土芳(とほう)の俳諧(はいかい)論書。土芳晩年の1703年(元禄16)ごろ成立。『白冊子』『赤冊子』『忘れ水』の3部からなり、そのうち『忘れ水』は刊行の際『黒冊子』と改められている。土芳没後46年後の1776年(安永5)に闌更(らんこう)の序を添えて上梓(じょうし)された。土芳の自筆本は今日伝わらない。内容はまず『白冊子』に、連歌・俳諧の起源、芭蕉(ばしょう)俳諧の史的意義、俳諧の特質や式法など29項目にわたって説き、ついで『赤冊子』では、不易流行(ふえきりゅうこう)論、風雅の誠(まこと)説、軽みの俳風の問題など、蕉風俳諧の根本問題について論じ、また芭蕉の発句約70句の推敲(すいこう)過程の説明、門人の句に対する芭蕉の評、芭蕉の付合(つけあい)約40についての解説などを収め、『忘れ水』においては、芭蕉の言行、俳席の心得、色紙短冊のしたため方など、70項目の多方面にわたって備忘録風の教えを記録している。
本書は梅翁編の『俳諧無言抄(むごんしょう)』(1674刊)などに倣い、総合的な俳諧作法書を意図して書かれたものであろうが、伊賀蕉門の中心として終生芭蕉に師事した、篤実な土芳の述作であるだけに、随所に芭蕉の遺語・遺教が引かれ、また蕉風の真髄に触れた論理的な記述がなされており、芭蕉の俳諧観を知るうえに、『去来抄』と並ぶ貴重な論書である。
[堀切 實]
『能勢朝次著『三冊子評釈』(1954・三省堂/『能勢朝次著作集10』1981・思文閣出版に再録)』▽『南信一著『三冊子総釈』(1964・風間書房)』▽『栗山理一他校注・訳『日本古典文学全集51 連歌論集・能楽論集・俳論集』(1973・小学館)』
江戸中期の俳諧論書。蕉門の俳人,服部土芳の遺著《白さうし》《赤さうし》《忘れ水》の総称。1702-03年(元禄15-16)に成り,1776年(安永5)に闌更の序を付して伊賀の内神屋三四郎などから刊行された。ただし,刊本は《忘れ水》を《黒さうし》と改題している。今日,土芳の稿本は伝存せず,その転写本がテキストとして用いられる。《白さうし》は蕉風俳諧の歴史的・本質的考察,ならびに準拠すべき式目作法の論。《赤さうし》は蕉風の本質と体得の方法・態度についての総論,および芭蕉の実作に即しての具体的解説。《忘れ水》はおりおりの師説の備忘録,その他,季詞解説,折紙・色紙・短冊の認め様などの雑録。式目作法については,芭蕉の推挙する《俳諧無言抄》(梅翁著,1674刊)によるところが大きい。その他,同門の俳書を随時引用し,師説によってこれを検証し,みずからの理解を示している。〈風雅の誠〉〈不易流行〉〈高悟帰俗〉など,師説の祖述に見るべきものが多く,芭蕉の俳論にもっとも忠実な体系的論書として《去来抄》とともに尊重されている。
→俳論
執筆者:白石 悌三
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