高市黒人(読み)タケチノクロヒト

デジタル大辞泉 「高市黒人」の意味・読み・例文・類語

たけち‐の‐くろひと【高市黒人】

奈良前期の万葉歌人持統・文武朝に旅の歌を残し、叙景歌先駆をなすといわれる。生没年未詳。

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精選版 日本国語大辞典 「高市黒人」の意味・読み・例文・類語

たけち‐の‐くろひと【高市黒人】

  1. 奈良前期、持統・文武朝頃の歌人。伝未詳。「万葉集」に一八首の旅の歌がおさめられている。叙景歌の代表的歌人山部赤人の先駆をなすといわれる。生没年未詳。

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改訂新版 世界大百科事典 「高市黒人」の意味・わかりやすい解説

高市黒人 (たけちのくろひと)

万葉歌人。生没年不詳。藤原京時代(694-710)の柿本人麻呂らとほぼ同時期の歌人。羈旅歌(きりよか)のみ18首を《万葉集》にとどめる。叙事的な文体により旅途属目の景物の鮮明なイメージを造型した。〈桜田へ鶴(たず)鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮干にけらし鶴鳴き渡る〉(巻三)。その心情表出は,情意的な形容詞,副詞を用いることが少なく,疑問・推量などの句法によって懐古漂泊の感傷的情調を添えることが多い。〈何処にか舟泊て(ふなはて)すらむ安礼(あれ)の崎漕ぎたみゆきし棚無し小舟〉(巻一)。《古今集》大歌所(おおうたどころ)御歌に〈しはつ山ぶり〉として収める歌は黒人の作であり,黒人は歌舞をつかさどる役所のために歌を提供する歌人であったかとも思われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高市黒人」の意味・わかりやすい解説

高市黒人
たけちのくろひと

生没年未詳。8世紀前半の歌人。683年(天武12)に連(むらじ)の姓を賜った高市県主(あがたぬし)の家系に属し、持統(じとう)・文武(もんむ)両朝に仕えた下級官人であったらしい。『万葉集』に短歌18首を残す。すべて旅中の作で、その足跡は、大和(やまと)のほか、山城(やましろ)、近江(おうみ)、摂津から尾張(おわり)、三河、越中(えっちゅう)の諸国に及ぶ。官人機構の拡大とともに地方へ赴任する官吏が増加し、交通も頻繁となって、黒人のような旅の歌人を生んだのである。黒人は好んで自然を詠み、叙景的な歌をつくっているので、後の山部赤人(やまべのあかひと)の先蹤(せんしょう)とすべき叙景歌人ともいわれる。しかし赤人よりも主観的な詠嘆をあらわにする傾向が強い。黒人の歌に「旅にしてもの恋しきに山下の朱(あけ)のそほ船沖に漕(こ)ぐ見ゆ」や「四極山(しはつやま)うち越え見れば笠縫(かさぬひ)の島漕ぎ隠る棚無し小舟(をぶね)」のように遠ざかる舟を歌うことが多いのは、旅人の感ずるあてどない漂泊感や、人間の根源的な不安を象徴的に表すとみられる。

[稲岡耕二]

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朝日日本歴史人物事典 「高市黒人」の解説

高市黒人

生年:生没年不詳
大和時代の歌人。閲歴は定かでなく,『万葉集』によって,持統太上天皇の,年月未詳の吉野行幸および大宝2(702)年の三河行幸に供奉したことが知られるのみ。また,奈良朝移行後の作品は確認されないため,持統・文武朝(687~707)ごろに活躍したかといわれる。推定作を含めて短歌18首が残るが,すべて旅中のものであり,「羈旅の歌八首」(巻3)が代表的。「旅にしてもの恋しきに山下の赤のそほ舟沖に漕ぐ見ゆ」「いづくにか舟泊てすらむ安礼の崎漕ぎたみ行きし棚なし小舟」のごとく,好んで舟を素材とし,漠とした旅愁を漂わせる作品に特色がある。柿本人麻呂より少しく遅れて登場したらしく,集団的な感情を歌う風潮から離れ,個性を打ち出す方向に進んでいる点が注目される。「桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る」など,観照的な叙景の態度をも示しつつあり,山部赤人の作風の先駆をなす役割を果たしていよう。

(芳賀紀雄)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「高市黒人」の解説

高市黒人 たけちの-くろひと

?-? 飛鳥(あすか)時代の歌人。
高市県主(あがたぬし)の一族で,持統・文武朝につかえる。大宝元年(701)の持統上皇の吉野行幸,翌年の三河行幸のときの歌や山城・近江(おうみ)・摂津・尾張(おわり)・越中などの旅の歌18首が「万葉集」にある。
【格言など】何処(いづく)にか船泊(ふなは)てすらむ安礼(あれ)の崎漕ぎ廻(た)み行きし棚無(たなな)し小舟(「万葉集」)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高市黒人」の意味・わかりやすい解説

高市黒人
たけちのくろひと

持統,文武朝の万葉歌人。下級官吏として生涯を終えたらしい。『万葉集』に近江旧都を感傷した作があり,大宝1 (701) 年の持統太上天皇の吉野行幸,翌年の三河国行幸に従駕して作歌している。ほかに羇旅 (きりょ) の歌や妻と贈答した歌がある。『万葉集』にある黒人の歌は,高市古人あるいは高市作と伝えるものを含めて短歌 18首,すべて旅の歌である。なお,機知的な,ユーモラスな作品もあり,この時期の歌人としては珍しい存在。

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百科事典マイペディア 「高市黒人」の意味・わかりやすい解説

高市黒人【たけちのくろひと】

万葉歌人。生没年不詳。柿本人麻呂とほぼ同時期の歌人で,人麻呂にやや遅れて宮廷にかかわりをもったと考えられている。《万葉集》に短歌18首を残しているが,いずれも羇旅(きりょ)歌で,地名や旅中に目にした景物を叙事的に詠み,鮮明なイメージと哀切な情調を定着させている。しかし,それらの旅の性格は不明で,諸説がある。

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