八景(読み)はっけい

精選版 日本国語大辞典 「八景」の意味・読み・例文・類語

はっ‐けい【八景】

〘名〙 ある地域で、特にすぐれた八か所の景色
(イ) 瀟湘(しょうしょう)八景をはじめとする中国の八景をいう。
※新札往来(1367)上「夏桂山水。元輝八景。馬淵花鳥」
※詩学大成抄(1558‐70頃)七「瀟湘の八景の里に遠浦帰帆の一景あるぞ」 〔夢渓筆談‐巻一七〕
(ロ) 近江八景南都八景金沢八景日本八景、伏見八景、嵯峨八景、明石八景、松島八景など、日本の八景をいう。
※鈍鉄集(1331頃)「博多八景」
[語誌](1)中国、宋代の画家宋迪(そうてき)(=字は復古)が景勝地として名高い瀟湘周辺を描いた八枚の絵画が発端といわれる。宋代に画僧牧谿(もっけい)玉澗がでて以降、八景図は山水画の重要な画題として発展していった。一方、その賛としての詩も宋代の詩人(僧・覚範とも、蘇軾とも)に始まる。
(2)日本には三関、七高山などと呼ばれるものはあったが、それらは景観に関するものではなかった。瀟湘八景の絵画及び詩が鎌倉時代に伝わると、周文、宗湛、宗継、祥啓、雪村、相阿彌狩野元信、狩野永徳など多くの画家に描かれた。
(3)韻文学のほうでは、遅くとも一三世紀後半には瀟湘八景和歌定家とも、為相とも)が詠まれているが、特に一四世紀以降、五山の僧が多く詩題として取り上げるようになっていった。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「八景」の意味・読み・例文・類語

はっ‐けい【八景】

一国、一地方などで特にすぐれた8か所の景色。中国の瀟湘しょうしょう八景に始まる。日本では近江八景金沢八景南都八景日本新八景など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「八景」の意味・わかりやすい解説

八景 (はっけい)

一定の空間の中にある絶景を八つ定めて,八景としてめでる感覚は,中国から渡来したものである。本居宣長《玉勝間》巻十二にも,〈もともろこしの国の,なにがしの八景といふをならひてさだめたる〉と記されており,日本では慶長・元和(1596-1624)のころからしだいに人口に膾炙かいしや)しはじめた。最初にいいだされた八景は近江八景といわれ,京都円光寺の長老が近江に蟄居しているとき,中国の瀟湘(しようしよう)八景になぞらえたものという。すなわち,比良の暮雪,矢橋(やばせ)の帰帆,石山の秋月,勢田の夕照,三井の晩鐘,堅田落雁,粟津の晴嵐,唐崎の夜雨の八景である。これをモデルとして,各地に八景の称が次々と生まれた。京都の八景,南都の八景,嵯峨の八景,稲荷山の八景,泉涌寺の八景など,いずれも限定された空間の内部に定め,それらを描写する漢詩や和歌がそえられている。公家や武家の上流社会の風習で,江戸時代には大名旗本などの別荘のある土地に競って八景を作り,風流を楽しむ傾向があった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android