井手(読み)イデ

デジタル大辞泉 「井手」の意味・読み・例文・類語

いで〔ゐで〕【井手】

京都府南部、綴喜つづき郡の地名。左大臣橘諸兄たちばなのもろえ別荘を置いた所。西流する玉川山吹と蛙の名所として知られた。[歌枕
「かはづなく―の山吹散りにけり花のさかりにあはましものを」〈古今・春下〉

い‐で〔ゐ‐〕【井手】

田の用水として、水の流れをせき止めてためてある所。井堰いせき

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精選版 日本国語大辞典 「井手」の意味・読み・例文・類語

い‐で ゐ‥【井手】

[1] 〘名〙
① 田の用水のため、川などの流れをせき止めてあるところ。井堰(いせき)
万葉(8C後)七・一一〇八「泊瀬川流るる水脈(みを)の瀬を早み井提(ゐデ)越す波の音の清けく」
② (ため池などの堤の堰(せき)から水を流通させるところからいうか) 取引。かせぎ。
※浮世草子・当世宗匠気質(1781)三「商人より素人衆(しろとしゅ)がいでがづぶう成てきて」
[2] 京都府南部の地名。木津川に注ぐ玉川の扇状地にあり、奈良へ至る交通の要地。井手左大臣橘諸兄(たちばなのもろえ)が別荘をおいた所。ヤマブキとかわず(カエル)の名所。「井手の玉川」は六玉川(むたまがわ)の一つ。歌枕。
※古今(905‐914)春下・一二五「かはづなくゐでの山吹ちりにけり花のさかりにあはましものを〈よみ人しらず〉」

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改訂新版 世界大百科事典 「井手」の意味・わかりやすい解説

井手[町] (いで)

京都府南部,綴喜(つづき)郡の町。人口8447(2010)。東部丘陵と標高300~400mの山地からなり,山林が町域の大半を占める。西境を木津川が北流し,その沖積平野集落が立地し,水田が広がっている。古代には橘氏との関係が深く,橘諸兄の別荘相楽別業が置かれた。中世には玉井・安堵・石垣各荘があり,近世には大和街道の宿場として玉水宿が設けられていた。米作を中心とした農業が主産業であったが,JR奈良線と国道24号線が南北に走り,交通の便がよいため,近年は住宅地化が著しい。南東部の奥地にある田村新田は18世紀に開発された新田集落であり,多賀の集落はかつての高麗人の里といわれている。
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