ヤロビ農法(読み)ヤロビノウホウ

デジタル大辞泉 「ヤロビ農法」の意味・読み・例文・類語

ヤロビ‐のうほう〔‐ノウハフ〕【ヤロビ農法】

《「ヤロビ」は「ヤロビザーチヤ」の略》春化処理を行って、秋まきの農作物の種子を春にまくなどして増収を図る農業のやり方。ソ連のミチューリンおよびルイセンコ開発日本では昭和25年(1950)ころから行われた。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ヤロビ農法」の意味・読み・例文・類語

ヤロビ‐のうほう‥ノウハフ【ヤロビ農法】

  1. 〘 名詞 〙 ( ヤロビは「ヤロビザチヤ」の略 ) 農作物の春化処理を行ない収穫期を変えるなどして増収などをはかる栽培方法。→春化処理

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ヤロビ農法」の意味・わかりやすい解説

ヤロビ農法 (ヤロビのうほう)

第2次大戦後,食糧増産の声が盛んであった昭和20年代から同30年代初頭にかけて宣伝され,一部の農家の人々によって信奉,実施された農法の一つ。ソ連の遺伝・育種・農業生物学者T.D.ルイセンコ学説,およびその先輩で1855年生まれの民間育種家I.V.ミチューリンの経験から得られた考え方,および実施した遠縁雑種法に主として基づいた農法である。ミチューリンは優良品種は縁の遠い品種間,さらに異なった種の間の交配によって得られ,親の産地が離れているほど,かつ親の育った環境が違うほど優良品種が得られるとした。またルイセンコは生育発育)段階論を提唱し,農業界における植物の性質改造,自然改造を主張した。生育段階理論とは,〈植物が生育してゆくには,三つの段階を経過しなければならない。その第1段階は感温相で,この段階で一定の温度に合わなければ第2段階に移ることができず,結局,生育して開花,結実しない〉とし,生育と量的増大の生長とを区別した。その場合,第1段階(種子・幼植物時代)で低温などに会うこと,あるいは会わせる処理そのものをヤロビザーツィヤyarovizatsiya(ヤロビゼーションバーナリゼーション,春化ともいう)と呼び,これを行うと開花,成熟など生育が促進され,増収されるとした。ヤロビはこの略語である。その影響は子孫に伝わるともいわれ,例えば秋まき性コムギの春まき性化などその一例である。また,栄養雑種(例えばトマトとナスの接木)も植物の性質改造の手段とした。学問的系列からC.ダーウィン,K.A.チミリャーゼフの流れに由来するものと説いた。

 このような考え方,手法による増産法が,ヤロビ農法あるいはミチューリン=ルイセンコ農法と呼ばれ,その研究・宣伝・普及のための運動がミチューリン運動と名付けられ,1951年,日本で初めて長野県下伊那にミチューリン会が作られ,61年,日本ミチューリン会が結成された。その説かれたところは,〈だれにでもできる農法〉〈金も手間もかからない農法〉とされた。たねものの処理温度は低温のほかに常温・高温で,低温の場合は,最低発芽温度より2~3℃高いのが適当で,処理期間は7~30日である。この場合,処理されるたねものが幼植物で緑化させるときは,グリーンヤロビという。供試された作物は,イネ,ムギ類,雑穀,マメ類,いも類,野菜,ワタ,牧草などで,作物のほかにニワトリ,ブタ,乳牛,ニジマスなどの魚類にも及んだ。また,ダイズとアズキ,カボチャとメロン,ナシとリンゴなど,雑草の強靱性を作物に導入するための作物と雑草(例えばイネとヒエ)などの接木雑種の有効性も説かれた。日本ミチューリン会は今日も開かれているが,盛んではない。
春化処理
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ヤロビ農法」の意味・わかりやすい解説

ヤロビ農法【ヤロビのうほう】

ロシアの育種家ミチューリンの研究とその後輩ルイセンコの発育段階説に基づいた農法および育種法。ミチューリン=ルイセンコ農法とも呼ばれる。ヤロビはヤロビザーツィヤ(春化処理)の略。催芽した作物が生育のために必要とする温度段階を人為的に変えて作物の遺伝的性質を変化させ,品質・収量を高めようとするもの。日本では昭和20年代から30年代初めにかけて宣伝され,一部の農家の人々によって信奉,実施された。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のヤロビ農法の言及

【春化処理】より

…その後,この春化の理論を応用し,作物の芽や種子を温度処理することによって開花・結実をはやめたり,あるいは増収をはかる試みなどが行われてきた。第2次大戦後の日本の一部で流行したヤロビ農法もその一つといえるが,増収面での有効性については,国際的にも疑問視されている。
[春化の種類]
 春化処理の効果は植物のエージ(齢)や植物の種類によって異なっていて,種子で春化が進行するものと,発芽して一定の大きさの苗にならないと春化が進行しないものとがある。…

※「ヤロビ農法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

オアシス

イギリスのロック・バンド、オアシスのデビューアルバム。1994年発表。全英アルバムチャート1位を記録。「リヴ・フォーエヴァー」「シガレッツ・アンド・アルコール」などを収録。原題《Definitely ...

オアシスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android