日本の五山の制が準拠した中国の五山は、インドの五精舎にならったとされ、南宋の寧宗のとき、禅宗で最上位の五官寺として定められた。日本では、鎌倉幕府滅亡後、後醍醐天皇によって、大徳寺、南禅寺の寺格を五山第一とすることにはじまる五山制度の方針が示されたが、五山の制を明確化、具体化したのは室町幕府であった。また、④の尼寺の五山の制定は、足利義満によって始められた。
禅宗寺院で最上の寺格を示す五つの官寺(政府が住持を任命する寺)。十刹(じっせつ)の上に位置する。中国・南宋(なんそう)代に、政府が特別の保護を与え管理するために設けられたのが始まりで、政治家史彌遠(しびえん)の奏上により、インドの五精舎(しょうじゃ)に倣って行われた。すなわち、(1)径山(きんざん)興聖(こうしょう)万寿寺、(2)北山景徳霊隠(りんにん)寺、(3)太白山(たいはくさん)天童景徳寺、(4)南山浄慈(じんず)報恩光孝寺、(5)阿育王山(あいくおうさん)広利(こうり)寺の5か寺で、それらを官寺の最上位とした。日本では1253年(建長5)建長寺を「五山第一」と称したのが五山の語の初出で、鎌倉中心に制定された形跡があるが、どの寺が五山に列せられていたかの確証はない。建武(けんむ)年間(1334~38)、第一南禅寺(大徳寺と同格)、第二東福寺、第三建仁寺、第四建長寺、第五円覚(えんがく)寺と、京都中心に制定されたのが、五山全部の名前の判明する最初のものである。足利尊氏(あしかがたかうじ)が政権を握り室町幕府が成立すると、京都派と鎌倉派、公家(くげ)派と武家派の対立緩和を目ざし、暦応(りゃくおう)年間(1338~42)、京・鎌倉の諸寺を、第一建長・南禅、第二円覚(えんがく)・天竜、第三寿福、第四建仁、第五東福、準五山浄妙と定めた。ここに五大官寺という五山本来の意味が失われ、最高位の官寺のなかにおける5段階の寺格という意味に転化した。以後しばしば五山の選択・位次の改定が行われたが、1386年(元中3・至徳3)、最終的に、五山之上南禅寺、五山第一天竜寺・建長寺、五山第二相国(しょうこく)寺・円覚寺、五山第三建仁寺・寿福寺、五山第四東福寺・浄智(じょうち)寺、五山第五万寿寺・浄妙寺という、京・鎌倉対等の各五山の位次が確定した。
一方、五山の語は広義には、五山・十刹・諸山という禅宗官寺に住持を出しうる資格をもつ禅宗各派の総称として用いられる。それは林下(りんか)に対して五山派あるいは五山叢林(そうりん)(単に叢林ともいう)などとよばれるもので、夢窓(むそう)派と聖一(しょういち)派がその主軸となって、官寺の止住、幕府の文化・外交の顧問として機能した。また五山派は日本漢文学史上きわめて重要な足跡を残し、五山文学を大成させ、近世儒学の母胎ともなった。さらに五山版と称される多数の出版物を開版するなど、五山禅僧によって形成された諸文化は、衣食住一般の文化にも多大な影響を与えた。
[石川力山]
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南宋の制にならった禅宗寺院の寺格。鎌倉幕府により始められたが,建武新政権は鎌倉中心の五山を改め,南禅寺を第1とし大徳寺を同格として建仁寺・東福寺などを加えた。室町幕府は1342年(康永元・興国3)第1を建長寺・南禅寺,第2を円覚寺・天竜寺,第3を寿福寺,第4を建仁寺,第5を東福寺と定めたが,86年(至徳3・元中3)南禅寺を五山の上に昇格させ,第1を天竜寺・建長寺,第2を相国寺・円覚寺,第3を建仁寺・寿福寺,第4を東福寺・浄智寺,第5を万寿寺・浄妙寺とし,これが以後の基準となった。
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…禅林(禅宗寺院)の官寺制度における3段階からなる寺格で,五山を最高位とする。官僚階級との接近をみた中国宋代の禅林は,一般社会の官僚機構を禅林運営に導入して官寺制度を確立し,インドの五精舎・十塔所にちなんだといわれる五山・十刹は南宋代に設定された。…
…釈迦が主として説法した五つの僧院たる祇樹給孤独園(ぎじゆぎつこどくおん)精舎,鷲嶺(じゆれい)精舎,獼猴江(みこうこう)精舎,菴羅樹園(あんらじゆおん)精舎,竹林精舎を天竺五精舎といい,なかでも須達(しゆだつ)長者が舎衛城の南にたてた祇樹給孤独園精舎は,祇園精舎の略称で,日本の文学でも親しく用いられた。中国や日本における五山の制は,天竺五精舎にならったものである。ビハーラ【礪波 護】。…
※「五山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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