奈良県北東部の市。2006年1月菟田野(うたの),大宇陀(おおうだ),榛原(はいばら)の3町と室生(むろう)村が合体して成立した。人口3万4227(2010)。
宇陀市南部の旧町。旧宇陀郡所属。1956年宇太町と宇賀志村が合体,改称。人口4623(2005)。宇陀山地西麓,宇陀川上流の標高400~600mの丘陵地にある。中心集落は古市場で中世には市が開かれていた。明治中期の創業とされる毛皮産業が町の主要産業で,全国生産の70%を占める。山間部にあるため狭小な耕地が多く,零細な兼業農家が大半を占める。旧大宇陀町にかけて大和金属鉱業の大和水銀鉱山(1971年閉山)がある。古市場には宇太水分(うだのみくまり)神社があり,本殿は鎌倉時代の建築で国宝に指定。また宇賀志は《日本書紀》に載る兄猾(えうかし),弟猾(おとうかし)の本拠地と伝えられ(宇陀),付近の稲戸を中心に古墳が多い。
執筆者:松原 宏
宇陀市南西部の旧町。旧宇陀郡所属。人口8225(2005)。竜門山地の南東斜面と宇陀川流域に発達した宇陀盆地からなり,平均標高350mの高原地帯である。中心集落の松山は,近世初期は織田氏の城下町として栄え,六斎市も開かれた市場町であった。明治以降も郡役所が置かれるなど,宇陀郡の中心地である。主要産業は農業で,タバコ,シイタケ,花木類の栽培が盛ん。畜産試験場(現,県畜産技術センター)もあり,牧畜も行われている。吉野山地を南部にひかえ,吉野葛の集散地としても知られ,全国の4割を産する。壬申の乱では,吉野を出た天武がここを経由して東国に入った。《万葉集》に歌われた安騎野の地で,柿本人麻呂の〈東の野に陽炎の立つみえてかへりみすれば月傾きぬ〉は,軽皇子がこの地に狩をした際の歌である。松山城の西門の遺構である松山西口関門と江戸時代の薬草栽培地森野旧薬園は,国の史跡に指定されている。
執筆者:松原 宏
宇陀市中部の旧町。旧宇陀郡所属。人口1万8549(2005)。宇陀山地の入口にあたり,北部には室生火山群に属する額井(ぬかい)岳(812m)などがそびえる。町域の大半は山林で,宇陀川,芳野(ほうの)川沿いに耕地や市街地が広がる。江戸時代には伊勢街道の宿場町として栄えた。近年,近鉄大阪線沿線に宅地開発が進み,京阪方面への通勤者が多く人口が急増している。農業は米作を中心に,ホウレンソウ,ダリア,シイタケなどの栽培が盛んである。町内には八咫烏(やたがらす)神社や仏隆寺,鳥見山公園,室生ダムなどがある。北部は室生赤目青山国定公園に含まれる。
執筆者:松原 宏
宇陀市北東部の旧村。旧宇陀郡所属。人口5786(2005)。東は三重県に接し,南東部の宇陀山地と北西部の大和高原からなり,高低差が激しい。村の中央を走る断層崖下を宇陀川が北東流し,北部には笠間川が流れる。村域の大部分を山林が占め,主産業は農林業と室生寺を中心とする観光で,農業は米作のほか茶や野菜栽培が行われる。室生寺は〈女人高野〉として著名だが,室生川が宇陀川に合流するところにある大野寺は石仏(史)で有名。屛風ヶ浦とよばれる石英安山岩の岩壁に仏身約11.5m(光背とも約13.8m)の弥勒像を刻んだ磨崖仏で,後鳥羽院の発願により,宋人石匠の手になる。村内西部,染田の春日神社境内にある天満神社(染田天神)は南北朝期の創建で,天神講連歌会が当地域一帯の土豪,武士,僧侶らによって戦国末期まで催されていた。なお室生寺境内奥ノ院付近には暖地性シダ群落(天),向淵(むこうじ)にはスズラン群落(天)がある。室生寺を中心に村域の一部は室生赤目青山国定公園に含まれ,宇陀川沿いに近鉄大阪線と国道165号線が,南部を国道369号線が通じる。
執筆者:松原 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
奈良県北東部にある市。2006年(平成18)宇陀郡大宇陀(おおうだ)、榛原(はいばら)、菟田野(うたの)の3町および室生村(むろうむら)が合併して市制施行。北部は大和(やまと)高原、南部は宇陀山地の西麓(せいろく)、西端は竜門(りゅうもん)山地の南東斜面となっている。市域の中央を宇陀川が北東に向かって流れ、支流の芳野(ほうの)川、内牧川を合する。宇陀川に沿って国道165号、近畿日本鉄道大阪線が通じ、榛原地区で国道369号、370号と交差し、南西端部の大宇陀地区を国道166号が走る。
大宇陀地区の中心である松山は城下町で、町並みに往時のおもかげを残し、松山西口関門(黒門)は国の史跡に指定されている。松山は商家町として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。また、松山の西方には『万葉集』に詠まれた天皇の狩場である安騎野(あきの)がある。榛原地区の中心集落は萩原(はぎわら)で、伊賀・伊勢(いせ)を結ぶ初瀬(はせ)街道の宿場町として発達した。菟田野地区の中心は古市場(ふるいちば)、室生地区の中心は大野である。農業は野菜の抑制栽培、宇陀牛で知られる肉用牛の肥育などが行われ、また林業のほか、吉野葛(くず)や毛皮革などの地場産業も盛んである。榛原地区では近年住宅地化が著しい。女人高野(こうや)として知られる室生寺をはじめ、大野寺、宗祐(そうゆう)寺、戒長(かいちょう)寺、悟慎(ごしん)寺などの古刹(こさつ)や、国指定史跡の森野旧薬園、文祢麻呂(ふみねまろ)墓、大野磨崖仏(まがいぶつ)など、文化財が多い。宇太水分(うたみくまり)神社の本殿3棟が国宝に、室生山暖地性シダ群落と向淵(むこうじ)スズラン群落が国の天然記念物に指定されている。室生ダム周辺や額井(ぬかい)岳一帯は室生赤目青山国定公園に含まれている。面積247.50平方キロメートル、人口2万8121(2020)。
[編集部]
奈良県中東部。古代の宇陀郡は現在の宇陀市と宇陀郡の大部分を占め、「宇陀」は宇陀山地一帯をさすと考えられている。『古事記』神武(じんむ)天皇段に「其地より踏み穿(うか)ち越えて、宇陀に幸(い)でましき、故(かれ)、宇陀の穿(うかち)と曰(い)ふ」とあり、『万葉集』に「大和(やまと)の宇陀の真赤土(まはに)のさ丹(に)つかばそこもか人の我が言(こと)なさむ」とある。郡内には宇陀禁野(うだしめの)、肥伊(ひい)牧など皇室領の猟場があったといわれる。
[菊地一郎]
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