肺性心(読み)ハイセイシン(その他表記)Cor Pulmonale

家庭医学館 「肺性心」の解説

はいせいしん【肺性心 Cor Pulmonale】

[どんな病気か]
 肺、肺の血管、肺の機能を助けている神経・筋肉・胸郭(きょうかく)が障害されて、肺に血液を送っている右心室(うしんしつ)の負担が増して機能が低下することによっておこります。肺動脈が硬くなって、血圧が高くなる肺高血圧症(はいこうけつあつしょう)が直接の原因となります。
 心臓の血液の流れは、心臓に戻ってきた血液が右心室にいったん入った後、肺の血管を経て左心室(さしんしつ)へたまり、そこから全身へ送られます。肺性心では肺の血管が硬く狭くなるために、その手前にある右心室の負担が増えて、やがて機能も低下してきます。なかなかよい治療法がなく、治りにくい病気です。
[原因]
 急性と慢性に分けると、急性のほとんどは急性肺血栓塞栓症(きゅうせいはいけっせんそくせんしょう)で、早期診断・治療が行なわれれば治りますが、遅れると命にかかわります。それ以外は慢性で、多くの肺疾患が進行した場合や、肺の血管が障害される原発性肺高血圧症(げんぱつせいはいこうけつあつしょう)・慢性肺血栓塞栓症(まんせいはいけっせんそくせんしょう)、胸郭の変形をきたしている場合、呼吸筋を動かしている神経が異常な場合などにおこります。
[症状]
 急性の肺性心である急性肺血栓塞栓症は突然の呼吸困難で発症し、なかには血圧が低下して一時的に意識を失ったり、突然死する場合もあります。また、胸の痛みをともなうこともあります。
 慢性の肺性心では、からだを動かしたときの息切れ、疲れやすさ、食欲の低下、顔面や脚(あし)などのむくみなどが現われ、徐々に進行します。
[検査と診断]
 急性肺血栓塞栓症の場合には、なるべく早く専門の医療機関を受診する必要があります。
 慢性の場合には、医師の診察によって右心室の不全が発見される場合もあります。胸部X線写真で肺動脈の拡大や心陰影の拡大などにより、診断されます。ある程度進行すると心電図にも異常が現われ、心エコー検査(心臓超音波検査(「心臓超音波検査(心エコー)」))によっても診断されます。最終的には心臓の中へ細い管を入れて肺動脈の血圧を測る心臓カテーテル検査により診断されます。
[治療]
 さまざまな原因疾患があり、その原因疾患を治療することが先決です。
 動脈の中の酸素の量が減少している場合には、酸素吸入を継続して行なう必要があります。これは在宅酸素療法(「在宅酸素療法」)と呼ばれ、健康保険で受けることができます。
 気管支炎や肺炎などの肺の感染症がある場合には、肺性心を悪化させる原因となるので、十分治療しなければなりません。右心室の負担がさらに大きくなった場合には、利尿薬を内服や注射で使用したり、重症の場合には入院して強心薬を点滴したりします。
●日常生活の注意
 急激に呼吸困難がおこった場合には心疾患、肺疾患とともに急性肺血栓塞栓症の可能性を考える必要があります。慢性の肺性心では過度の労作(ろうさ)(日常生活上のさまざまな動作)を控え、塩分の制限をしなければなりません。また、かぜにかからないように細心の注意も必要です。
●予防
 急性肺血栓塞栓症は、長時間下肢(かし)を動かさずにいた後に急に動いたとき、脚(あし)にできた血栓(けっせん)が肺に流れてつまることによりおこります。したがって、車や飛行機に長時間乗ったときなどは、途中でときどき歩くことによって予防されます。また一方の脚がむくんだことがある人は、脚に血栓ができやすい状態にある可能性があるので、専門医を受診する必要があります。
 慢性の肺性心のうち、肺の血管の障害でおこる原発性肺高血圧症などは原因がよくわかっていないため、予防の方法がありません。
 しかし、もっとも頻度の高い肺疾患は、喫煙が原因および増悪因子(ぞうあくいんし)となっていることが多く、禁煙が不可欠です。

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改訂新版 世界大百科事典 「肺性心」の意味・わかりやすい解説

肺性心 (はいせいしん)
cor pulmonale

肺性心疾患の略称。肺実質,肺血管の異常または呼吸運動機能障害が原因となって,肺動脈の圧が上昇し,右心室の肥大をきたした状態をいう。先天性の心臓病や左心不全によって後方障害として二次的に肺高血圧をきたしたものは,肺性心には含まれない。

 体静脈から右心房にもどった血液は,右心室の拍動によって肺動脈に移行し,多くの枝分れした肺毛細血管を通過する際に肺胞との間で血液ガスの交換を行う。呼吸器疾患によって換気が悪く,肺胞内が低酸素状態におちいると,肺動脈は機能的に収縮し,肺動脈圧は上昇する。このようになる原因疾患としては重症肺結核,肺気腫,肺繊維症,肺囊胞症などの肺実質の疾患があり,両側性の胸膜肥厚などの胸膜疾患などによっても起こる。したがって肺疾患が慢性的に経過し,原因疾患への治療が有効に行われなければ,肺高血圧は慢性化し,右心室肥大をもたらす。一方,肺血管性病変に伴う肺高血圧の原因としては,肺毛細血管に血栓がつまり,血管床が減少する病変と,肺動脈の筋性中膜の異常肥厚による原発性肺高血圧症が代表的である。前者は肺塞栓と呼ばれ,多くは下肢の静脈血栓が遊離することにより起こり,重篤な急性症状を伴う。欧米では死亡原因の比率が高い。後者は先天性心奇形に合併することがある。また原発性肺高血圧症に血栓を併発し,それを繰り返すことがある。

 肺性心には右心室肥大の型から右心不全に至る病型がみられるが,症状が進むにしたがって呼吸困難,チアノーゼ,頻脈,肝腫大等を認めるようになる。心電図では右心室肥大所見が明らかであり,胸部X線写真では肺動脈主幹部が突出する。また超音波心エコー図では,肺動脈弁の特徴的な肺高血圧所見とともに,右心室腔の拡大がみられる。肺塞栓の診断はむずかしく,剖検して肺塞栓とわかったものの半数以上は生存中に肺塞栓と診断されなかったとされている。急性,慢性肺性心の予後は不良で,治療しにくく,肺高血圧と診断された後5年以内に右心不全に至る。
心不全
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺性心」の意味・わかりやすい解説

肺性心
はいせいしん

WHO(世界保健機関)では、肺の機能をはじめ構造にも影響を与える疾患の結果、発生した右心の肥大をいい、左心室障害や先天性心疾患によるものを除く、と定義している。基礎疾患としては、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患とくに肺気腫(きしゅ)および高度進展肺結核が多いが、そのほか、びまん性間質性肺炎、肺線維症、強皮症などがある。右室肥大は臨床的に早期には把握しがたいが、右心不全状態になれば診断は比較的容易である。咳(せき)、痰(たん)、呼吸困難、チアノーゼ、頸(けい)静脈怒張、肝腫大(しゅだい)などが認められる。低酸素血症、高炭酸ガス血症があり、胸部X線写真では肺動脈主幹部の拡大とともに末梢(まっしょう)動脈の細小化および減少がみられ、心電図では右室肥大所見がみられる。治療は、肺性心に陥ってしまってからでは遅すぎる。早期診断、早期治療とともに予防がたいせつである。喫煙、大気汚染、粉塵(ふんじん)、刺激性ガスを避けるほか、上気道炎やインフルエンザの感染予防、肥満の防止、適度の運動を行うのがよい。

[山口智道]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺性心」の意味・わかりやすい解説

肺性心
はいせいしん
pulmonary heart disease; cor pulmonale

肺心症ともいう。肺の病気のために,肺動脈末梢の抵抗が大きくなり,主として右心室の負担が増し,肥大して右室不全を起した状態をいう。慢性肺疾患 (塵肺,肺線維症,気管支拡張症,肺気腫,慢性気管支炎,肺結核,サルコイドーシスなど) ,肺の先天性嚢胞症,脊柱後彎症などで起ることが多い。

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