小説家、俳人。明治27年4月4日飛騨(ひだ)高山の指物師の子として生まれ、初め魚問屋の店員として働く。全国行脚(あんぎゃ)中の河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)に会い、大阪時代を経て上京。『層雲』『海紅』など新傾向俳句雑誌に関係する。『時事新報』文芸記者となり芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)を知る。ついで『改造』記者となり志賀直哉(なおや)を知り、文学・人生にわたり敬愛する先輩として生涯交わる。志賀の住む千葉県我孫子(あびこ)、京都、奈良に移り住む。遊廓(ゆうかく)で出会った最初の妻の榎本(えのもと)りんとの恋愛とその死を中軸に据え、題を変えつつ断続連載した長編小説『無限抱擁』(1927)はストイックで純粋な恋愛小説として有名。志賀夫妻の媒酌で篠崎(しのざき)リンと再婚。この経緯を率直に描いた小説集が『結婚まで』(1940)である。『父』ほか「父親もの」の一連の系統の作品も書く。1930年(昭和5)より妻の故郷八王子に移り生涯住み着く。第二次世界大戦後は風景小説を主張、『野趣』(1968。読売文学賞受賞)を刊行、また久しきにわたって芥川賞選考委員を務めた。魚釣り、能を楽しみ、書についても独特の妙味を発揮。芥川賞の選評も入れた『志賀さんの生活など』(1974)ほかエッセイも多い。1969年(昭和44)から73年にかけて異なった題で断続発表し『俳人仲間』(1973)としてまとめた長編は日本文学大賞を受賞。とくに「初めての女」の章は、飛騨における年上の芸者との交渉を初々しく描いた秀作。滝井文学の特質は、これら3人の女性と家族や身辺を「手織木綿(もめん)」のような勁(つよ)い文章で「生(き)のまま」「素(す)のまま」に描いたところにある。折柴(せっさい)と号し、『折柴句集』(1931)から自句自注の『山桜』(1975)までの俳句には、芥川の語った「修羅(しゅら)道」のような勁さと艶(つや)の両方をもつ。1959年芸術院会員、74年文化功労者に推された。昭和59年11月21日没。
[紅野敏郎]
『『滝井孝作全集』11巻・別巻1(1978~79・中央公論社)』
大正・昭和期の小説家,俳人
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
小説家,俳人。俳号は折柴。岐阜県の生れ。小学校卒業後,高山の魚市場の店員をしながら句作に励む。1909年高山を訪れた河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)に会い,以後師として仰ぐこととなる。14年上京。神田の特許事務所に勤め,碧梧桐一派の俳人たちと俳三昧にふけり,新傾向俳句のいちだんと変化した句作を試みた。翌年句誌《海紅》が創刊され,その編集助手となる。19年《時事新報》記者となる。同年芥川竜之介を知り,一方《無限抱擁》のヒロイン松子のモデル榎本りんと結婚。翌年生涯の師となった志賀直哉に会う。21年ころから創作に打ち込み,句作鍛錬によって得た文章力が注目される。この期の代表作が《無限抱擁》(1921-24)である。直哉を慕って我孫子,京都,奈良に後を追うが,30年以降八王子に永住。その後《慾呆け》(1933),《山女魚》(1936)などのリアリズム小説を発表する。第2次大戦後は《野草の花》(1953)などのエッセーに独特の境地を示した。
執筆者:関口 安義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…小林秀雄や後の中村光夫《風俗小説論》(1950)(風俗小説)の批判にもかかわらず私小説は盛んに書かれていたのである。その主なものは志賀直哉の系統では滝井孝作《無限抱擁》(1921‐24),尾崎一雄《二月の蜜蜂》(1926),《虫のいろいろ》(1948)など,葛西善蔵の系統では牧野信一《父を売る子》(1924),嘉村礒多(かむらいそた)《途上》(1932)などがある。そして前者を調和型心境小説,後者を破滅型私小説に分ける解釈が後に伊藤整《小説の方法》(1948)と平野謙〈私小説の二律背反〉(1951)によって完成,定着していった。…
※「滝井孝作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新