多発性筋炎(読み)たはつせいきんえん(その他表記)Polymyositis

六訂版 家庭医学大全科 「多発性筋炎」の解説

多発性筋炎
たはつせいきんえん
Polymyositis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 多発性筋炎は、骨格筋に原因不明の炎症が生じ、主として四肢近位筋(ししきんいきん)頸部(けいぶ)咽頭筋(いんとうきん)の対称性筋力低下と、それによる障害を起こす病気です。同時に皮膚症状を伴うと皮膚筋炎と呼ばれます。どちらも筋症状の特徴には差がないため、一括して多発性筋炎・皮膚筋炎と表して扱われることが多いです。

 多発性筋炎は、筋疾患と全身性自己免疫疾患の2つの側面があります。ほかの自己免疫疾患や悪性腫瘍を合併することが少なくありません。40~60歳の女性に多く発症します。

原因は何か

 病因は不明です。筋肉を中心に自己免疫反応(何らかの原因で自分の筋肉に自己抗体を作り、自分の筋細胞を破壊する反応)が生じて発症するとの考えが有力です。

症状の現れ方

 初発症状として、数週から数カ月にわたって亜急性に進行する下肢近位筋(体の中心に近い筋肉)の筋力低下が多くみられ、歩行や階段昇降に困難を生じます。座位から立ち上がることが困難になってくることも少なくありません。

 上肢近位筋が侵されると高いところの物がとれなくなり、頸部(けいぶ)(首)の筋力低下では頭を枕から挙上できないなどの症状が出ます。咽頭筋の筋力低下により嚥下(えんげ)構音(こうおん)障害もときにみられます。筋痛は約半数に認められる比較的特徴的な症状のひとつで、急性期に多くみられます。筋萎縮は最初ありませんが、慢性化すると出現します。

 さらに皮膚に何らかの症状(眼瞼(がんけん)部の浮腫を伴った紅斑(こうはん)、手指関節背側の紅斑など)が多くみられ、皮膚症状が主であれば皮膚筋炎の可能性が大きくなります。

 呼吸器病変として間質性肺炎(かんしつせいはいえん)や呼吸筋筋力低下による低換気を認めます。心筋炎から不整脈や心不全となり、重要な死因のひとつとなっています。

検査と診断

 血液検査では、骨格筋特異的酵素であるクレアチンキナーゼアルドラーゼや血清ミオグロビン値が上昇します。抗核抗体の検査では、本疾患に特異的な抗Jo­1抗体について調べます。筋電図では筋原性変化をみます。筋生検では筋内膜や血管周囲に炎症性細胞浸潤を認めます。

 以上から、筋炎の存在と皮疹を検討して診断をします。鑑別診断としては進行性筋ジストロフィー症が重要です。

治療の方法

 治療の開始が早いほど治療効果が期待できます。薬物療法としては、ステロイド薬、免疫抑制薬、γ(ガンマ)­グロブリン大量静注療法などがあります。

 急性期には安静と保温が必要です。回復期になれば軽いストレッチからリハビリテーションを開始し、慢性期には関節拘縮(こうしゅく)廃用性萎縮(はいようせいいしゅく)の予防と、過度の運動は避けるような日常生活指導をします。

 多くの場合で機能障害の改善がみられ、社会生活をあまり不自由なく送ることができるようになります。しかし、一部は長期間にわたり高度な機能障害が残り、徐々に進行します。

病気に気づいたらどうする

 内科あるいは皮膚科を受診してください。

藤井 正司


多発性筋炎
たはつせいきんえん
Polymyositis
(子どもの病気)

どんな病気か

 筋肉を障害する原因不明の炎症性疾患です。7歳前後の小児から老人まですべての年齢にみられ、いろいろなタイプがあります。筋炎とともに皮膚の症状がみられる場合は皮膚筋炎(ひふきんえん)といわれます。

原因は何か

 原因不明ですが、自分の身体に対する抗体が現れてきて、不都合な症状を引き起こしてくる自己免疫性疾患に伴って起こることがあります。

症状の現れ方

 発熱や全身の倦怠感(けんたいかん)とともに大腿、上腕の筋肉や(くび)の筋力低下がみられます。数週~数カ月の経過で筋力低下は進んでいきます。お風呂に出入りするのがつらくなったり、頭を枕から持ち上げにくくなったりします。筋肉に痛みを感じることも多いようです。皮膚の症状としては、眼の周囲の皮膚や手指の関節の背面が紫赤色にはれぼったくなったりします。

 合併症として、全身の血管に炎症が起こったり、呼吸不全に陥りやすい間質性(かんしつせい)肺炎がみられたりします。高齢者の場合は悪性腫瘍の発生にも注意が必要です。

検査と診断

 血液検査で筋肉由来の酵素(CK、LDHAST、アルドラーゼ)の値の上昇がみられます。障害を受けた筋肉に針を刺して検査する筋電図と、筋肉の一部を切開して筋肉を取り、顕微鏡で調べる筋生検が、診断のために必要な検査です。

治療の方法

 副腎皮質ステロイド薬の内服が有効です。効果がみられない場合や重い場合、合併症がある場合は、パルス療法といわれるステロイド薬の集中大量点滴投与を行います。

病気に気づいたらどうする

 筋肉だけにとどまらない病気なので、全身的なチェックを十分に受けてください。病気や薬に対する理解が必要なので、医師との十分な連携をとるようにします。

平松 公三郎


多発性筋炎
たはつせいきんえん
Polymyositis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 膠原病(こうげんびょう)の一種としての多発性筋炎がまず有名です。患者さんの数も多く、診断に苦慮することも多い病気です。何らかの原因で自分の筋肉に自己抗体をつくり、自分の筋細胞を破壊すると考えられます。

症状の現れ方

 発熱、関節炎(関節が赤くはれ、痛い)、筋痛とともに筋力低下が数カ月の間に進行します。皮膚症状が合併すると皮膚筋炎(コラム)と呼ばれますが、本質的には同じ病気と考えます。

検査と診断

 血清CK(クレアチンキナーゼ)値の上昇と、筋生検(組織の一部を採取して調べる検査)での筋細胞の壊死(えし)・再生所見と細胞浸潤(しんじゅん)の出現によって診断できます。血清Jo­1抗体の出現もみられます。

治療の方法

 膠原病の一種ですから、副腎皮質ステロイド薬の投与が効果的です。発病後6カ月以内に治療を開始することが大切とされています。ステロイド薬の効果が思わしくない症例では、免疫グロブリン大量静注療法が有効だという報告もあります。

 筋痛がある間は安静にしているべきですが、筋痛がなくなったら積極的にリハビリテーションを行うことが大切です。

 中年以降の多発性筋炎の半分近くが、悪性腫瘍(しゅよう)(がん)の一症状です。発症した時点ではがんが見つからないことが多く、数年経過してから初めてがんが見つかることも少なくありません。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎 (たはつせいきんえん)
polymyositis

骨格筋の炎症性変化を主体とする筋疾患。他の疾患に伴わず症状が骨格筋に限られているものを狭義の多発性筋炎といい,著しい皮膚症状を伴うものは皮膚筋炎という。また全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,結合組織の病変によって,皮膚の硬化をきたす強皮症などの膠原病(こうげんびよう)やサルコイドーシスシェーグレン症候群などに伴うものもある。原因は不明であるが,自己免疫的機序やウイルス感染などの可能性が考えられている。発病は5~15歳の小児と45~60歳の中高年者に多いが,どの年齢でも起こりうる。女性が男性より約2対1の割合で多い。

症状は骨格筋の筋力低下と萎縮であり,左右対称に体幹・四肢近位部の筋肉の障害を主体とし,とくに腰部・大腿部の筋肉が侵されやすい。筋肉痛も高頻度に生ずる。皮膚筋炎の場合の皮膚症状は紅斑から落屑(らくせつ)性変化までさまざまであるが,特徴的なのはヘリオトロープと呼ばれる眼瞼・頰部・前額部・爪周囲などの紫紅色の変化である。またとくに高齢男性患者に悪性腫瘍を伴うものが多く,筋症状の発現後1~2年してから見つかることがあるので注意を要する。検査所見としては血清CPK値の上昇がみられる。病理学的には筋繊維の広範な変性・破壊と炎症細胞の浸潤があり,筋肉の再生像もみられる。

副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン60mg/日程度)が広く用いられている。約1~2ヵ月投与し,効果が得られたら徐々に減量していくが,急激な減量は再発を招くので慎重に行わねばならない。アザチオプリンなどの免疫抑制薬も用いられることがある。急性期には安静にし,拘縮を防ぐためのマッサージや被動運動を行い,その後に適度なリハビリテーションを開始する。治療法の進歩とともに予後は改善してきているが,完治する例は必ずしも多くない。再発も多く,その際の治療は前よりもむずかしい。
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百科事典マイペディア 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎【たはつせいきんえん】

主として四肢の躯幹(くかん)に近い筋肉の筋力低下や萎縮(いしゅく)を生ずる疾患。高熱・頭痛・嘔吐(おうと)とともに上肢筋などに牽引(けんいん)痛・圧痛を生じ,皮膚は腫脹(しゅちよう)・硬化し,麻疹疱疹(ほうしん),紅斑などを呈し,皮膚筋炎とも呼ばれ,膠原(こうげん)病の一種とされる。呼吸筋,嚥下(えんげ)筋が冒されると致命的なことがある。治療には解熱薬,鎮痛薬,副腎皮質ホルモン剤ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),免疫抑制剤などを投与。筋萎縮症には温浴,マッサージなどを行う。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多発性筋炎」の意味・わかりやすい解説

多発性筋炎
たはつせいきんえん
polymyositis

骨格筋,ときに皮膚が急性,亜急性,または慢性の経過をとって侵される非特異的炎症疾患をいう。筋肉の炎症を主徴とするリウマチ性疾患の一種。原因は不明であるが,自己免疫またはウイルス感染が考えられている。症状としては,筋肉の萎縮と筋力低下,皮膚紅斑,レイノー現象,発熱,関節炎などが生じる。急性および亜急性のものに対しては副腎皮質ステロイドで治療する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の多発性筋炎の言及

【運動麻痺】より

…このような痙性四肢麻痺はまた大脳の広範な病変によっても生ずるが,そのような場合には,単に運動麻痺のみでなく,知能や意識の障害,視覚・聴覚の障害,痙攣(けいれん)発作などを伴うのが普通である。多発性筋炎進行性筋ジストロフィー症のような全身を侵す筋肉疾患,ギラン=バレー症候群のような多発性根神経炎,運動ニューロン疾患などでは,弛緩性の四肢麻痺を呈することが多い。これらの疾患,とくに後2者においては,顔面筋やその他の脳神経系の運動麻痺をきたすことも少なくない。…

【皮膚筋炎】より

…多発性筋炎のうち,著しい皮膚症状の伴うものをいう。顔とくに目の周囲や髪の生え際,手指,ひじ,ひざなどに淡紫色の特有の紅斑が現れるのが特徴で,浮腫や筋力低下などの筋肉症状を伴う。…

※「多発性筋炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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