大久米命(読み)おおくめのみこと

改訂新版 世界大百科事典 「大久米命」の意味・わかりやすい解説

大久米命 (おおくめのみこと)

古事記》の神武天皇条に久米氏の先祖としてあらわれる人物。《日本書紀》の同条では〈大来目(おおくめ)〉とあり,記紀の天孫降臨条にはそれぞれ〈天津久米命(あまつくめのみこと)〉〈天槵津大来目(あめくしつおおくめ)〉となっている。いずれも天孫ないし天皇警護,戦闘に従事したとされており,これは久米部(くめべ)なる部民の職掌にもとづくものであろう。オオクメノミコトはまた神武天皇の皇妃選定にさいし媒介役をつとめており,その職掌には近習的性格が含まれていたことを思わせる。なお《万葉集》の歌で大伴家持は,〈大伴の遠つ神祖(かむおや)のその名をば大来目主(おおくめぬし)と負ひ持ちて〉と詠んでいる。〈大来目主〉は久米部を率いる者の意で,もって武門の棟梁たる大伴の家名を誇示したのであろう。これらよりすれば〈大久米命〉ないし〈大来目〉は戦士団としての久米部を人格化した命名とみなされる。
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朝日日本歴史人物事典 「大久米命」の解説

大久米命

久米部を率いた久米氏の伝説上の先祖。『日本書紀』は大来目と表記。久米部は大和朝廷の軍事集団。『古事記』『日本書紀』によると,神武天皇の東征に,大伴氏の先祖道臣命と共に従軍し,大和平定を成功に導いたとされる。このとき歌われたという戦闘歌久米歌は,この集団の半農半猟的性格をよく表している。のちに宮廷歌舞のひとつとなり,儀式の際に演奏された。現在も宮内庁楽部で行われる勇壮な所作を伴う歌舞である。『古事記』によると,大久米命は結婚前の皇后に歌で呼びかけ,神武天皇との仲をとりもったとあり,近侍的性格をもっていたことを示している。また目のまわりに入れ墨をしていたともあり,初期の征服戦争時代の未分化王権の形態や,原始残存をしのばせるものがある。

(溝口睦子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「大久米命」の解説

大久米命 おおくめのみこと

記・紀にみえる久米直(くめのあたい)の祖。
「古事記」によれば,神武天皇の東征にしたがい,大和(奈良県)の宇陀(うだ)の豪族兄宇迦斯(えうかし)や,忍坂(おさか)の土蜘蛛(つちぐも)を討った。そのとき,兵の士気を鼓舞するためにうたわれたのが,久米歌とされている。「日本書紀」では大来目。

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