肺気腫(読み)ハイキシュ(その他表記)pulmonary emphysema

デジタル大辞泉 「肺気腫」の意味・読み・例文・類語

はい‐きしゅ【肺気腫】

肺胞が過度に拡張した状態。肺胞壁の破壊を伴う。慢性気管支炎・気管支喘息ぜんそく細気管支が狭くなり、吸い込んだ空気が出にくくなったり、老人性変化で肺胞が弾力性を失ったりして起こる。息切れせきたんなどを伴う。気腫。

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精選版 日本国語大辞典 「肺気腫」の意味・読み・例文・類語

はい‐きしゅ【肺気腫】

  1. 〘 名詞 〙 肺の慢性疾患一つ。肺胞壁の破壊のために気道の末端の肺区域が異常に拡大している。また、肺の弾力が減少し、肺が持続的にふくらんで吸い込んだ息が出にくく呼吸困難(息ぎれ)がはげしい。老人に発症し、外因に喫煙がある。
    1. [初出の実例]「肺気腫を併発せしなり」(出典:大阪朝日新聞‐明治三七年(1904)二月一九日)

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改訂新版 世界大百科事典 「肺気腫」の意味・わかりやすい解説

肺気腫 (はいきしゅ)
pulmonary emphysema

閉塞性肺疾患の一つ。肺気腫の原語は,ギリシア語の〈ふくらます〉という意味をもっているemphysanに由来し,フランスのR.T.H.ラエネクによって名づけられた。本来,組織形態学的な概念で,肺胞が拡大して,壁の破壊が生じ,ふくらんだ状態をいう。しかし,それが瀰漫(びまん)性,広範に生じると息ぎれがするようになる。これを肺気腫症または慢性肺気腫という。

 肺気腫は組織形態のうえからは三つに分類される。すなわち,小葉の中心部にある呼吸細気管支が破壊され拡大する小葉中心型肺気腫centrilobular emphysema,肺胞道や肺胞囊の破壊を伴った拡大を示す汎小葉型肺気腫panlobular emphysema,瘢痕(はんこん)の周囲や胸膜下に孤立性に生じる巣状型肺気腫focal emphysemaである。

臨床上みられる肺気腫症の大部分は高度喫煙者の中高年者であり,男子に多く,小葉中心型を示す。ブリンクマン指数Blinkman Index(1日喫煙本数×喫煙年数)が400以上となると肺気腫がみられるようになり,1000以上ではほとんどにみられるといわれる。喫煙のほかに汚染物質の吸入や感染も外部要因となりうるが,内部要因としては老化やα1-アンチトリプシン欠乏などがあげられる。α1-アンチトリプシン欠乏による肺気腫は汎小葉型であり,家族性にみられ,外国では多いものの日本ではきわめて少ない。

 肺気腫症の症状は進行性の労作時の息ぎれであり,高度になると,低酸素血症(ハイポキシア)と炭酸ガス蓄積が生じ,慢性呼吸不全状態となり,やがて肺性心に移行する。咳や痰も出るが大量ではない。進行したものでは胸部は前後左右に拡大しビヤ樽様になる。X線像では肺容量の増加や横隔膜の低位,肺紋理の消失などが特徴である。呼吸機能検査では閉塞障害と空気のとらえ込みが強く,1秒率の低下,残気率の増加が特徴となる。

肺気腫における肺胞の破壊は不可逆的であり,それ自体の改善は望めない。したがって,進行をくいとめること,残った肺の機能を高めることが治療の眼目である。禁煙などによって原因を除去し,腹式呼吸や,息ぎれを生じない程度の軽い運動(たとえば散歩)など,理学療法がたいせつとなる。気道分泌に努め,冬季のインフルエンザなど気道感染を予防する。慢性呼吸不全状態に対しては家庭酸素療法を行う。
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家庭医学館 「肺気腫」の解説

はいきしゅ【肺気腫 Pulmonary Emphysema】

[どんな病気か]
 肺の中で、血液に空気中の酸素を取り入れ、血液中の二酸化炭素を空気中に排出するはたらきをしているのが肺胞(はいほう)ですが、この肺胞が破壊される病気です。
 肺胞では、その壁の中に入り込んだ毛細血管(もうさいけっかん)を通して酸素と二酸化炭素の交換が行なわれていますが、肺気腫では、肺胞の壁が破壊されて、いくつかの肺胞が合わさったようになり、異常に大きな空気だまりができます。
 肺胞の壁は、ゴム風船のゴムのように、胸郭(きょうかく)のポンプのような動きに合わせて、膨らんだり縮んだりしていますが、肺気腫の肺胞にはゴムのような柔軟性が失われているので、とくに肺が縮むとき(息をはくとき)、健康な人よりも時間がかかります。
 このように呼吸が十分にできなくなるため、最初にみられる症状は、からだを動かした後の息切れ(労作時呼吸困難(ろうさじこきゅうこんなん))です。ほとんどの肺気腫の患者さんは慢性気管支炎をともなっていて、合わせて慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(COPD(「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」))という診断名が使われます。
[原因]
 20~30年以上の長期間にわたって、たくさんたばこを吸っていた人の、およそ10%に発病します。
[検査と診断]
 胸部X線写真で肺気腫と診断するのはむずかしいのですが、ほかの病気と区別するため、初回の診察時に撮影が必要です。
 肺気腫と診断するには、肺機能検査がもっとも重要です。肺のはたらきをみるこの検査では、肺活量の減少はみられません。深吸気の状態から、できるだけ速く息をはき出したとき(呼出(こしゅつ)したとき)、最初の1秒間に呼出することができる量(一秒量(いちびょうりょう))が低下します。一秒量の肺活量に対する比率(一秒量/肺活量)を一秒率(いちびょうりつ)といい、70%以上が正常ですが、肺気腫では非常に低い率になります。
 重症の肺気腫では、動脈血ガス分析またはパルスオキシメーターによって動脈血酸素をはかって、酸素が不足して呼吸不全になっていないか、チェックする必要があります。
[治療]
 喫煙を続けると、さらに肺のはたらきが低下するため、まず禁煙することが重要です。薬物治療としては、気管支拡張薬(きかんしかくちょうやく)という吸入剤がもっとも有効です。この薬を用いると、どの患者さんでも肺の機能がよくなり、多少は軽快します。しかし、まったく正常になるわけではありません。
 症状の改善が不十分な場合には、副作用もありますが、さらに強力な副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬を内服することで、病状がよくなることがありますから、試してみる必要があるかもしれません。適切な運動など、リハビリテーションも重要な治療法の1つです。酸素の量が不足すれば、酸素吸入をする必要があります。
[日常生活の注意]
 かぜをきっかけとして、急に悪化することがありますので、発熱など、かぜ症状があるときは早く受診しなければなりません。
 また、最大の予防法は禁煙です。

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百科事典マイペディア 「肺気腫」の意味・わかりやすい解説

肺気腫【はいきしゅ】

肺組織の弾力性がなくなり,肺胞が拡張し,肺が過度に膨張した状態。強い咳(せき),肺の使い過ぎ,慢性気管支炎肺結核などが原因とされる。咳が多く,肺活量が減り,呼吸困難,チアノーゼ,動悸を生じ,胸郭の運動が減退する。治療は気管支拡張薬投与,酸素吸入など。
→関連項目公害病在宅酸素療法

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺気腫」の意味・わかりやすい解説

肺気腫
はいきしゅ

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に含まれる疾患の旧称。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺気腫」の意味・わかりやすい解説

肺気腫
はいきしゅ
pulmonary emphysema

肺の空気の容量が持続して増加し,肺がふくらんだまま縮まらない状態をいう。肺組織の弾力性の消失,ことに肺胞壁の弾性線維の変性が常に認められる。多くは老化現象の一つで,慢性気管支炎のような症状を示すことが多い。最近,喫煙や大気汚染もこの原因として重視されている。

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世界大百科事典(旧版)内の肺気腫の言及

【公害病】より

…(1)第一種地域 事業活動その他の人の活動に伴って,相当範囲にわたる著しい大気の汚染が生じ,その影響による疾病が多発しているが,汚染物質と健康被害との間に特異的な関係がなく,被害者個々人について原因物質を特定することが困難な疾病の多発した地域として指定されているもので,東京都19区,川崎2区,四日市臨海地域,大阪市全域,北九州市洞海湾地域など41地域が指定地域となっている。疾病としては,慢性気管支炎気管支喘息喘息性気管支炎肺気腫とこれらの続発症が定められており,3年間以上これらの地域に居住または通勤した者が指定疾病にかかっている場合に認定されることになっている。認定は,認定を受けようとする者の申請に基づき,指定地域を管轄する都道府県知事,政令市(区)長が医師,法律家などの専門家による公害健康被害認定審査会の意見を聴いて行うことになっている。…

※「肺気腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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