第2次大戦後,食糧増産の声が盛んであった昭和20年代から同30年代初頭にかけて宣伝され,一部の農家の人々によって信奉,実施された農法の一つ。ソ連の遺伝・育種・農業生物学者T.D.ルイセンコの学説,およびその先輩で1855年生まれの民間育種家I.V.ミチューリンの経験から得られた考え方,および実施した遠縁雑種法に主として基づいた農法である。ミチューリンは優良品種は縁の遠い品種間,さらに異なった種の間の交配によって得られ,親の産地が離れているほど,かつ親の育った環境が違うほど優良品種が得られるとした。またルイセンコは生育(発育)段階論を提唱し,農業界における植物の性質改造,自然改造を主張した。生育段階理論とは,〈植物が生育してゆくには,三つの段階を経過しなければならない。その第1段階は感温相で,この段階で一定の温度に合わなければ第2段階に移ることができず,結局,生育して開花,結実しない〉とし,生育と量的増大の生長とを区別した。その場合,第1段階(種子・幼植物時代)で低温などに会うこと,あるいは会わせる処理そのものをヤロビザーツィヤyarovizatsiya(ヤロビゼーション,バーナリゼーション,春化ともいう)と呼び,これを行うと開花,成熟など生育が促進され,増収されるとした。ヤロビはこの略語である。その影響は子孫に伝わるともいわれ,例えば秋まき性コムギの春まき性化などその一例である。また,栄養雑種(例えばトマトとナスの接木)も植物の性質改造の手段とした。学問的系列からC.ダーウィン,K.A.チミリャーゼフの流れに由来するものと説いた。
このような考え方,手法による増産法が,ヤロビ農法あるいはミチューリン=ルイセンコ農法と呼ばれ,その研究・宣伝・普及のための運動がミチューリン運動と名付けられ,1951年,日本で初めて長野県下伊那にミチューリン会が作られ,61年,日本ミチューリン会が結成された。その説かれたところは,〈だれにでもできる農法〉〈金も手間もかからない農法〉とされた。たねものの処理温度は低温のほかに常温・高温で,低温の場合は,最低発芽温度より2~3℃高いのが適当で,処理期間は7~30日である。この場合,処理されるたねものが幼植物で緑化させるときは,グリーンヤロビという。供試された作物は,イネ,ムギ類,雑穀,マメ類,いも類,野菜,ワタ,牧草などで,作物のほかにニワトリ,ブタ,乳牛,ニジマスなどの魚類にも及んだ。また,ダイズとアズキ,カボチャとメロン,ナシとリンゴなど,雑草の強靱性を作物に導入するための作物と雑草(例えばイネとヒエ)などの接木雑種の有効性も説かれた。日本ミチューリン会は今日も開かれているが,盛んではない。
→春化処理
執筆者:川田 信一郎
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1950年代に、長野県下伊那(しもいな)の農民を通じて日本全国に広まった農業技術に対する用語で、一名ミチューリン農業とよばれる。ソ連のミチューリンは1917年の十月革命後、新技術による果樹品種の育成の功績をレーニン、スターリンに認められ、ソ連農業技術者として高く評価された。新技術とは、たとえば中部ソ連において、アジアとヨーロッパのような遠隔地間のナシを交配すると、両親の特性は失われ、新しい特性をもった品種が育成されるとか、接木(つぎき)の場合、接穂を一定の時期に取り去っても、若い台木はこの接穂のために性質を変えるというメントール法、また普通の交配では容易に結実しない場合、その間で接木をし、穂木(ほぎ)に台木の花粉を交配すると交雑が可能となる栄養接木雑種法などで、メンデル遺伝学では理解不可能な理論を提案した。春化(しゅんか)現象を究明したソ連のルイセンコはミチューリンの理論をさらに発展させ、のちにミチューリン‐ルイセンコ理論といわれ、外的環境条件に対する生物体の遺伝的変化を否定するメンデル遺伝学と、これを肯定するルイセンコ遺伝学の二つの路線が一時期(1950前後)世界各国で活発に論争された。
ヤロビとはロシア語のヤロビザーツィヤяровизация/yarovizatsiya(春播(まき)にする、春化の意)の略語で、ヤロビ農法とは、ルイセンコらの理論に基づいて、作物を温度処理によってその成長を支配し、作物の性質を変える農法を意味し、秋播き性→春播き性、あるいは晩熟性→早熟性という育種を目標とする場合と、低温処理による増収などをねらう栽培技術を目標としている。わが国のヤロビ農法はむしろ増収を目的としてイネ、ムギの穀物以外にトマト、キュウリなどの野菜にまで及んだ。しかしその成果が不明のまま1970年(昭和45)までには立ち消えとなった。
[田中正武]
『栗林農夫著『ヤロビの谷間――下伊那のミチュリン運動』(青木文庫)』
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…その後,この春化の理論を応用し,作物の芽や種子を温度処理することによって開花・結実をはやめたり,あるいは増収をはかる試みなどが行われてきた。第2次大戦後の日本の一部で流行したヤロビ農法もその一つといえるが,増収面での有効性については,国際的にも疑問視されている。
[春化の種類]
春化処理の効果は植物のエージ(齢)や植物の種類によって異なっていて,種子で春化が進行するものと,発芽して一定の大きさの苗にならないと春化が進行しないものとがある。…
※「ヤロビ農法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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