(読み)タスキ

デジタル大辞泉 「襷」の意味・読み・例文・類語

たすき【×襷/手×繦】

和服の袖やたもとがじゃまにならないようにたくし上げるためのひも。背中で斜め十文字に交差させ両肩にまわして結ぶ。
一方の肩から他方の腰のあたりに斜めにかける、輪にした細長いひも。「次走者に―を渡す」
ひもや線などを斜めに交差させること。また、そのような形や模様。
漢字で、「戈」などの「ノ」の部分。
古代、神事に奉仕するための物忌みのしるしとして肩にかけるひも。
「白たへの―を掛けまそ鏡手に取り持ちて」〈・九〇四〉
[補説]「襷」は国字。

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精選版 日本国語大辞典 「襷」の意味・読み・例文・類語

た‐すき【襷・手繦】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 古代、神事奉仕の物忌みの標(しるし)として肩にかける清浄な植物繊維の紐。
    1. [初出の実例]「天香山の真坂樹を以て鬘にし、蘿〈蘿、此をば比舸礙(ひかげ)と云ふ〉を以て手繦〈手繦、此をば多須枳(タスキ)と云ふ〉にして」(出典:日本書紀(720)神代上)
  3. 幼児の着物の袖を背にかけて結びあげる紐。
    1. [初出の実例]「今宮こもんの白き綾の御衣(ぞ)一かさねたてまつりて、たすきかけて〈略〉はひありき給ふ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
    2. 「ただひめ君のたすきひきゆひ給へるむねつきぞ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)薄雲)
  4. 和服の袖をたくしあげて活動しやすくするために、両肩から両わきへ斜め十文字形になるようにかけて結ぶ紐。
    1. 襷<b>③</b>〈北斎漫画〉
      〈北斎漫画〉
    2. [初出の実例]「きゃうげんはかまくくり、たすきかけ、上にかみしも、ゑほし、ちひさ刀」(出典:虎明本狂言・煎物(室町末‐近世初))
  5. 紐・線などを、斜めに交差させること。また、その模様。たすきがけ。
    1. 襷<b>④</b>
    2. [初出の実例]「経文などの紐を結(ゆ)ふに、上下よりたすきにちがへて」(出典:徒然草(1331頃)二〇八)
  6. 杉戸、板塀(いたべい)などの上部に、細い木を斜め十文字形に打ち違え、飾りとしたもの。
    1. [初出の実例]「襷(タスキ)の入りし網代塀(あじろべい)」(出典:歌舞伎・貞操花鳥羽恋塚(1809)四立)
  7. 漢字の構成要素の一つで、「戈」や「才」などに見られるような「ノ」。
    1. [初出の実例]「弋は夷力反。〈略〉是にたすきを加れば戈」(出典:壒嚢鈔(1445‐46)二)
  8. ほこづくり(戈旁)」の古称。〔落葉集(1598)〕
  9. 一方の肩から他方の腰へ斜めにかける細い布。
  10. たすきぞり(襷反)」の略。〔相撲講話(1919)〕

襷の語誌

( 1 )記紀では「手繦」「手次」などと表記され、神事などの際、袖が供え物に触れるのを防ぐ手段として用いた。
( 2 )「襷」は国字。「二十巻本和名抄‐一二」に「襷裨 続斉諧記云織成襷〈本朝式用此字 云多須岐 今案所以音義未詳〉」とある。


た‐すけ【襷・手繦】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 「たすき(襷)」の変化した語。〔浪花聞書(1819頃)〕
  3. ( 牛・馬の用いる「たすき」の意で ) 鞦(しりがい)のこと。〔訓蒙図彙(1666)〕

すき【襷・襁】

  1. 〘 名詞 〙 小児を背負うのに用いる帯。おぶいひも。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「襷」の意味・わかりやすい解説

襷 (たすき)

仕事をする際に着物の袖やたもとをたくしあげておくひも。日本神話に天の岩屋戸の前で天鈿女(あめのうずめ)命が蘿(ひかげ)(日蔭蔓(ひかげのかずら))を手(たすき)にしたとあるのが文献の初出であるが,古墳出土の埴輪にたすきをしたものがある。これらはともに巫女が着用した例で,御膳を献ずるのに古くはたすきで腕をつって持ち上げたといい,神への奉仕や物忌のしるしとされていた。古代の衣服は筒袖であったから,たすきは労働用ではなくもっぱら神に奉仕する者の礼装の一部であった。《日本書紀》允恭天皇条に〈諸人は木綿(ゆう)手をかけて盟神探湯(くかたち)し〉とあり,《万葉集》には〈白栲(しろたえ)のたすきをかけ まそ鏡手にとりもちて天つ神仰ぎ祈(こ)い請(の)み〉とある。このほか,御食(みけ)を献ずる際にたすきをかける例も祝詞(のりと)などに見える。また平安時代にも,伊勢神宮その他の神社では神をまつるときに神人は木綿襷(ゆうだすき)をかけた。今日でも神事や祭礼の際に神官がたすきをしたり,民俗芸能の舞手がたすきをする例が見られる。桃山時代の風俗屛風絵には田植女がたすきを背中で十字にあやどって長くたらした姿が描かれているが,田植は神聖な行事であるから,これも神事に携わる者あるいは神に召されたものの表示といえるだろう。富山県には戦前まで,田植の際に新婚の花嫁が婚礼で結んだ緋ぢりめんのしごきでたすきをかける習慣もあった。現在ではたすきがけのまま神仏に参ったり客の応対にでるのは非礼とされ,五島列島ではたすきがけでご飯をたべるとへその緒を身体に巻きつけた子どもが生まれるという。

 たすきが一般庶民に普及するのは袖の長い着物を着るようになった室町時代以降である。しかし12世紀後半の《信貴山縁起絵巻》に,すでに女性がたすきがけで水汲みや瓜取りをしている姿が描かれている。江戸時代には町人,職人,茶屋女もたすきをかけるようになり,日常の服装の一部となった。和服が衣生活の主体であった昭和初期ころまで,たすきは階層や性別を問わず生活必需品であった。たすきの材料は,古代には日蔭蔓,木綿,ガマ(蒲)などが使われ,《万葉集》には〈木綿襷〉や〈玉襷〉の名が見えている。玉襷は勾玉や管玉などをとおしたたすきで必ずしも美称ではない。また明治・大正ころまで料理屋などの職人は短く竹を切ってひもにとおした竹だすきをしていたという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「襷」の意味・わかりやすい解説


たすき

和装用具の一つ。着物の袂(たもと)を紐(ひも)でからげて、仕事の能率をあげるために用いられるもの。「襷」は国字で、古くは手繦とも書いた。現在では袂を始末する用具の一つであるが、古墳時代の人物埴輪(はにわ)の女子像には筒袖(つつそで)の小袖に掛けている姿がみられるところから、神事の際の神に奉仕する意味が含まれていたことを物語るものであろう。後世になって、小袖の袂が長く大きくなるにつれて、本来の意味は失われ、仕事の能率をあげることへ、つまり儀礼から実用へと変わったのである。襷の材料は、古代には木綿(ゆう)があり、江戸時代には縮緬(ちりめん)、木綿(もめん)などの絎(くけ)紐、あるいは絹糸木綿糸を編んでつくった組紐、よしの竹を約15ミリメートルに切ったものを糸で通した竹襷や、ガラス玉を通した水晶襷、数珠(じゅず)玉を通した玉襷などがある。農家では多く藁(わら)襷をする。襷の掛け方は、1本の紐の両端を結んで、一ひねりして左右の袖を通すか、さらに一ひねりして、8字形の中に通したりする。また紐を結ばずに首に掛け、両わきの下を通してから、首の紐を上から通して左右に出してこれを花結びにした例が『法然上人(ほうねんしょうにん)絵伝』の絵巻や名古屋城の屏風(びょうぶ)のなかにみられる。そのほか、襷の一端を口にくわえて袖下を通して別の袖の上から下に回して襷の両端を結ぶ方法、また京都壬生(みぶ)狂言では、踊りながら目にも留まらぬ速さで結ぶ方法などもある。

[遠藤 武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「襷」の意味・わかりやすい解説


たすき

和服で仕事をするとき手の運動を自由にするため袖をからげる紐。木綿,モスリン,縮緬などのくけ紐や,絹糸,木綿糸の組紐,縄などを用いる。襷の掛け方は,普通背中でX字形に結ぶが,このほか背中で花結びにするもの,ただ斜めに右肩から左脇下に掛けるもの,2本の襷をそれぞれ肩から斜めに掛けて交差させるものなどがある。古文献には神事に際して木綿手襷 (ゆうだすき) を掛けたことがみえ,実用より儀礼的な意味をもっていたと思われる。現在でも祭礼のときの若者の襷,田植えのときの早乙女の襷など,神を祀るときの礼装の一つとされている。伊豆の新島などでは水晶玉やムグラの実を糸に通したものや,しの竹を1~2cmの長さに切ってこれに糸を通した竹襷などがある。

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百科事典マイペディア 「襷」の意味・わかりやすい解説

襷【たすき】

和服の袖(そで)を肩にからげるために用いる紐(ひも)。労働のとき和服の袖がじゃまになるので背中に十字に襷をかけるが,古代の埴輪(はにわ)の筒袖に襷がけしたのは神事の服飾といわれ,万葉集には枕詞(まくらことば)で玉襷の名が見える。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【晴着】より

…今では外出着の意味に用いるが,本来はハレの日に着る着物で,礼装,式服,正装,盛装,忌衣などの意味に用いる。祭日や冠婚葬祭,誕生から成人式までのたびたびの祝日や年祝の日は,ふだんとは違うハレの日で,その日に着る着物が晴着である。ハレの日に対して普通の日をケ(褻)といったが,この語は早くすたれて,日常の着物は常着,ふだん着,野良着などと呼んでいる。地方によっては,節日に着る着物という意味で,晴着を〈せつご〉(東北地方),〈盆ご〉〈正月ご〉〈祭ご〉(和歌山,兵庫,岡山,香川),また生児の〈宮まいりご〉(岡山),娘の〈かねつけご〉(岐阜),嫁入りの〈よめりご〉(岡山),年祝の〈やくご〉〈祝いご〉(香川,鳥取,岡山)ともいった。…

※「襷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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