混合性結合組織病(読み)こんごうせいけつごうそしきびょう(英語表記)Mixed connective tissue disease

六訂版 家庭医学大全科 「混合性結合組織病」の解説

混合性結合組織病
こんごうせいけつごうそしきびょう
Mixed connective tissue disease
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 混合性結合組織病(MCTD)は、抗U1­RNP抗体が陽性で、全身性エリテマトーデスSLE)、強皮症(きょうひしょう)SSc)、そして多発性筋炎(たはつせいきんえん)(PM)・皮膚筋炎(ひふきんえん)(DM)などの病気の症状を同時にもっている病気です。

 しかし、一般にそれぞれの病気の軽い症状が重複して存在し、ステロイドによる治療に対する反応もよく、膠原病(こうげんびょう)のなかでは比較的予後のよい疾患とされています。その点が2つ以上の病気の典型的な重症症状を同時にもっている重複症候群とは異なっています。

 MCTDは20~50代の女性に多く発症し、男女比は1対16.2となっています。全国の推定患者の数はおよそ6000人とされています。

原因は何か

 原因は不明ですが、この病気になりやすい遺伝的な素因に加え、ウイルス感染などの環境因子が関与していると考えられています。その結果、自分の体を攻撃するような免疫の異常(自己免疫)が起こり、先に述べた抗U1­RNP抗体のような自分の体の成分に対する抗体(自己抗体)が産生され、病気が進展していきます。

症状の現れ方

 この病気では前述したようないくつかの膠原病の症状が、同時にみられます(表6)。

 最も高い頻度でみられる症状は、冷たい水や空気に触れた時に起こるレイノー現象で、皮膚の色が白、紫、赤と3相に変化します。この症状が強いと、しびれや痛み、そしてこわばりを感じたりします。また、ソーセージのようにはれ上がった指や手背(しゅはい)がほとんどの患者さんでみられます(図3)。さらに、病初期には手などを中心に関節の痛みやはれもよくみられます。

 そのほか、発熱、体重減少やリンパ節腫脹(しゅちょう)などの全身症状や、筋炎による筋肉痛・筋力低下、さらにSScでみられる食道の蠕動(ぜんどう)運動障害に伴う胸やけ間質性肺炎(かんしつせいはいえん)と呼ばれる肺炎により肺が硬くなる肺線維症(はいせんいしょう)が起こったりします。また、肺や心臓を包んでいる膜の炎症による胸痛、さらに10%以下と頻度は低いものの、肺の血管が線維化により細くなって起こる肺高血圧症もみられます。肺高血圧症は本疾患では最も治りにくい症状で、死因の第1位となっています。

 まれに、無菌性髄膜炎(むきんせいずいまくえん)、精神症状、けいれん発作(ほっさ)など、SLEと同じような中枢神経の異常も起こります。

検査と診断

 抗U1­RNP抗体は、細胞の核成分に対する自己抗体である抗核抗体の一種ですが、100%の患者さんの血清で検出され、診断の必須条件となっています。

 そのほかの血液検査では白血球数の減少がみられたり、筋炎に伴い筋由来のクレアチニンキナーゼなどの酵素が高値となったりします。また、関節炎などに関連し、赤沈やCRPが高値となります。

 尿では蛋白尿などの異常がみられることがあります。

治療の方法

 軽症の患者さんではとくに治療を必要としない場合もありますが、内臓の障害を認める場合はステロイドによる治療を行います。その投与法や投与量は病気の重症度で異なります。

 その他、レイノー現象に対して循環改善薬、関節痛に対して非ステロイド系抗炎症薬が投与されたりします。また、肺高血圧症に対しては、抗凝固療法、血管拡張薬、さらに重症例にはプロスタグランジンの持続的注入療法や勃起(ぼっき)不全に用いるバイアグラと同じ薬(シルデナフィル)を用いたりします。

病気に気づいたらどうする

 レイノー現象や手指の腫脹に気づいたら、膠原病の専門医を受診してください。

 普段は冷たい水や空気に直接当たらないように手足を保護し、指先などにけがをしないように気をつけましょう。

 通院中は定期的な検査や医師の指導に基づく治療が重要です。自分で勝手に判断して薬の量などを変更しないようにしましょう。

髙崎 芳成


混合性結合組織病
こんごうせいけつごうそしきびょう
Mixed connective tissue disease
(皮膚の病気)

どんな病気か

 シャープにより1972年に提唱された疾患概念で、全身性エリテマトーデス全身性強皮症、および多発性筋炎の部分症状を同時にもつ膠原病(こうげんびょう)です。血液検査では抗U1­RNP抗体が高値陽性で、ほかの自己抗体が陰性であることを特徴とします。肺高血圧症を伴う場合は、治療に抵抗して重篤となることがあります。

 原因は不明です。

症状の現れ方

 レイノー症状と手指のソーセージ様の腫脹(しゅちょう)(はれ)が初発症状として特徴的です。手の腫脹は強皮症のような皮膚硬化には進行しないで、長期間はれた状態が持続します。それに加えて全身性エリテマトーデス(SLE)に類似した紅斑、多関節炎、筋炎を伴います。

 約30%に間質性(かんしつせい)肺炎、約5%に肺高血圧症を伴います。動悸(どうき)息切れ労作時(ろうさじ)の呼吸困難がある場合は注意が必要です。

検査と診断

 皮膚生検、血液検査、胸部X線検査、肺拡散能、胸部CTが必要です。血液では抗U1­RNP抗体の高値と、ほかの自己抗体の陰性もしくは低値が特徴的です。肺高血圧症の診断には超音波ドップラー法が有用です。

治療の方法

 SLEに準じてステロイド内服療法を行います。肺高血圧には、軽症例ではプロスタグランジン製剤が、重症例ではボセンタン(トラクリア)やシルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)が有効です。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科専門医、リウマチ膠原病専門医に受診してください。

関連項目

 膠原病

衛藤 光

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「混合性結合組織病」の解説

こんごうせいけつごうそしきびょう【混合性結合組織病 Mixed Connective Tissue Disease(MCTD)】

[どんな病気か]
 膠原病(こうげんびょう)という名前でくくられる一群の病気は、合併することが知られています。1人の患者さんが2つの膠原病をもっていたり、ある膠原病から、ほかの膠原病に移行したりするのです。
 1972年、アメリカの医師シャープらは、混合性結合組織病という独立した病気があることを提唱しました。全身性エリテマトーデス、強皮症(きょうひしょう)、多発性筋炎(たはつせいきんえん)の要素を混合してもつ人がおり、そのような人は自分の細胞の核に対する抗体(こうたい)(抗核抗体(こうかくこうたい))の一種、抗RNP抗体を共通してもっているというのがその理由です。
 しかし、3つの膠原病の混合する割合が患者さんによってちがうこと、抗RNP抗体は、この病気以外に、全身性エリテマトーデスなどでもみられることから、これを独立した病気として診断することには異論もあります。
 日本では、厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))のひとつに指定され、診断基準もつくられているので、膠原病のひとつとして確立されています。また、医療費の自己負担分の多くは公費で補助されます。
 混合する3つの病気の、それぞれの程度は軽いのですが、肺高血圧症(はいこうけつあつしょう)(「原発性肺高血圧症」)をともなう場合には、治療が困難で、死につながります。
 20~50歳の女性におこりやすい病気です。
[症状]
 手指の皮膚が蒼白(そうはく)から青紫、さらに赤くなるレイノー現象は、ほとんどの患者さんでみられ、初発症状でもあります。手指や手の甲(こう)の腫(は)れ、むくみはこの病気に特徴的です。
 全身性エリテマトーデスの症状としては、関節の痛み、顔の紅斑(こうはん)、胸膜炎(きょうまくえん)や心膜炎(しんまくえん)、腎炎(じんえん)がみられます。
 強皮症の症状としては、皮膚硬化(手や顔にかぎられることが多い)、肺線維症(はいせんいしょう)、食道の病変(飲み込みにくい、胸やけ)が生じます。
 多発性筋炎の症状としては、比較的軽い筋力低下が肩や上腕(じょうわん)、大腿(だいたい)(太もも)にみられます。そのほかに、肺高血圧症が5~10%の患者さんにおこります。肺高血圧症を合併すると心不全で死亡する率が高まります。
[検査と診断]
 この病気を診断するには、抗RNP抗体が陽性であることが条件となっています。陰性であれば、この病気は否定できます。
 血液検査では、白血球(はっけっきゅう)の数が減少したり、血小板(けっしょうばん)が減少しているのがわかります。
 筋肉の病変をみるために、血液中の筋肉由来の酵素(こうそ)の測定や筋電図検査が行なわれます。
 尿には、たんぱくが出ます。胸のX線検査で、胸膜炎、心膜炎、肺線維症、肺高血圧の有無を判断します。
 肺機能検査、心電図、心エコー図の検査も行なわれます。
 前に述べた3つの膠原病のうち、少なくとも2つの病気の病変がみられることが、診断の条件になります。
[治療]
 治療は、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬を使用します。使用量は病変の種類と程度によって決まりますが、全身性エリテマトーデスと比べ、少ない量でも効果があります。
 しかし、強皮症の病変や肺高血圧症に対しては、よい治療法がありません。
[日常生活の注意]
 病状にあった生活をおくることが必要です。慢性の病気ですから、海水浴やスキーをしない、防寒を心がける、過労を避ける、たんぱく質・カルシウムに富んだ食事をする(肥満を避ける)、禁煙する、などを心がけましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「混合性結合組織病」の意味・わかりやすい解説

混合性結合組織病
こんごうせいけつごうそしきびょう
mixed connective tissue disease; MCTD

全身性エリテマトーデス (→紅斑性狼瘡 ) ,強皮症多発性筋炎の3つの膠原病が重複したような症状を示し,血清中に特有な抗核抗体が出現する自己免疫疾患の1つ。 1972年にアメリカの G.C.シャープらによって提唱された。初期症状としては,手指のはれや,手指が蒼白化するレイノー現象 (→レイノー病 ) が起ることが多く,さらに皮膚硬化など強皮症様の症状に加え,発熱や顔面紅斑,リンパ節のはれなどのエリテマトーデス様症状,また筋力低下や筋肉痛など多発性筋炎様の症状が混合して現れる。肺高血圧症など重い合併症を伴うこともある。 30~40歳代での発症が多く,男女比は1対 13~16と圧倒的に女性に多い。原因不明であるため対症療法が中心で,副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤などが投与される。 93年に厚生省から難病に指定された。

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内科学 第10版 「混合性結合組織病」の解説

混合性結合組織病(膠原病にみられる肺病変)

(6)混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)
 本疾患は高力価の抗U1-RNP抗体の出現を特徴とするもので,慢性間質性肺炎と肺高血圧の合併が問題となる.肺高血圧の発症は肺の線維化の程度とは相関しないが,MCTDの死亡原因の第1位である.胸膜炎も10%程度にみられる.[千田金吾]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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