骨に細菌が侵入して、化膿性の炎症を起こす病気です。骨の内部には骨髄がありますが、血流が豊富で、そこに最初の炎症が起こるため、骨髄炎と呼ばれています。急に症状が現れる急性化膿性骨髄炎と、慢性化した慢性化膿性骨髄炎とに分けられます。
慢性化膿性骨髄炎は、急性のものが治らないまま慢性化する場合と、最初から慢性型で発症する場合があります。
急性化膿性骨髄炎は、現在では、抗生物質の発達によって非常に治療効果が上がっていますが、慢性化すれば、再発を繰り返して治療が難しくなります。また、抗生物質が効きにくいMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが感染して発病する場合や、抵抗力が落ちている場合は、炎症が全身に波及する(
細菌が骨に侵入する経路には、以下の3つのパターンがあります。
①体内の他の部位に感染巣があって(扁桃腺や尿路の感染など)、細菌が血液を介して骨髄に到達する。
②化膿した病巣が近くにあって、そこから波及する。
③骨折や手術などによって細菌が直接骨髄に侵入する。
急性化膿性骨髄炎は、小児に多く、
細菌が骨髄の中で繁殖し、うみがたまると(
慢性骨髄炎では、腐骨の周囲を取り囲むように新しい骨が形成されることにより、炎症の病巣はそれ以上は広がりませんが、長期に細菌がとどまりやすくなり、慢性の感染が持続します。
糖尿病、血液
感染は細菌または真菌類によって引き起こされます。原因となる菌は、黄色ブドウ球菌が最も多く、最近ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の比率が高まっています。その他、
慢性化膿性骨髄炎では局所症状はみられますが、発熱などの全身症状はあまりみられません。経過が長くなると、皮膚に孔(あな)があいて(
血液検査では、白血球数の増加、赤血球沈降速度の亢進、C反応性蛋白(CRP)の陽性など、炎症性の変化がみられますが、慢性化膿性骨髄炎で症状が落ち着いている時は、明らかな異常所見がみられない場合もあります。
急性化膿性骨髄炎の初期段階では、X線像では変化が現れにくく、その場合はエコー(超音波)、CT、MRI、骨シンチグラフィなどによる画像検査が有用です。小児では、発症後1~2週あたりからX線像で骨の変化がみられることもあります。慢性化膿性骨髄炎では、骨の変化がみられる場合が多く、X線検査が有用で、上記の検査に加え、瘻孔造影(うみが出ている孔から造影薬を注入して撮影)で病変部の範囲を確認することもあります。
さらに、使用する薬剤(抗生物質)の選択のため、原因となる菌を特定する検査が必要です。瘻孔から出ているうみ、あるいは注射器や手術などによって採取したうみや骨の一部を培養して、菌の種類と効果のある抗生物質を調べます。また、うみだけでなく血液からの細菌培養を行うこともあります。
菌が証明されれば、診断はほぼ確定できますが、わからない場合もあり、その時は血液検査や画像検査から判断します。ただ、慢性化膿性骨髄炎の一部で
急性化膿性骨髄炎では、病巣の拡大や慢性化への移行を防止するためにも、診断されれば早急に治療を開始することが重要です。一般的には、入院、安静のうえ、有効な抗生物質を点滴しますが、細菌培養の検査が未確定の場合は、最も可能性のある抗生物質を使用します。
この治療によっても改善がみられないようであれば、手術による治療が必要となります。とくに慢性化膿性骨髄炎では腐骨や血行障害により、抗生物質が十分行き届かないため、手術となる場合が多いようです。
手術は、骨に短冊状の窓を開け、中にたまっているうみや壊死した骨をすべて取り除きます。この部位に再び残った菌が繁殖しないように、抗生物質を含んだ骨セメントや血流の豊富な筋肉を骨の中に入れたり、持続
高圧酸素療法も慢性化膿性骨髄炎に有効であり、手術と組み合わせて行われることがあります。
早く治療を開始すれば、それだけ早く治りやすいので、前述のような局所の症状が現れた場合には、すぐに整形外科を受診する必要があります。とくに小児の場合は、骨の変形などの後遺障害が残る可能性があり、迅速な対応が重要です。
田中 浩
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
骨に起こった感染症をいう。厳密には,骨膜の感染症を骨膜炎,骨質に起こったものを骨炎というが,これらが個々に起こることはほとんどないため,これらを包括して骨髄炎という。
病原菌は,主としてグラム陽性の黄色ブドウ球菌で,そのほか連鎖球菌,肺炎球菌であるが,近年はグラム陰性杆菌によるものもときどきみられる。病原菌が骨に到達する経路には,鼻咽腔などの化膿巣から血行を介して感染するもの,近隣の化膿巣から骨に波及するもの,開放創を通じ外界から直接骨に到達するものの三つがあるが,圧倒的に血行性のものが多く,これを血行性化膿性骨髄炎と呼ぶ。
若年者に多く,長骨(管状骨),とくに下肢骨の大腿骨遠位骨幹端部,脛骨近位骨幹端部など骨幹端部に最も発症しやすい。血行性化膿性骨髄炎は急性と慢性に分けられる。急性のものは,多くは発症が急激で,局所に腫張,熱感,発赤,圧痛などの炎症症状が著しく,ときには全身・局所症状を欠く非定型的発症を示すものもみられる。諸検査では,赤沈値の亢進,CRPの陽性化,白血球増加などがみられ,病初の菌血症の時期には流血に病原菌が検出されることがあるが,その率は低い。X線検査では,異常は発症と同時には現れず,学童児では発症後10~14日くらい経過すると初期変化を呈する。治療としては,全身・局所の安静,抗生物質療法が行われる。局所の安静にはギプス副子が多く用いられる。抗生物質療法は,発症初期には病原菌やその感受性が不明のまま行わざるをえないが,病原菌の多くが黄色ブドウ球菌のペニシリン耐性菌であることから,耐性ブドウ球菌用ペニシリンか第一世代のセフェム系を第一選択として与える。これらの初期療法が無効な場合や,初めから局所の炎症が高度の場合には,早期に手術によって,〈のみ〉で骨に窓を開け,内圧の高まった骨髄内の膿を誘導する。これによって苦痛を和らげ,慢性化への移行を防止することができる。
慢性血行性化膿性骨髄炎は急性血行性化膿性骨髄炎から移行したものである。病的肉芽や腐骨が複雑な形態の骨病巣に充満し,これを硬化した骨が取り囲み,多くは瘻孔(ろうこう)形成がみられる。このようになると,まことに難治となり治療はむずかしい。治療は,徹底した十分な病巣搔爬(そうは)と死腔の充てん(塡)が重要であるが,近年これら難治な慢性血行性化膿性骨髄炎に対し局所持続洗浄法が行われる。この方法は,病巣を十分に摘除した後,創を閉鎖し,流入用,流出用の2本のチューブを死腔の中に入れ,このチューブを通じて抗生物質や繊維素溶解酵素を溶解した生理食塩水を持続的に流して,局所を洗浄する方法である。
慢性一次性骨髄炎といわれているブローディの骨膿瘍Brodie abscessは,長骨の骨幹端部に円形あるいは楕円形の骨透明像を生じ,かるい局所の炎症症状を示すのみで,搔爬,骨移植などにより予後の良好なものとして知られているが,最近は,このブローディの骨膿瘍を含めて,全身・局所症状の非常に緩慢かあるいはまったく欠如した非定型的発症を示すものがあり,骨腫瘍その他の疾患と誤られやすい。慢性骨髄炎の一つとして近来最も多いのは,開放骨折あるいは皮下骨折の手術後に続発するものである。これらの骨髄炎は,慢性血行性化膿性骨髄炎と同じ病態を呈するが,病変がより限局性である点が異なる。治療は慢性血行性化膿性骨髄炎に準じて行われる。急性・慢性血行性化膿性骨髄炎の合併症としては,骨端線が破壊されれば患肢の短縮を,逆に骨端線が刺激されれば患肢の過成長を伴い機能障害が起こる。また急性期に巨大な腐骨を生じ,これを摘出すれば骨の連続性が断たれ,可動性を残す欠損偽関節を生じる。また関節に波及すれば化膿性関節炎を生じ,関節の病的脱臼あるいは関節強直を生じる。長期にわたり瘻孔が存続している場合には,ときに瘻孔壁から癌腫が発生する。
執筆者:河路 渡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
骨髄の中に細菌その他の病原体が侵入し、化膿(かのう)性炎症をおこした状態。骨質、骨膜、周辺の皮膚にも炎症が波及して発赤、腫脹(しゅちょう)、疼痛(とうつう)、発熱がみられる。原因はブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎菌、インフルエンザ菌などで、肺炎、腸チフス、化膿性潰瘍(かいよう)、扁桃炎(へんとうえん)に続いておこりやすい。好発部位は大腿骨(だいたいこつ)、頸骨(けいこつ)、上腕骨、橈骨(とうこつ)の中間部で、扁平骨にはまれである。最初は骨髄の蜂巣織炎(ほうそうしきえん)の形で炎症が始まるが、やがて膿(うみ)がたまり始めると、骨質を貫いているハーバース管を通って化膿が骨外に拡大し、骨膜下に膿がたまる。また、骨質も侵されて壊死(えし)になり腐骨ができると、それを囲むようにして新生骨ができて、骨柩(こつきゅう)となり、慢性化して難治性となる。結核菌による骨髄炎、骨の破壊はカリエスとよばれる。初期に抗生物質を多量に用いて細菌を死滅させるが、切開排膿、腐骨の摘出、骨の欠損の処置など、治療には時間がかかる。
[伊藤健次郎]
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