心境小説(読み)シンキョウショウセツ

デジタル大辞泉 「心境小説」の意味・読み・例文・類語

しんきょう‐しょうせつ〔シンキヤウセウセツ〕【心境小説】

作者が日常生活で目に触れたものを描きながら、その中に自己心境調和のとれた筆致で表現した小説志賀直哉の崎にて」、尾崎一雄「虫のいろいろ」など。

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精選版 日本国語大辞典 「心境小説」の意味・読み・例文・類語

しんきょう‐しょうせつシンキャウセウセツ【心境小説】

  1. 〘 名詞 〙 作者の日常生活をもととして、その心境を描いた小説。作者である「私」を主人公として、その調和の世界をめざす心境を掘り下げていくことが多い。代表的作家に志賀直哉、尾崎一雄など。
    1. [初出の実例]「茲に於いて、真の意味の『私小説』は、同時に『心境小説』でなければならない」(出典:私小説と心境小説(1925)〈久米正雄〉)

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百科事典マイペディア 「心境小説」の意味・わかりやすい解説

心境小説【しんきょうしょうせつ】

文芸用語。私(わたくし)小説一種だが,同じく自然主義文学に源をおいても,心境小説は白樺派の流れをひき東洋的な自己錬磨を目ざし,危機克服の文学とされる。また,自然主義盛期の私小説が,作者個人の実際的生活を基調としつつ,その生活を失敗に帰せしめるような社会的制度や抑圧に対する反感の気分を前提としていたのに対し,心境小説では,個人の成長などによっていつか社会的調和にいたる過程の途上にある,より抽象的な作者の心境の表現という性格が強く,そこでは作者の〈私〉をとりまく社会的な状況は問題として現れてこない,とする議論もある。代表作に,志賀直哉《城の崎にて》,徳田秋声《死に親しむ》,島木健作赤蛙》,尾崎一雄《虫のいろいろ》などがある。
→関連項目滝井孝作藤枝静男

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「心境小説」の意味・わかりやすい解説

心境小説
しんきょうしょうせつ

わが国で大正末年から使われ始めた文芸用語。中村武羅夫(むらお)の「本格小説と心境小説と」(1924)によれば、作者身辺の事実を題材として「ひたすら作者の心境を語らうとするやうな小説」をさす。これを「芸術の本道」として称揚したのが、久米正雄(くめまさお)の「私小説と心境小説」(1925)で、以来、その無思想性や技巧偏重を非難されながら、心境の練磨第一義とするわが国独特の文学理念が形成された。当初は「私(わたくし)小説」とほぼ同義に用いられたが、伊藤整(せい)や平野謙(けん)らの分析によって、全き自己完成を目ざす調和型の作品を心境小説とよび、破滅型の私小説と区別することが定説になった。志賀直哉(なおや)『城の崎(きのさき)にて』(1917)、尾崎一雄(かずお)『虫のいろいろ』(1948)などが代表的作品。

[宗像和重]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「心境小説」の意味・わかりやすい解説

心境小説
しんきょうしょうせつ

私小説」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の心境小説の言及

【私小説】より

…しかし花袋のように,事実尊重は,公認の社会道徳から逸脱した私的側面,主として男女の情痴や破れかぶれの生活をえがく方向に向かい,岩野泡鳴〈泡鳴五部作〉(《放浪》《断橋》《発展》《毒薬を飲む女》《憑き物》,1910‐18),近松秋江《疑惑》(1913)などをへて,葛西善蔵の苛烈で自虐的な自己剔抉(てつけつ)に達し,《子を連れて》(1918)や《湖畔手記》(1924)を生んだ。そこまでいくと赤裸々な自己暴露も,人生の卑小さ醜さの底での自己観照,自己救済に転ずる契機をつかむが,それが私小説の究極的形態としての心境小説になってゆく。心境小説の典型には透明な死生観を述べた志賀直哉《城の崎にて》(1917)があげられる。…

※「心境小説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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