肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈の血圧が高くなる病気です。ほとんどが心臓や肺の病気によって起こりますが、原因不明で、心臓も肺自体も悪くないのに肺高血圧症になることがあり、これを原発性肺高血圧症と呼びます。
比較的若い女性に多く、未治療例では平均生存期間が2.8年と予後が悪く、治療が難しい疾患です。ただ極めてまれな疾患で、発症頻度は人口100万人あたり1~2人とされています。
原因は不明ですが、原発性肺高血圧症の約6%は家族性で、遺伝子学的な解析が行われています。
肺へ十分に血液を送ることができないことが原因ですが、結局は心拍出量が低下して全身への血液の供給が不足します。その結果、疲労しやすくなったり、運動時の息切れや胸痛が現れます。脳への血流が低下すると失神することもあります。進行すると顔色が悪くなり、
また、まれに、関節痛やレイノー現象(寒さや精神的緊張が引き金となり、手の先が白色や紫色になって冷感やしびれが出るもの)が現れることもあります。
肺高血圧症を起こす可能性のある心臓や肺の病気がないことを確認しなければなりません。そのため、心電図、胸部X線、胸部CT、心臓超音波、腹部超音波、胸部MRI、肺機能、動脈血ガス分析、肺換気・血流シンチグラム、睡眠ポリグラフなどの検査を行う必要があります。最終的には右心カテーテル検査を行って肺動脈の血圧を直接測定して診断します。
肺の毛細血管を拡張させて肺への血流を増やし、なるべく多くの酸素を取り込めるように、酸素吸入、一酸化窒素吸入、ニカルジピン塩酸塩などのカルシウム拮抗薬、エポプロステノールナトリウム(フローラン)というプロスタグランジン製剤、ボセンタン(トラクリア)というエンドセリンレセプター拮抗薬、シルデナフィル(レバチオ)というホスホジエステラーゼ阻害薬を使います。血液の流れをよくするためには、ワルファリンなどの抗凝固薬を使います。
これらの薬を使っても改善しない場合は、肺移植が有効とされています。
金澤 實, 加賀 亜希子
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肺血管に閉塞(へいそく)性病変をきたすような心・肺疾患がないにもかかわらず、肺動脈圧の上昇(肺高血圧)をきたす疾患をいう。20~40歳代の女性に多く特定疾患(難病)に指定されている。病理組織学的には、肺動脈の中膜の筋性肥厚や肺小動脈の内膜肥厚による血管内腔狭窄(ないくうきょうさく)が認められる。肺高血圧による二次的変化として、肺動脈起始部の拡大や心臓の右室の高度肥大をきたす。このような変化は胸部X線写真や心電図の異常として認められることが多い。また聴診上、肺動脈領域に雑音が聴取されることもある。さらに診断を確かなものにするには心臓カテーテル検査を行い、肺動脈圧の上昇を確かめる必要がある。症状としては、呼吸困難、胸部痛、脱力感、失神、チアノーゼ、血痰(けったん)、咳(せき)などがみられる。治療として、肺動脈の血栓・塞栓症の合併が認められる場合は抗凝固剤などの投与が行われるが、効果は一定していない。そのほか、自律神経作動薬なども試みられている。予後は不良で、症状発現より1年ないし10年で右心不全をきたすとされている。原因はいまだ不明であるが、先天異常、自己免疫説、膠原(こうげん)病、自律神経異常などが考えられている。
[木村和文]
…したがって肺疾患が慢性的に経過し,原因疾患への治療が有効に行われなければ,肺高血圧は慢性化し,右心室肥大をもたらす。一方,肺血管性病変に伴う肺高血圧の原因としては,肺毛細血管に血栓がつまり,血管床が減少する病変と,肺動脈の筋性中膜の異常肥厚による原発性肺高血圧症が代表的である。前者は肺塞栓と呼ばれ,多くは下肢の静脈血栓が遊離することにより起こり,重篤な急性症状を伴う。…
※「原発性肺高血圧症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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