ドイツの哲学者ニーチェの著作《ツァラトゥストラ》(1883-85)の中で,人間にとっての新たな指針(和辻哲郎の用語では〈方向価値〉)として情熱的に説かれた言葉。その熱っぽさが,19世紀末の微温的市民社会と精神的閉塞状況からの脱出を願う青年知識層に広く迎えられた。超人は民衆を離れ,孤高の中で人間の卑小さの絶えざる克服をめざす。超人は人間という〈暗雲〉からひらめく〈稲妻〉〈狂気〉である。〈人間は動物と超人とのあいだに張りわたされた一本の綱なのだ〉。人間の新たな可能性を求めるこの超人を導く原理は,生と芸術の根源に潜む〈力への意志〉である。既成のキリスト教道徳を否定した,新たな美的で情熱的な生への志向がここにある。後にG.B.ショーはこのテーマを男女関係の次元で戯曲化し《人と超人》を書いた。しかし超人概念は,〈金髪の野獣〉といったニーチェの言葉とともに,やがてナチスのイデオロギーの中で悪用されることにもなる。
執筆者:三島 憲一
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…彼によれば,このヨーガは,自己の内に神的実在を体験することによって,自己が自己の位相そのままに,全面的に変質することである。このときに個人存在は聖性を帯びることになり,〈超人superman〉,聖なる実在,全知全能者となり,歓喜を得る。しかし,超人はその状態から下降し,超越心の光と力を経験的世界にもたらして人類の無知を排除する。…
…彼はとくに《哲学的断片への後書》(1846)において,客観的真理が人間を生かすのではなく〈主体性内面性が真理である〉と語り,単独者として神の前で主体的に生きる人間を宗教的〈実存〉と呼んだ。ニーチェもまた不断に脱自的であらざるをえない人間を〈力への意志〉に基づく〈超人〉と名づけ,無意味な自己超克を繰り返しているかに思われる運命を肯定することに意味を発見した。〈実存哲学〉の語が定着するのは,第1次大戦後の動向のうちとくに《存在と時間》(1927)に表明されたハイデッガーの哲学を念頭に置いて,これを〈人間疎外の克服を目指す実存哲学〉と呼んだF.ハイネマンの著《哲学の新しい道》(1929)以降であり,ヤスパースがこれを受けて一時期みずから〈実存哲学〉を名のった。…
…そしてこの《ツァラトゥストラ》で後期の思想が始まったと普通に言われている。 後期には〈力への意志〉,ニヒリズム,超人,永劫回帰,〈価値の転換〉といった中心的思想の多少なりとも連関した叙述をめざして,さまざまな変奏を加えたアフォリズムが書きつがれていく。《善悪の彼岸》(1886),《道徳の系譜学》(1887),《偶像の黄昏》(1889),《ニーチェ対ワーグナー》(1888脱稿),《ワーグナーの場合》(1888),《アンチキリスト》(1888脱稿),そして自伝的著作《この人を見よ》(1888脱稿)などがそうした作品群である。…
※「超人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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