肺性心とは、肺の病気が原因で肺での血液の流れが悪くなり、肺へ血液を送り出している右心室に負担がかかって、右心室が大きくなったり(右室拡大)、右心室のはたらきが悪く(
通常、慢性に経過する病気が多いのですが、重篤な急性肺血栓塞栓症では、右心不全のためしばしば呼吸困難や意識消失を引き起こします。このような病態を急性肺性心と呼びます。
進行すると呼吸困難が強くなり、酸素不足のために唇や爪が紫色(チアノーゼ)になったり、静脈の流れが悪くなるために肝臓がはれてきたり、むくみ(浮腫)が出てきたりします。
心電図で右心負荷、胸部X線像で右室拡大を認めます。また、心臓超音波検査、CT、MRI、心筋タリウムシンチグラフィでも右心室が大きくなっている様子がわかります。また、右心カテーテルで肺高血圧を認めます。
そのほか、肺機能検査や血液ガス分析では、肺性心の原因となった肺の病気による異常が見られます。
基本的には、肺性心の原因である肺の病気に対する治療を行います。
低酸素血症は肺血管の抵抗を上昇させ、肺性心を悪化させる要因となるので、慢性呼吸不全を合併した肺性心の患者さんでは在宅酸素療法を行います。ただし、不用意に多量の酸素吸入を行うと、血液中の二酸化炭素がたまりすぎ、呼吸が止まってしまうことがあるので注意が必要です。
右心不全に対しては、右心室にかかった負荷を軽くするため、フロセミドなどの余分な水分を尿として排泄させる
慢性の肺の病気がある人は、定期的に受診し、医師の指導を受けることが大切です。
肺性心は基礎にある肺の病気の終末像で、慢性閉塞性肺疾患の死因の4分の1を占めます。右心不全が出現すると予後不良とされますが、在宅酸素療法は予後を改善するといわれています。
基礎となる肺の病気がなく、突然の呼吸困難や意識消失を起こした場合は、急性肺血栓塞栓症などが疑われるので、すぐに医療機関を受診してください。
金澤 實, 加賀 亜希子
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肺性心疾患の略称。肺実質,肺血管の異常または呼吸運動機能障害が原因となって,肺動脈の圧が上昇し,右心室の肥大をきたした状態をいう。先天性の心臓病や左心不全によって後方障害として二次的に肺高血圧をきたしたものは,肺性心には含まれない。
体静脈から右心房にもどった血液は,右心室の拍動によって肺動脈に移行し,多くの枝分れした肺毛細血管を通過する際に肺胞との間で血液ガスの交換を行う。呼吸器疾患によって換気が悪く,肺胞内が低酸素状態におちいると,肺動脈は機能的に収縮し,肺動脈圧は上昇する。このようになる原因疾患としては重症肺結核,肺気腫,肺繊維症,肺囊胞症などの肺実質の疾患があり,両側性の胸膜肥厚などの胸膜疾患などによっても起こる。したがって肺疾患が慢性的に経過し,原因疾患への治療が有効に行われなければ,肺高血圧は慢性化し,右心室肥大をもたらす。一方,肺血管性病変に伴う肺高血圧の原因としては,肺毛細血管に血栓がつまり,血管床が減少する病変と,肺動脈の筋性中膜の異常肥厚による原発性肺高血圧症が代表的である。前者は肺塞栓と呼ばれ,多くは下肢の静脈血栓が遊離することにより起こり,重篤な急性症状を伴う。欧米では死亡原因の比率が高い。後者は先天性心奇形に合併することがある。また原発性肺高血圧症に血栓を併発し,それを繰り返すことがある。
肺性心には右心室肥大の型から右心不全に至る病型がみられるが,症状が進むにしたがって呼吸困難,チアノーゼ,頻脈,肝腫大等を認めるようになる。心電図では右心室肥大所見が明らかであり,胸部X線写真では肺動脈主幹部が突出する。また超音波心エコー図では,肺動脈弁の特徴的な肺高血圧所見とともに,右心室腔の拡大がみられる。肺塞栓の診断はむずかしく,剖検して肺塞栓とわかったものの半数以上は生存中に肺塞栓と診断されなかったとされている。急性,慢性肺性心の予後は不良で,治療しにくく,肺高血圧と診断された後5年以内に右心不全に至る。
→心不全
執筆者:柳沼 淑夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
WHO(世界保健機関)では、肺の機能をはじめ構造にも影響を与える疾患の結果、発生した右心の肥大をいい、左心室障害や先天性心疾患によるものを除く、と定義している。基礎疾患としては、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患とくに肺気腫(きしゅ)および高度進展肺結核が多いが、そのほか、びまん性間質性肺炎、肺線維症、強皮症などがある。右室肥大は臨床的に早期には把握しがたいが、右心不全状態になれば診断は比較的容易である。咳(せき)、痰(たん)、呼吸困難、チアノーゼ、頸(けい)静脈怒張、肝腫大(しゅだい)などが認められる。低酸素血症、高炭酸ガス血症があり、胸部X線写真では肺動脈主幹部の拡大とともに末梢(まっしょう)動脈の細小化および減少がみられ、心電図では右室肥大所見がみられる。治療は、肺性心に陥ってしまってからでは遅すぎる。早期診断、早期治療とともに予防がたいせつである。喫煙、大気汚染、粉塵(ふんじん)、刺激性ガスを避けるほか、上気道炎やインフルエンザの感染予防、肥満の防止、適度の運動を行うのがよい。
[山口智道]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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