タブノキ(英語表記)Machilus thunbergii Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ
Machilus thunbergii Sieb.et Zucc.

一名イヌグス(犬樟)。クスノキ科の常緑高木で,一般に高さ15~20m,直径50~60cmになり,ときには高さ25m,直径2mに達することもある。樹皮は灰白色~灰褐色でほぼ平滑。葉は互生し,枝先に集まってつく。葉柄2~3cm,葉身は長さ8~15cm,幅3~7cmの長楕円形~長倒卵形で,革質,全縁,葉の表は濃緑色で光沢があり,裏はやや白色を帯びる。5月ころ,新枝の葉腋(ようえき)に円錐花序を生ずる。花は小さく,淡黄緑色の両性花。花被片は6枚。おしべは12本で4輪に並ぶ。めしべは1本。液果は径約1cmの球形で,秋に黒紫色に熟する。シイ類,カシ類とともに暖帯林を代表する樹種の一つで,本州,四国,九州,南朝鮮,琉球,台湾,中国中南部に分布し,とくに沿海地に林を形成する。葉の幅の細いものをホソバイヌグス(一名ホソバタブ)F.stenophylla(Koidz.)Sugimotoとして区別することがある。

 タブノキ属Machilusには熱帯アジアを中心に約60種があるが,日本にはもう1種アオガシ(一名ホソバタブ)M.japonica Sieb.et Zucc.が近畿以西の暖帯に分布する。タブノキの材は,心材が暗灰褐色~暗桃褐色,気乾比重約0.65で,建築造作,家具,器具,細工物などに広く用いられるが,良材は少なくなっている。クスノキのような芳香はない。また樹皮を乾燥し,粉末にしたものを水でねると粘稠(ねんちゆう)となるので,線香などの製造に用いる。樹皮にはタンニンが含まれ,八丈島では褐色の染色に利用していた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ
たぶのき
[学] Machilus thunbergii Sieb. et Zucc.
Persea thunbergii (Sieb. et Zucc.) Kosterm.

クスノキ科(APG分類:クスノキ科)の常緑高木。イヌグスともいう。高さ15メートル、胸高直径1メートルに達する。幹は暗褐色、枝は緑色で赤みを帯びる。葉は厚く、倒卵形、長さ8~15センチメートル、裂くと芳香がある。花は5月、枝の先から出た円錐(えんすい)花序につき、黄緑色を呈する。果実は球形の液果で、黒紫色に熟す。本州(青森県、岩手県以西)、四国、九州、沖縄、朝鮮半島、中国、フィリピンに分布し、暖地や沿海地の山中に生える。タブノキの語源は不明。

 葉を蚊取り線香に、樹皮を線香や染料に利用する。また材は器具材、家具材、建築材としても用いられる。

[門田裕一 2018年8月21日]

文化史

『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』(3世紀)に倭国に産する木としてあげられたなかの豫樟(よしょう)をタブノキとする見方がある(山田宗睦(むねむつ)『魏志倭人伝の世界』)。『日本書紀』(神代紀)で、素戔嗚尊(すさのおのみこと)は浮宝(うくたから)(船)に杉と豫樟をあげる。『万葉集』の大伴家持(おおとものやかもち)の歌「磯(いそ)の上の都万麻(つまま)を見れば根を延(は)へて 年深からし 神さびにけり」(巻19)の都万麻もタブノキと解釈されている。縄文時代から利用され、福井県の鳥浜貝塚から出土した木鉢の一つはタブノキ製と推定されている。

[湯浅浩史 2018年8月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ
Machilus thunbergii

クスノキ科の常緑高木。イヌグスともいう。暖地の照葉樹林の代表的な樹種で関東地方より西の海岸近くに自生し,中国から東南アジアまで分布は広い。葉は長楕円形で表面には光沢があり,裏面は白緑色で,枝先に多数が群がって互生する。初夏に,枝の先端に円錐花序をなして多数の花をつける。おしべは 12本あり,3本ずつが4輪をなし,最内部の3本は仮雄ずいとなる。果実は扁球形で黒紫色に熟する。樹皮から染料をとり,黄八丈の染色に用い,また樹皮を粉末にして線香の原料にする。

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百科事典マイペディア 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ

イヌグスとも。クスノキ科の常緑高木。本州〜沖縄の暖かい沿海地にはえる。葉は枝の先に集まってつき,長楕円形,革質で厚く,やや光沢があり,裏面は白みを帯びる。4〜5月,新葉とともに,小枝の先に黄緑色で6弁の小さな花を多数,円錐状につける。果実は平たい球形で,6〜7月黒紫色に熟す。材を建材,器具とし,樹皮から染料をとる。

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