するだろう。なお,マス・メディアがマス・コミュニケーションとまったく同義に使われることも少なくない。
→マス・コミュニケーション
執筆者:稲葉 三千男
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マス・メディア
mass media
マス・コミュニケーションの媒体。新聞,テレビ(テレビジョン),ラジオ,映画,雑誌,インターネットなどがその代表的なもので,ある記号を用いて,受け手である大衆に公的,間接的,一方的に意味内容を伝達する技術的道具ないしは装置のことをいう。印刷媒体と非印刷媒体に分けられ,前者は 19世紀中頃輪転印刷機などの発明によって成立,後者は 19世紀末から 20世紀にかけて,無線電信(→電気通信)の送受信技術や映写技術などの発明によって成立した。マス・メディアの成立基盤としては,近代産業の発達による都市への人口集中,教育の普及,余暇時間の増大など,大衆社会形成の諸条件があげられる。今日のマス・メディアの特性は,資本主義社会では大部分私的な営利企業として営まれている点である。したがって,そこでは利潤の獲得と経営の安定が優先されるため,内容の低俗化,画一化の現象が生まれる。また社会主義社会では,政府および支配政党によって,編集,制作方針が左右される。
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百科事典マイペディア
「マスメディア」の意味・わかりやすい解説
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マス・メディア【mass media】
ラジオ、テレビ放送局やネットワーク、新聞、雑誌、野外広告など、一般の公共に対して訴える広範囲にわたる媒体。
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世界大百科事典(旧版)内のマスメディアの言及
【虚報・誤報】より
…客観的〈事実fact〉と,ある部分,ある側面が明白に違う報道(主としてマス・メディアの)を誤報といい,その極大化したもの,取材源,ジャーナリスト,構成者の思いこみ,推定ミスなどによるものにせよ,意図的な作為によるにせよ,まったく事実でないこと,起こっていないことを,あったかのように報ずるのを虚報という。フィクションを現実のニュースとして提供するのと,善意,悪意を問わず,フィクションを混入するのとの違いではあるが,具体的事例にそくして,両者の間に境界線をひくことは難しく,ふつう日用語では誤報という用語で一括している。…
【権力分立】より
…巨大集団などの社会的権力は,それ自体としては私的存在であるが,それが権力である以上,自由に対する抑圧要因であるが,それと同時に,権力分立の担い手となることによって,政治権力を抑制し,自由の確保に貢献しうるという二面性をもつ。与野党間の権力分立という視点はすでに,政治権力と社会的権力の問題次元にまたがっているし,しばしば第4の権力と形容されるマス・メディアが,社会的権力を組み入れた権力分立論のひとつの典型的な適用例となる。ただし,野党やマス・メディアを権力分立の担い手として位置づけ,それらの公的機能を重視する考え方は,しばしば,それらの地位を国法上公的に承認し国庫援助を与えるのとひきかえに法的枠づけを加えるという主張と結びつくが,そのような方向は,かえって政治権力と社会的権力の分立でなく結合を促進し,社会的権力分立というねらいに反するものとなる可能性がある。…
【コミュニケーション】より
…これらの媒体がメディアmediaであり,この語は人間と神との媒介者である霊媒の英語名medium,さらにその複数形のmediaに由来する。現代では,身ぶりや音声ばかりでなく,文字とさらにその担体である印刷物や電波など,その幅はきわめて広くなっており,そのうち新聞,雑誌,ラジオ,テレビなど,マス・コミュニケーションの媒体をマス・メディアという。
[メディアの歴史]
その語源でもあるように,人間が神や霊魂などと意思を交流するためには,特別の資質や才能をもった仲介者が必要である。…
【複製】より
…さらに写真術と印刷術が結びつくことによって,活字だけではなくイメージの出版が大量に可能になったのは,19世紀末である。これまで文化における意味の形成と保存を支えていた建築物,かけがえない一回性の上に成り立ってきた芸術作品にかわって,[マス・メディア]の時代が到来し,メディアが文化を左右する流動的で不安定な状況が支配的になった。さらに音を記録するレコード,テープが生まれる。…
【マス・コミュニケーション】より
…マス・メディア(画一的な内容を大量生産する媒体。高速輪転機で印刷された新聞や雑誌,ラジオとテレビ,映画など)を用いて大量(マス)の情報を大衆(マス)に伝達するコミュニケーション。…
【ミニコミ】より
…とくに雑誌・新聞が産業資本として確立する明治後期には《平民新聞》《労働世界》《聖書之研究》など社会体制を批判する新聞や小雑誌群が花盛りとなる。独立不羈の知識人にとって,マス・メディアの発達は,一面その文筆生活の手段を増加させたものの,その思想,学問,文学の心髄を吐露する小雑誌はいっそう不可欠になった。また[マス・メディア]がその広告効果・コストのために大部数主義をとるなかで,地域社会や小都市に基盤をおく小雑誌([タウン誌])や,特定の職業,階層,集団を対象とする小雑誌の必要も求められてきた。…
【世論】より
…それはどのような構造をもつものだろうか。マス・コミュニケーションが発達した現代社会において,大衆の世論は基本的にマス・メディアによって影響されているとみなす議論は多い。事実,今日,国民的な広がりをもつ公共的な問題について,争点の認識から賛否の態度の形成にいたるまで,マス・メディアをぬきにして世論を語ることはできない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」