多発性筋炎(読み)たはつせいきんえん(その他表記)polymyositis

改訂新版 世界大百科事典 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎 (たはつせいきんえん)
polymyositis

骨格筋炎症性変化を主体とする筋疾患。他の疾患に伴わず症状が骨格筋に限られているものを狭義の多発性筋炎といい,著しい皮膚症状を伴うものは皮膚筋炎という。また全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,結合組織の病変によって,皮膚の硬化をきたす強皮症などの膠原病(こうげんびよう)やサルコイドーシスシェーグレン症候群などに伴うものもある。原因は不明であるが,自己免疫的機序やウイルス感染などの可能性が考えられている。発病は5~15歳の小児と45~60歳の中高年者に多いが,どの年齢でも起こりうる。女性が男性より約2対1の割合で多い。

症状は骨格筋の筋力低下と萎縮であり,左右対称に体幹・四肢近位部の筋肉の障害を主体とし,とくに腰部大腿部の筋肉が侵されやすい。筋肉痛も高頻度に生ずる。皮膚筋炎の場合の皮膚症状は紅斑から落屑(らくせつ)性変化までさまざまであるが,特徴的なのはヘリオトロープと呼ばれる眼瞼・頰部・前額部・爪周囲などの紫紅色の変化である。またとくに高齢男性患者に悪性腫瘍を伴うものが多く,筋症状の発現後1~2年してから見つかることがあるので注意を要する。検査所見としては血清CPK値の上昇がみられる。病理学的には筋繊維の広範な変性・破壊と炎症細胞浸潤があり,筋肉の再生像もみられる。

副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン60mg/日程度)が広く用いられている。約1~2ヵ月投与し,効果が得られたら徐々に減量していくが,急激な減量は再発を招くので慎重に行わねばならない。アザチオプリンなどの免疫抑制薬も用いられることがある。急性期には安静にし,拘縮を防ぐためのマッサージや被動運動を行い,その後に適度なリハビリテーションを開始する。治療法の進歩とともに予後は改善してきているが,完治する例は必ずしも多くない。再発も多く,その際の治療は前よりもむずかしい。
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百科事典マイペディア 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎【たはつせいきんえん】

主として四肢の躯幹(くかん)に近い筋肉の筋力低下や萎縮(いしゅく)を生ずる疾患。高熱・頭痛・嘔吐(おうと)とともに上肢筋などに牽引(けんいん)痛・圧痛を生じ,皮膚は腫脹(しゅちよう)・硬化し,麻疹疱疹(ほうしん),紅斑などを呈し,皮膚筋炎とも呼ばれ,膠原(こうげん)病の一種とされる。呼吸筋,嚥下(えんげ)筋が冒されると致命的なことがある。治療には解熱薬,鎮痛薬,副腎皮質ホルモン剤ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),免疫抑制剤などを投与。筋萎縮症には温浴,マッサージなどを行う。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎
たはつせいきんえん
polymyositis

骨格筋,ときに皮膚が急性,亜急性,または慢性の経過をとって侵される非特異的炎症疾患をいう。筋肉の炎症を主徴とするリウマチ性疾患の一種。原因は不明であるが,自己免疫またはウイルス感染が考えられている。症状としては,筋肉の萎縮と筋力低下,皮膚紅斑,レイノー現象,発熱,関節炎などが生じる。急性および亜急性のものに対しては副腎皮質ステロイドで治療する。

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世界大百科事典(旧版)内の多発性筋炎の言及

【運動麻痺】より

…このような痙性四肢麻痺はまた大脳の広範な病変によっても生ずるが,そのような場合には,単に運動麻痺のみでなく,知能や意識の障害,視覚・聴覚の障害,痙攣(けいれん)発作などを伴うのが普通である。多発性筋炎進行性筋ジストロフィー症のような全身を侵す筋肉疾患,ギラン=バレー症候群のような多発性根神経炎,運動ニューロン疾患などでは,弛緩性の四肢麻痺を呈することが多い。これらの疾患,とくに後2者においては,顔面筋やその他の脳神経系の運動麻痺をきたすことも少なくない。…

【皮膚筋炎】より

…多発性筋炎のうち,著しい皮膚症状の伴うものをいう。顔とくに目の周囲や髪の生え際,手指,ひじ,ひざなどに淡紫色の特有の紅斑が現れるのが特徴で,浮腫や筋力低下などの筋肉症状を伴う。…

※「多発性筋炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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