ベーシックインカム(読み)べーしっくいんかむ(英語表記)basic income

翻訳|basic income

デジタル大辞泉 「ベーシックインカム」の意味・読み・例文・類語

ベーシック‐インカム(basic income)

所得補償制度の一。すべての国民に、政府生活に足る一定額を無条件支給するもの。貧困対策・少子化対策などを兼ねるほか現行生活保護失業保険制度などを廃止し、これに一本化することで、支給の行政コストを抑制できるとされる。莫大な財源を要することから、実施している国はない。BI。→負の所得税

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベーシックインカム」の意味・わかりやすい解説

ベーシックインカム
べーしっくいんかむ
basic income

最低限暮らしに必要な現金を、無条件ですべての個人に死ぬまで定期支給すること。「基礎所得保障」「最低生活保障」などとよばれるほか、英語の頭文字をとってBIと略されることもある。社会福祉政策の一つで、一種の生活保障である。所得、資産、能力、職歴などの条件を問わずに支給されるうえ、生活保護や配偶者控除が世帯単位の給付制度であるのに対し、個人が対象であるという特徴をもつ。通常、ベーシックインカムの導入と同時に、雇用保険や生活保護などの複雑化した社会福祉制度の簡素化・一本化が検討される。給付額が暮らしていくのに十分な水準である場合は完全ベーシックインカム、それだけでは不十分で他の社会保障制度と組み合わせる必要がある場合には部分ベーシックインカムといわれる。ベーシックインカムは貧困の削減につながるほか、無条件支給なので審査などの手間がかからず、行政コストを圧縮できる利点がある。また社会福祉制度を簡素化できるため「小さな政府」の実現に役だつとされる。一方で、給付に膨大な費用がかかり、財政負担が重くなるほか、働かなくても給付を受けられるため勤労意欲を減退させる欠点があるとされている。

 18世紀にベーシックインカム思想の萌芽(ほうが)がみられるとされており、トマス・ペインらの著作に最低限所得補償などの発想が盛り込まれている。最貧国の貧困や先進国の所得格差に関心が集まった21世紀に入り、ナミビア、インド、オランダなどでベーシックインカムの導入試験が実施され、2017~2018年に国家レベルの実験(月額560ユーロ給付)を初めて行ったフィンランドは、就労促進効果は限定的であるが、生活への満足度は高まったとの調査結果をまとめた。新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)流行による経済不況対策として、国連開発計画(UNDP)やローマ教皇が導入をよびかけ、スペインの低所得者向け生活最低限収入制度(単身生活者で月額最大462ユーロ支給)や日本の特別定額給付金(一律10万円支給)がベーシックインカムの類似制度であるとして導入論議が活発化した。日本では2017年(平成29)に民進党(当時)が日本型ベーシックインカム法案を国会に提出し、選挙時の公約に掲げる政党も相次いでいる。なお類似制度に、ミルトン・フリードマンが提唱した所得が課税基準に満たない人に不足額を給付する「負の所得税(negative income tax)」や、おもに社会主義者が提唱する「社会配当(basic allowance)」などがある。

[矢野 武 2020年12月11日]

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知恵蔵mini 「ベーシックインカム」の解説

ベーシックインカム

政府が国民全員に対し、生活に最低限必要と定められた現金を無条件で定期的に支給する仕組みのこと。失業保険・年金・生活保護など従来の社会保障制度が一定の受給資格を設けているのに対し、なんら条件を問われず支給されるもので、既存の社会保障制度が大幅に縮小されるか全廃されることを前提とする。メリットとして行政コストの削減、貧困・少子化問題の緩和、労働・生活スタイルの多様化などが、またデメリットとしては膨大な財源の確保、勤労意欲の低下などが考えられている。近年、世界的な貧困や貧富の格差の拡大が進む中で急速に関心が高まっているが、2015年12月現在まで、ベーシックインカムが採用された例はない。

(2015-12-10)

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