江戸後期の本草(ほんぞう)学者。京都の人。名は職博(もとひろ)。本草を松岡恕庵(じょあん)(玄達)に学び、師の没後独学で大成した。70歳で幕府医学館に招かれ、江戸に出て医官の子弟に本草を講授するかたわら、諸国の山野を踏査採薬したので「地仙」と尊称された。本草講義を孫の職孝(もとたか)(?―1852)が整理して『本草綱目啓蒙(けいもう)』48巻を出版(1806)した。本書は中国の李時珍(りじちん)の『本草綱目』の原典に照らし国産動植鉱物の和漢名、品種の異同、方言、薬用部分などを詳述した日本の本草学の集大成で、江戸時代のもっとも内容の充実した薬物研究書である。シーボルトは蘭山を「日本のリンネ」と評した。著書は『大和本草批正(やまとほんぞうひせい)』『飲膳摘要(いんぜんてきよう)』ほか多数ある。門人も飯沼慾斎(よくさい)、岩崎灌園(かんえん)、水谷豊文(ほうぶん)、山本亡羊(ぼうよう)(1778―1859)ら非常に多い。
[根本曽代子]
(遠藤正治)
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江戸中期の本草家。本姓佐伯,名は職博(もとひろ),希博,字は以文,号は蘭山である。京都桜木町に生まれる。松岡玄達に本草を学んだ。京都で研究と教育に専念していたが,1799年(寛政11)幕府の招きで江戸に下って医学館で本草を講じた。江戸在住以来,各地に5回採薬旅行し,旅行ごとに採薬記を幕府に提出した。主著《本草綱目啓蒙》48巻(1803-06)のほか多数の著作がある。《本草綱目啓蒙》は図はないが,江戸本草の集大成で,江戸時代最大の博物誌であり,江戸後期の本草への寄与は大であった。また,本書は自然物の方言を収録し,国語学的にも重要である。《花彙》8巻(1765)は,オランダ語訳本が桂川甫周によりP.F.vonシーボルトに寄贈,サバティエPaul Savatierによるフランス語訳本が1873年(明治6)にパリで出版,日本産植物が海外に紹介された。蘭山は薬物学としての本草の学識も深かったが,その本領は名物学,物産学にあった。多数の優秀な門人を育て,江戸後期の博物学的本草の発展に寄与した。
執筆者:矢部 一郎
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1729.8.21~1810.1.27
江戸後期の本草家。父は地下官人小野職茂。名は職博(もとひろ),字は以文,通称は喜内。京都生れ。13歳で松岡恕庵(じょあん)に入門し本草学を学ぶ。京都に衆芳軒を開き本草学を教授。1799年(寛政11)幕命で江戸に移り,医学館で本草学を講義した。6次にわたり諸国に採薬し,採薬記を作った。門人は1000人をこえ,幕末期の本草学に大きな影響を与えた。著書「本草綱目啓蒙」,島田充房と共著の「花彙(かい)」。
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… もちろん,幕末本草学者のなかには,誤報=誤伝に基づく学説に訂正要求を突き付ける人もあるにはあった。江戸幕府の命を受けて江戸医学館で本草学を講義し,また大著《本草綱目啓蒙》(1803)の著者としても名高い小野蘭山(1729‐1810)は,弟子の井岡冽(れつ)に筆記させた《大和本草批正(ひせい)》というゼミナール速記録のなかで,貝原益軒の犯した誤謬をひとつひとつ指摘し,〈中華に桜と云ふは朱花なり。欲然と云こと,桃及杏にも賦せり。…
…その後も盛んに中国から本草学が導入されたが,漢籍を日本風に理解したのと呼応して,植物学でも,中国で記述された種を日本風に解釈するにとどまっていた。やっと18世紀になって,貝原益軒の《大和本草》(1709)や稲生若水の《庶物類纂》(未完),小野蘭山《本草綱目啓蒙》(1806)などによって日本風の本草学が集成されていった。江戸時代末にはC.P.ツンベリーやP.F.vonシーボルトなどを介して西洋本草学の影響が及び飯沼慾斎《草木図説》(1852),岩崎灌園《本草図譜》(1828)などが出版され,日本の植物についての高い知見が示されていった。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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